普段、ニュースでよく耳にし、日常生活でも時々用いられる「事件」「事故」という言葉ですが、それぞれの用語には明確な違いがあります。今回はそんな「事件」と「事故」の違いについて解説します。「事件」と「事故」を分ける大きな違い「事件」と「事故」を分ける大きな違い、それは「故意」の有無です。「故意」とは、一般的に「意図して行うこと」や「わざとすること」を指す言葉です。そしてこの故意があるものが「事件」と呼ばれ、故意はなかったものについては「事故」と呼ばれています。このことは事件と事故が用いられている用語を見ても確認することができます。故意を持って行われる(意図して行われる)殺人や詐欺はそれぞれ、殺人“事件”や詐欺“事件”と言いますが、殺人“事故”や詐欺“事故”とは言いません。逆に意図せず起こしてしまった車の衝突トラブルを交通“事故”とは呼びますが、交通“事件”とは呼びません。このように両者は故意の有無という点で明確に区別して使用されています。法律上はどのようになっているのかこうした事件と事故の違いについて、法律上はどのように定められているのかを見てみると、実は法律上、「事件」や「事故」について明確な定義を定めた条文はありません。しかし、刑法38条1項ではこのような形で「故意」について定められています。刑法38条1項罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。法律学の分野では、この刑法38条1項にある「罪を犯す意思」を故意の内容だと捉えるのが通説的な理解です。そして、条文にある通り、刑法は基本的にはこの「罪を犯す意思」、すなわち「故意」がない行為については罰しないとされています。なぜなら、自分が意図したことでなければ罰しても罪の効果がないからです。しかし、気をつけたいのは「ただし」から続く但し書きと呼ばれている文章です。この但し書きにおいて、「法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」とありますが、これは故意がない場合でも、特別の規定があれば罰する可能性もあるということを明記しています。そして、この特別の規定によって定められているのが過失犯と呼ばれる犯罪類型です。過失犯とは、故意がないものの不注意によって犯罪を起こしてしまった場合のことを指します。過失犯の代表例として挙げられるのは、過失致死罪(刑法210条)や失火罪(116条)、過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法)などです。これらは故意がないものの犯罪になる典型例といえます。また、「事件」と「事故」の違いを犯罪かどうかという違いで説明している場合もありますが、これまで見たように“犯罪に該当する事故”は過失犯については存在し得るので、やはり「事件」と「事故」の違いは、「故意」の有無によって判断するのが正しい理解と言えます。もっとも、法律上犯罪に該当しないパターンの「事故」であっても、メディアやユーザーから責任を厳しく追及される可能性はありますし、不法行為を始めとした民事責任を追及される訴訟リスクも存在します(訴訟の結果によって損害賠償責任を負う可能性もあります)。そのため企業リスクの観点からは、事故の場合も事件の場合と同様、綿密なリスク管理が必要となります。普段、何気なく目にし、使用している用語の中にも法律に関する用語やリスクマネジメントに関する用語があります。すべての用語の明確な定義を理解することは非常に困難ですが、よく使用される典型的な用語についてはそのポイントやツボを押さえておくだけでも、ビジネスの助けになることがあるはずです。