東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)による「女性蔑視発言」は大きな波紋を引き起こしました。結果、オリンピック開催の可否を来月にも決定しようかというこのタイミングで森氏は会長を辞任することになってしまいます。森氏はこれまでも度々その失言がメディアで取り上げられています。2014年にもソチオリンピック開催中の福岡での講演で、浅田真央選手がフィギュアスケートSPで転んだことを取り上げ、「見事にひっくり返った。あの子、大事なときには必ず転ぶ」と言ったことが話題になり世間の批判を浴びました。森喜朗 元総理・東京五輪組織委員会会長の発言 書き起こし:TBSラジオ(2021年2月20日閲覧)人の口に戸は立てられない森氏は今回の失言でオリ・パラ組織委員会の会長を辞任することになりましたが、誰にとっても口は災いの元となりえます。特に経営者や組織の長の不用意な発言は、その部下や株主、お客様、取引先ほか多くのステークホルダーに失望や影響を与えます。政治家や経営者など人前で話す機会が多い人は、聴衆を楽しませようとその場のウケを狙う話をしがちです。今回の森氏の「女性蔑視発言」も本人はウケ狙いだったのかもしれません。現に会場からは笑いが漏れたといいます(苦笑かもしれませんが)。こういう話をする人は講演会の会場や会議室といったクローズな場、そこにいる人だけに向けた「ここだけの話」のつもりです。ところが、参加者はそこで話された内容を他で話します。「ここだけの話」こそ人に話したくなるもの、場合によっては録音もしていて外に漏れ、その発言が問題視されることになります。口づてに広まったり、最近ではSNSにアップされて拡散してしまいます。さらにマスコミに伝わると、その問題発言部分だけが切り取られて扱われ大騒ぎになります。先の浅田真央選手に関する発言は、実は彼女を擁護する内容でした。しかし、マスコミには一部を切り取られて使われてしまったのです。綸言汗の如し森氏の不適切発言はJOC評議員会でのもので、その場にいた山下副会長(JOC会長)は定例会見で、「女性差別と受け取られる発言の後もいろんな話題に変わり、止める機を逸してしまった」と説明しました。社長や政治家のような権力や地位のある人に対しては、誤りを指摘したり意義を申し立てるのは失礼に当たる、気分を損ねるかもしれないという空気があります。また、周りにはイエスマンが集まりがちです。知らず知らずのうちに周りをイエスマンで固めてしまっている場合もあるでしょうし、古い体質の組織では権力闘争に勝ち残ってきた(あるいはしがみついてきた)のがイエスマンだったということかもしれません。そういう組織や取り巻きの中で、失言をその場で諫め訂正を求めるのは極めて困難です。しかし、このような事はどこにもありそうです。テレビでは生放送中に不適切な発言があると、CM後や番組終了前に訂正や撤回、お詫びが入る場合がありますが、発言者に気を遣ってそのまま番組を終了すると、クレームやSNSでの炎上などに発展します。そうなってしまえば、番組や局の姿勢も問われ、更にはその番組の提供スポンサーにまで批判の矛先が向いてしまうこともあります。発言者との関係を壊す以上の問題となることを理解しているからです。「綸言汗の如し」という言葉があるとおり、地位が上がれば上がるほど、人の上に立つような立場になれば、その言動に誤りがあっても注意してくれなくなります。自分の発言を客観的に捉え注意していないと、そのつもりはなくとも人を傷つけてしまったり、社会規範から外れた発言をしてしまうことになりかねません。そのためにも耳に痛い事を言ってくれる社外取締役や相談相手を持つことは、経営者にとってリスク回避の重要な手段でもあります。