現在、企業活動において法令遵守(コンプライアンス)の用語は極めて一般的となり、リスクマネジメント担当者、法務担当者が実務上、法律問題に関わる機会も多くなってきたのではないでしょうか。ただ、実務において運用されている法律は、法律学全体からみると最先端、剣の切っ先であることが非常に多く、担当されている方の中にも細かい最新の法令には詳しいが民法や会社法の基礎はあまり知らない、という方も多いはずです。そこで、この連載では若手の法務担当者・リスクマネジメント担当者の方を対象に、法学の基礎的な部分を概観するような情報をお伝えできればと思っております。細かい部分を扱うことはできませんが、その分、短い時間で法学の全体像を把握するのに役立つ内容ですので、仕事で法律に携わってるわけではないが法学に興味がある方、また、法学部に入ったばかりの学生の方にもお読み頂ければと思います。初回となる今回と次回は、憲法について解説します。憲法は「法律」ではない?まず、法学を学ぶ上で一番大切になるのは、法の構造を理解することです。私たちは普段、社会に適用されているルール一般を指し「法律」と言っていますが、厳密には「法律」という用語は、法の中の一つを指した用語です。法の構造は以下の通りです。これを見て分かる通り、法は憲法を頂点としたピラミッド構造になっています。上に置かれている法に対して、下の法は違反することができません。この構造があるため、民法や刑法といった「法律」は憲法に違反することができないわけです(違反した場合は、憲法違反=違憲となります)。非常に大きな、漠然とした話に聞こえますが、企業活動でも「不合理と思いつつ従っていたルールが、実は行政庁の出す命令であることが分かり、法律の適用を争えるかもしれない」などといった場面など、このピラミッド構造が直接、実務上問題になる場合も十分ありえます。そして、これを見て分かる通り、「憲法」と他の「法律」は明確に区別されています。それは憲法が国家の基本法であり、基本法であることの反映として、法律と比べたときある大きな特徴を有しているからです。「憲法」と「法律」の違い「憲法」と「法律」の違い。それは一言でいうと、誰に向けられたものかの違い、すなわち「名宛人」の違いです。「法律」は、ほとんどの方がイメージする通り、国民に対して向けられたルールです。しかし、「憲法」は国家の運営に携わる人々が名宛人であるといえます。そのことは、憲法99条が憲法尊重擁護義務を「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」に課しており、国民に課していないことから明らかです。以上の通り、一緒くたにしがちな「憲法」と「法律」ですが、このように明確な違いがあることを押さえてもらえればと思います。憲法の目次次に、憲法の構造を分析します。憲法は全103条と、他の民法や刑法といった基本六法の法律に比べ条文数が少なくなっていますが、その分1条ずつの重みは重く、一つの条文を巡って多数の解釈が生まれています。目次を確認します。前文第1章 天皇第2章 戦争の放棄第3章 国民の権利及び義務第4章 国会第5章 内閣第6章 司法第7章 財政第8章 地方自治第9章 改正第10章 最高法規第11章 補則このように、憲法は前文込みの全11章の章立てになっています。天皇に関する法文からはじまり、戦争の放棄、国民の権利及び義務と続き、この部分だけでも、憲法という法が改めて国家の基本法であることが分かるのではないかと思います。4章以降は、国会・内閣・司法と、中学の公民で習うようないわゆる「三権分立」に関する事項や、税金に関する問題や地方自治についてまで幅広く定められています。このような構造から、憲法は大きく「人権」と「統治」について定められた法であると言え、実際に憲法を詳しく学んでいく場合もこの「人権」と「統治」という形で分けた上で学ぶのが一般的となります。まとめということで、まとめです。◯ 憲法は、国家の基本法。◯ 憲法は、その性格から「法律」ではない。◯ 憲法と法律の違いは、名宛人にある。他の法律が国民に向けられた法であるのに対し、憲法は国家の側に向けられた法である。◯ 全103条・11章からなる憲法は、大きく人権分野と統治分野に分かれている。次回は憲法について、具体的な内容にも踏み込んだ上で、解説していきます。