企業や有名人の不祥事・事件が明るみに出た時には、迅速な対応が求められます。初動が遅れたり間違えると取り返しが付かないことになってしまいます。すぐにコメントを出したり会見を行うのが鉄則です。加害者だからこそやりがちな過ち迅速に対応するのは良いのですが、被害届を出されたり刑事告訴をされたような場合に失敗しがちなのが、弁護士に頼った対応です。代理人の弁護士がコメントを発表したり問い合わせの窓口になったり、あるいは最初の会見を開く際に同席したり。先にこのコラムでも取り上げたコブクロの黒田さんも、代理人弁護士をたてて週刊文春に対峙していました。弁護士が前に出てくる際に共通するのは、依頼人が加害者(であると認識している)、あるいは加害者としての嫌疑をかけられている場合です。依頼人から期待されている弁護士の役割は、嫌疑を否認することです。しかし、依頼人の期待に反して(多くの)弁護士は危機対応の専門家ではありません。弁護士は法律の専門家であっても、コミュニケーションの専門家ではありません。法的に依頼人を守ろうという立場の人ですから、会見に出席した記者もニュースや新聞などの報道でその会見を見た視聴者・生活者も、「弁護士がいる=やましいことがある」という見方になる可能性があります。弁護士が同席する会見では、弁護士からの状況説明だけでなく、質問に対しての回答を遮ったり、会見者から切り出しづらい打ち切りを宣言したりする役目も担っています。そんな会見を多く経験し、見ている者にとっては、弁護士が登場する時点で「逃げ」の空気を感じ取ってしまいます。自分だけを守ろうとしている、逃げているという姿勢を感じ取られた時点で、リスクコミュニケーション・記者会見は失敗しています。被害者の事は考えていないと宣言しているようなもの弁護士は、会見の席での発言が依頼人の罪状やその後の取り調べ、裁判に影響・不利益を生じさせないよう発言を遮ったり修正したりというブレーキ役のこともあります。特に、刑事だけでなく民事も争う事が想定された場合にはより慎重になります。視点を変えると、被害者(あるいは報道の先にいる消費者やお客様)のことよりも依頼人が第一。被害者へ寄り添う姿勢や謝罪の言葉は形だけのものに見えてしまいます。弁護士に相談するのが悪いという訳ではありません。クライシスに際してはあらゆる事を想定しつつ準備しなければなりません。もちろん、法律違反や法的な責めを負う可能性についても検討し、準備しなければなりません。そのためには弁護士やその道の専門家に相談するのは当然です。弁護士や専門家は、戦う際には矛や盾となってくれますが、それは戦う場面でのこと。最初の会見、特に謝罪会見は世間を騒がせご迷惑をかけた事に対しての謝罪と事実確認の場です。ここで言い訳や責任回避の姿勢を見せると、「反省していない」と記者の猛攻撃を受けることになります。近年、会見などはネットで生中継されることも多く、YouTubeにも多くの動画がアップされます。テレビのニュースや新聞記事ではカットされる質疑応答も全て見ることができます。多くの会見では、質疑応答の時間の方が圧倒的に長く、そこで交わされるやりとりの方が核心に迫る内容が多いものです。記者は会見者に対して質問しますが、そこに弁護士が割って入ると、記者は「○○さんに聞いています」と弁護士の発言を遮ったり問い直したりする場面もあります。会見は自分の言葉で会見に弁護士が同席すると、会見者はどうしても弁護士に頼ってしまうようになり、自分の言葉で話さなくなる事も多いようです。そうなるとますます印象はよくありません。弁護士やリスクコンサルタントとは会見の前に十分に打ち合わせを重ね、本番では自分の言葉で話し、質問に答える事が重要です。最初の会見の成否が後々の企業イメージや商品・サービスのイメージ、最悪の場合は業績・株価にも影響することがあります。危機に直面したら、弁護士に限らず的確な専門家に助言を求め、被害者や生活者の視点からも十分な検証と準備をもって会見に臨んでください。こんな時のために広報はクライシストレーニング、経営者にはメディアトレーニングが必要です。