新型コロナウイルスの感染拡大により、ついこの前まで日常だったことが非難の対象になってしまうことが増えてきました。緊急事態宣言が出され、県境を越えた移動や外出自粛を呼びかけられたときには県外ナンバーの車がいたずらされ、マスク無しや正しく使用せずに公共交通機関を利用したりすると、時には口論や喧嘩になったりもしています。和を乱さず横並びを大事にする日本の社会では、同じ組織やコミュニティではそれぞれに無言の同調圧力や空気が存在します。その組織・コミュニティでしか通じない言葉やルールも多く存在します。口に出すことはなくとも、いわゆる業界の常識といわれる暗部をかかえる業界は少なくありません。度々起こる食品表示偽装問題そんな業界の常識とされていた不正行為が明るみに出て、問題となったのが食品偽装です。2007年にはミートホープの牛肉ミンチの品質表示偽装事件を皮切りに、様々な加工食品で表示違反が見つかり問題になりました。また、ほぼ同時期に赤福や白い恋人、船場吉兆のスイーツなどで「まき直し」(賞味期限改ざん)も問題になりました。これだけ立て続けに発覚し問題になったのは、「かつて」はそれぞれの業界内では普通に行われていた「業界の常識」だったということです。ミートホープ事件が世間を騒がせたときにも、食肉加工業のある社長は「昭和の時代くらいまでは(表示と)違う肉を混ぜることも珍しくなかったけど、今時はやらないよねえ」と言っていました。2013年にはディズニーリゾートの3ホテルのレストランが、料理メニューの不適切表示(偽装)を公表(5月)したのを皮切りに、次々と全国のホテルが同様の行為を公表しました。メニューでは「芝エビ」と表示しておきながら、実際に使用されていたのは「バナエイエビ」だったり、「クルマエビ」が「ブラックタイガー」だったり、「フレッシュジュース」が「パックのジュース」だったり……10月には阪急阪神ホテルズが直営8ホテルなどにある計23カ所のレストランと宴会場で不適切表示がなされていたと公表しました。その際の謝罪会見が不適切であったために世間からの批判を浴び、社長が引責辞任しました。このことが引き金になったのか、全国のホテルに加え、百貨店のレストランまで雪崩を打ったように料理メニューの食材不適切表示(偽装)を公表しました。ホテルや飲食業界では、業界内での情報交換や転職、引き抜きが盛んです。上記のような食材の表示偽装はどこででも普通に行われていたのでしょう。発覚当時はどのホテルでも「メニュー表示と異なった食材を使用していたことに関するお詫びとお知らせ」をウェブサイトに掲載していましたが、今は削除されています。当時の掲載されていたお詫びには、社内調査の結果などが公表されていました。中には記録が残っているところまで遡って公表したところもありました。阪急阪神ホテルズは2006年から行われていたとしています。先述の食品偽造が世間で注目され批判されたのが2007年です。この時に自らの行為を正そうとしなかったのでしょうか? やはりホテル・レストラン業界の常識が判断の目を曇らせたのでしょうか。談合は建設業界の常識?その同調圧力が行き過ぎて誤った方向に向いてしまったものの一つが、談合といえます。公共工事の入札などでは参加事業者同士で入札価格を調整したり、事前に落札(受注予定業者)の順番を決めたりといったことが行われていました。最近の事例では、JR東海のリニア中央新幹線建設工事を巡って、大手ゼネコン4社が談合を行ったとして起訴されています(大林組、清水建設は起訴内容を認め有罪が確定、大成建設と鹿島は無罪を主張)。リニア談合、大林組と清水建設に課徴金計43億円命令へ:日本経済新聞(2021年2月1日閲覧)平成17年独禁法改正による課徴金率の引き上げとリーニエンシー制度(談合参加事業者の中で公正取引委員会に自主申告した順に課徴金を減免する制度)が導入され、また刑事罰引き上げやその他のペナルティ強化などで、もはや談合を行うことは各事業者にとっても引き合わない状況になっています。さすがに建設業界の常識や同調圧力も変わってきているのではないでしょうか。自分の業界の常識を疑う特殊な業界や狭い業界では同業者意識やなれあい、過激な競争意識など様々な背景からそれぞれに「業界の常識」が形作られています。しかし、破壊的な変化やイノベーションは中からも外からも突然やってきます。「うちの業界は特殊」「他とは違う」と言って改革も浄化も行わないでいると、いずれ足下をすくわれます。自社の業界の常識を疑い変化の先頭に立つことが、将来のリスクをデザインする第一歩です。