企業の不祥事を伝える報道では、必ずと言っていいほど「コンプライアンス」という言葉が登場します。コンプライアンス(compliance)は一般には「法令遵守」と訳されますが、現代の企業活動においてはもっと広く企業の倫理観や社会的責任まで問われています。「法律には違反していない」発言が近年、SNSや生活圏で○○警察と言われる行き過ぎた「正義」を振りかざす言動が問題になっています。彼らが追求する対象は法律違反をした犯罪者ではないけれど、自分尺度の正義感では許せないというのです。「あなたの行動は私や周囲の人に迷惑をかける」と一方的な主張を展開します。行動や言葉に出す人は少数でも、同じような思いを持つ人は少なくありません。自分は我慢し守っているのだから、周囲の人間もそれが当然であると同じ行動を期待し要求します。○○警察ほどではないにしても、ひとりひとりの中にはそれぞれの「正義」を求める気持ちがあります。不祥事が発覚したり事故を起こした企業が謝罪会見をする際に、「法律には違反していない」と発言して記者や社会から批判を受けることが度々ありました。大手教育情報会社ベネッセコーポレーションで個人情報漏洩が発覚した際には、外部から派遣された人間の犯行として自社は被害者だという立場で会見を行い、大手ファーストフードチェーンマクドナルドの海外工場で消費期限切れの材料を混入していたことが明るみに出た際も、謝罪会見で社長は「騙された、自分たちは被害者」という立場で会見に臨みました。その結果、両社ともマスコミ、顧客から猛烈な批判を受けることになり、業績も大きく落ち込みました。企業として法律違反は犯していないし被害者なのかもしれません。しかし、「本当の被害者は利用者・消費者である」と被害者に寄り添うことが期待されていたのに、その期待を裏切った結果でした。ドラマに見るコンプライアンス「倍返しだ」が一世を風靡し高視聴率を記録したTBSドラマの『半沢直樹』。原作の池井戸潤氏は数多くの企業小説を世に出し、『空飛ぶタイヤ』、『七つの会議』、『下町ロケット』、『花咲舞が黙ってない』など、多くの映画やドラマになっています。ご覧になった方も多いことでしょう。どの作品も企業が舞台ですが、主人公と対峙する宿敵は理不尽な社内ルールや上下関係に縛られ、保身のために主人公を苦しめます。主人公が正義=コンプライアンスを貫く姿に視聴者は共感するのではないでしょうか。コンプライアンス問題を考えるときには、第三者として共感できるかという視点で見るとわかりやすいでしょう。そして、その正義は時代と共に変わっていくのです。コンプライアンスとは、法律違反しないことではありません。お客様や従業員、あるいは株主や取引先そのほか全てのステークホルダー(利害関与者)の信頼や期待を裏切らず、応え続けることです。