今年2021年は、東日本大震災から10年という節目の年です。その3月11日間近の2月13日には福島県沖を震源とするマグニチュード7.3の東日本大震災の余震が発生し、宮城県と福島県で最大震度6強の揺れを観測しました。この地震により東北新幹線は電柱が折れたり高架橋が損傷するなどの大きな被害を受け運休、全線での運行再開は10日後の24日となりました。また、常磐自動車道では法面が崩れて道路を塞ぎ一部区間で通行止めとなるなど、ほかの鉄道や交通インフラも暫く混乱しました。一時95万戸が停電し、2万戸以上で断水が発生するなどライフラインにも影響が出ました。当然、その影響下で多くの企業活動にも支障を来したことは想像に難くありません。BCPは発動され正しく機能した?1995年の阪神淡路大震災では関西地区のプラントや工場が被災しメーカーの生産ラインが止まり、自動車メーカーなどの生産が大きな影響を受けました。阪神淡路大震災以降も、大規模な自然災害や同時多発テロ、イラク戦争など様々なリスクに備えてBCP(事業継続計画)を策定する企業が増えました。特に東日本大震災はその規模だけでなく広範囲に直接・間接の被害を及ぼし、日本中の企業活動に大きな影響を与えることとなりました。この震災を機に、多くの企業がBCPの策定にとりかかり、既に策定していた企業では見直しを進めました。東日本大震災後も、熊本地震や相次ぐ豪雨禍、巨大台風、寒波による大雪など毎年のように深刻な自然災害が発生しています。自然災害だけでなく、2020年から続く新型コロナ感染症拡大によるパンデミック、ミャンマーの軍事政権によるクーデターなど突然人や物の動きが制限される事態も起きています。あるいは、昨年後半から顕在化した半導体不足の影響。半導体を製品に組み込む自動車や家電を始めとする各種メーカーは、必要な部品や素材の供給が滞ると製造に支障を来し業績にも影響します。この10年、BCPを策定していた企業では、BCPは正しく機能したのでしょうか?これらの災害や重大事象に対して想定していた対応は取れたのでしょうか?あるいは想定外の事象に右往左往したのかもしれません。BCPは災害対応マニュアルではないBCPは自社の直接被害だけでなく、取引先の有事(工場火災による生産・供給ストップや倒産など)が事業継続に影響を及ぼす可能性など、あらゆる事象を想定して策定されていなければなりません。BCPは自然災害対応マニュアルではないのです。昨年から続く半導体不足では、世界中の自動車メーカーが減産を余儀なくされていますが、唯一トヨタだけはほとんどその影響を受けていないといいます。それは、東日本大震災の影響から生産調整を余儀なくされ、それを機にBCPの見直しをした結果だとロイターの記事は指摘しています。トヨタのことですから、東日本大震災後も全国で発生する自然災害や世界中で起こる動乱やテロなどの度にBCPを見直し、重大インシデントに備えたシミュレーションを実行・改善し続けていることは想像に難くありません。焦点:トヨタ、半導体不足で発揮した抵抗力 震災10年 供給網寸断の教訓:Reuters(2021年3月1日閲覧)BCPでは自社のクリティカルパスを明確に把握し、クリティカルパスに影響を与える可能性を洗い出しそのリスクを排除し最小化する方策を準備・想定しておかなければなりません。災害に備える保存食に賞味期限があり定期的に交換が必要なように、BCPも定期的あるいはこれまでには想定していなかった災害や事故が発生したときには見直し、現場への周知徹底が必要です。BCPはプロジェクトとして相当な労力と時間を費やし策定することも少なくありません。それだけにBCP完成と同時にプロジェクトを解散し、それっきりとなっている企業も少なくありません。BCPは策定することが目的ではなく、いつ災害やトラブルが発生しても対応できるように現場に浸透させてやっと意味を持ちます。いつでも機能するように常に見直し、現場へ浸透させ続けることが必要です。それができなければ、魂を入れない仏や絵に描いた餅と何ら変わらないものとなってしまいます。