これまで契約を始めとした重要な取り交わしには必要不可欠と考えられてきたハンコですが、2020年11月13日の記者会見において、河野太郎行政改革担当大臣は行政手続きにおける認印の押印を全廃すると発表し、『脱ハンコ』の流れが一気に加速しました。全廃できるのであれば、なぜそもそもハンコが必要だったのだろうか等、疑問に思う方も多かったのではないでしょうか。そこで今回は、そんなハンコについて、そもそも法律的にはどんな役割を担っているのかについて、解説します。そもそも多くの契約は書面すら必須でないそもそも売買契約を始めとした契約の多くは、民法上、諾成契約と呼ばれる契約に分類されており、「口頭の約束のみで契約の効力を生じる」とされています。そのため、法的効力を生じさせるためには書面すら必要でない以上、ハンコは必要不可欠というわけではない……ということになります。しかし、これは私たちの一般感覚からかけ離れているものです。なぜ通常、法的効力を生じるために必要ではないハンコがここまで広まっているのでしょうか。民事訴訟法の規定を見てみると……ここで一旦、民法から目を離し、民事訴訟法と呼ばれている民事事件の訴訟に関する法律を確認してみましょう。民事訴訟法228条1項と4項にはこのような規定があります。民事訴訟法228条1項文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。民事訴訟法228条4項私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。いかがでしょうか。特に大切なのは、4項の『押印』という部分です。押印、まさに私たちが普段から口にしている用語が書かれています。228条4項は少し難しい条文ではありますが、ここでは、「契約書等の私文書と呼ばれる文書のの中に、本人の押印があれば、その私文書は、本人が作成したものであることが推定される」ということが定められています。そして、ここでいう押印というのは、一般的に本人の意思に基づく押印と解釈されています。若干ややこしく感じるかもしれませんが、結論的には、本人の意思に基づく押印があることが確認できれば、その私文書は本人が作成したものであると(基本的には)認定できる、ということです。なぜなら、「自分のハンコは自分で管理するもの」ということが常識とされている以上、その人のハンコがあれば、その人が作成したものと考えても基本的には問題ないからです。少し込み入ってしまいましたが、もっと簡単に言うなれば、要するに、『ハンコが押してあるということは、書類を証拠として使う上で役立つ場合がある』ということです。これらのことから、ハンコは法的効力を生じさせるためには必須ではないが、事実を証明するためには役に立つものであるということがおわかり頂けたのではないかと思います。欧米では、基本的にサインが事実証明の手段として利用されていますが、ハンコという文化を持つ日本だからこそ、このような「自著又は押印」という規定になっていると言うことができそうです。とはいえ印鑑が必須の例外もありますと、ここまでハンコは必ずしも必要ない、と話を進めてきましたが、ごく一部、ハンコが必須とされているものもあります。「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」といって遺言関係、あるいは不動産登記に関する書類もまた、ハンコが必須とされています。脱ハンコの流れではあるものの、ビジネスに於いて完全にハンコが不要になるということはまだまだ遠い先のことになるでしょうし、伝統文化としての側面を持つハンコを保護していくという視点もまた、必要なのかもしれません。