私たちが日常で何気なく口にしている「契約」という言葉ですが、実際のところ、現代社会は多種多様な「契約」に溢れており、企業活動を行う際に不可欠となる「契約」の基本的な部分を理解しておくことは重要です。今回はそんな簡単に見えて奥深い「契約」の基礎的な部分について解説をします。「契約」の本質はどこにある?「契約」は、私たちの日常生活の至るところに存在します。商品を購入する際の売買契約、引っ越しの際に結ぶ賃貸契約、会社に入社する際に結ぶ雇用契約等、これらはそれぞれ別個の目的で行われる事柄でありながら、ひとくくりに「契約」と呼ばれています。ただ、ここであげたいくつかの契約を始め、契約と呼ばれている事象をつぶさに確認していくと、一つのキーワードが浮かんできます。それは「合意」です。合意があるからこそ、商品を売買できますし、家を貸し借りできますし、会社に勤務する/してもらう関係を結ぶことができます。これらすべてについて、一方が『嫌です(売りたくない、貸したくない、勤務したくない)』等といえば、その時点で関係性を結ぶことはできなくなり、すなわち、契約は不成立となります。ただ、私たちはこうした関係性の締結を単なる口約束ではなく、「契約」として結びます。それはなぜでしょうか。結論からいえば、契約にすることで、法律の枠組みの中に入り、最終的に国家権力による目的の実現を図ることができるからです。仮に契約というものが存在せず、口約束しかできない世界だとします。すると、もし相手にお金を貸して返してもらえない場合、お金を貸した側は諦めるか、最悪の場合、暴力に頼ることしかできなくなってしまいます。ですが、契約として法律の枠組みを利用して関係性を構築することで、もしお金を返してもらえない場合は、「金返せ!」という裁判を起こし、法律の手続に則ることで、合法的にお金を返してもらうことができます。このように契約というのは、合意を内容としながら、法的拘束力を生み出せることが本質であるといえます。契約と口約束の違いは?日本においては民法上、契約は原則として「諾成契約」といわれる意思の合致(合意)、すなわち、契約の申込みと承諾さえあれば契約は成立するという方式を取っているため、契約を結ぶ際に必ずしも書面は必須ではありません。そう考えると、口約束と契約は一見、区別がつかないようにも思えます。それではその境目はどこにあるのかと考えていくと、一般社会において契約と口約束は、基本的には書面の有無で判断されているのが現状といえます。というのも、書面等がない場合、契約をしたという証拠が残らず、紛争の際不利になる可能性があるため、通常の場合、正式な契約は書面を取り交わして行われるからです。全ての「契約」に「合意」はあるのか?ここからは若干踏み込んだ内容となりますが、それではそもそも私たちは「契約」を結ぶ際に、全てにおいて「合意」できているのでしょうか。商品を売ります、家を貸します、といった内容の契約であれば、合意の存在は明らかですが、それでは電車に乗る際に鉄道会社とは、どのような合意をして契約に至っているのでしょうか? あるいは、新しいアプリやウェブサービスを利用する際に最初に出てくる「利用規約」について、私たちは内容をしっかり把握せずに同意をしてしまっていないでしょうか? その場合、合意はないことになり契約はなくなってしまいますが、それで良いのでしょうか?今、ここで問題にしたようなものは一般的に「約款」と呼ばれるものです。約款もまた契約である以上、当事者の合意は必要となりますが、多数の人と契約する点、内容が決まっている点、利用者はあまり内容を把握していない点で特徴があります。とはいえ、上で述べたような約款が全て、同意はないので無効となってしまっては、社会が立ち行きません。そこで、2020年4月から施行された改正民法では「定型約款」という概念を導入することで、この問題に対応しました。具体的にどのように対応したかといえば、改正民法ではこの曖昧な合意について、『定型約款の場合、一定の要件を満たすことで当事者が合意したとみなされる』、というルールを設けました(具体的にどのような要件を満たせば合意とみなされるのかについて、関心のある方は、民法548の2という条文を参照してみて下さい)。これにより、約款を制作する側は今後は一定の要件を満たすようウェブサイト等の構築をすることが必要となりました。普段何気なく使っている「契約」という言葉ではありますが、目を凝らして現実社会を見つめてみることで、この社会には契約が溢れ、契約に基づいて社会が営まれていることに気づきます。法律用語はとっつきにくいものも多く、苦手な方も多いかもしれませんが、複雑な現代社会で企業活動をする際のリスク管理の一つとして、法律に関する学びを深めていくことをおすすめします。