それまで聞いたことがなかった言葉や普段あまり使わない言葉が、コロナ禍の中メディアなどを通じて耳にしたり目にしたりする機会が増えてきました。「エビデンス」とともに多く聞かれるようになったのが「感染リスク」です。普通にいえば「感染の危険性」。これまで「リスク」というと「リスク回避」、「リスクヘッジ」など金融・経済用語としてビジネスの文脈の中で登場する言葉で、日常の会話ではあまり使われることはありませんでした。本来の「リスク」は危険性、好ましくない結果となる可能性だけでなく、「不確実性」を含む言葉です。リスクマネジメント企業活動にとってのリスクは、売り上げやコスト、経費など財務的なものから企業活動に伴うライバル企業や顧客・取引先との関係、事故や事件被害、自然災害やグローバルな活動をしていれば地勢や為替など多くの不確実要素が考えられます。リスクをコントロールする、マネジメントするということは、不確実性を洗い出し定量化することから始まります。さらには、リスクは下振れだけでなく上振れするということも含めた不確実性を考えなければなりません。自然災害でいえば、降雨量に応じた被害想定(豪雨水害だけでなく渇水も)などがわかりやすいのですが、リスクとして考える際には、単に災害が発生した際の被害だけでなくその発生確率も考慮して備える必要があるのです。原子力発電所の再稼働の可否が度々話題になりますが、原子力災害発生時の被害の大きさと範囲だけでなく、事故の原因となりえる自然災害の想定とその発生確率についての説明が求められます。農業や漁業など自然を相手にする産業では、不作・不漁(生産の下振れ)だけでなく豊作・豊漁(上振れ)も市場取引価格への影響となりうるリスクと考えなければなりません。リスクマネジメントは、経営や事業運営に関わるあらゆるリスクを想定し、それぞれのリスクに備える=回避・移転して無くす、被害・損害を許容範囲内に収める、あるいは最小化するなどの方策を事前に検討し、あらゆるリスクを想定内に収めることといえます。クライシスマネジメント「リスク」に似た言葉で、「クライシス」も耳にすることが増えました。クライシスは「危機」ですので、危険性という予知から一歩先に進んで大きな問題が発生した状態を指します。クライシスマネジメントは、危機といえる状況が起こったときにいかに対応するか、できるかということです。リスクを事前にコントロールし、マネジメントしても回避できない事故や災害は起こります。地震や台風にどんなに備えていても、実際に災害が発生すれば直接・間接の被害は発生します。このコロナ禍では、社内で新型コロナウイルス感染症の陽性者が出たりクラスターが発生する可能性もあります。あるいは、経営責任者が突然の事故や病気で陣頭指揮を執れなくなるようなこともありえます。そのような危機に際して、いかに対応するか、日頃から準備をしておくか。危機的状況が発生したときに組織として取るべき対応を統制・管理し、混乱状態から早期に通常に戻す一連の対応方法こそがクライシスマネジメントといえます。クライシスマネジメントはほとんどの場合は危機が発生した現場中心の対応ですので、外からはその対応状況をうかがい知ることはできません。しかし、事件や事故、企業不祥事などの際に行われる会見は、第三者に向けたものですのでメディアを通して目にすることもできます。最近では、注目を集める会見だとネットで生中継されることも珍しくなくなりました。特に謝罪会見はクライシスマネジメントの巧拙が如実に表れる場面です。コンティンジェンシープランの策定もクライシスマネジメントは、あらかじめ想定可能なリスクが現実に起こったものです。広く考えればリスクマネジメントの一部でもあります。また、リスクマネジメントの延長として、想定は可能だけれど実際の発生が予測できない重大なリスク(食品への異物混入や社長出張中の飛行機事故など)が現実に起こった際の対応方法を、あらかじめ策定してマニュアル化することも推奨されます。そのような、対応方法をまとめたものをコンティンジェンシープラン(Contingency Plan)といいます。