近年、梅雨の終盤、7月上旬には集中豪雨による大きな被害が発生するようになりました。2021年7月3日には熱海で土石流が発生し、多くの被害をもたらしました。その翌週は西日本に線状降水帯が発生したかと思うと、数日後には本州各地でゲリラ雷雨が発生して道路の冠水や川の氾濫が相次いで報じられました。 BCP策定にはガイドラインもあるけれど 東日本大震災を機にBCPの重要性が再度指摘され、多くの企業ではBCP策定を急ぎ、大きな自然災害に備えるようになりました。内閣府や経済産業省、中小企業庁などの各省庁でも、BCP策定のガイドラインや事例などを多数ウェブサイトに掲載しています。社内にプロジェクトを立ち上げ、これらを参考にBCP策定に取りかかった企業も多かったと思われます。しかし、これはあくまでもガイドラインであり、実際には自社の置かれている環境や条件を考慮しながらカスタマイズしていかなければなりません。ガイドラインといえば、今まさに新型コロナウイルス感染症拡大防止の業種別ガイドラインに沿って、オフィスや商業施設、工場などでそれぞれの対策を講じています。テレビドラマや映画の撮影メイキングビデオ、飲食店の入り口などに「ガイドラインに沿った感染対策を実施しています」などの断り書きを見ることがありますが、ガイドラインが一つのエクスキューズ(免罪符)として使われていたりもします。しかし、BCPの場合は災害や大きなトラブルが発生した際、実際に発動されるものです。策定したという事だけをエクスキューズとしても何も解決しません。むしろ、BCPが正しく発動されない、発動しても役に立たなければ無駄な時間とコストを浪費したに過ぎません。そうならないためにも、BCP策定を命じられた担当者はガイドラインを一生懸命に読み込み、自社で使えるBCPを策定しようとがんばりますがそう簡単なことではありません。そんなニーズに応えるために、経営コンサルタント会社がパッケージ化したBCP策定プランを商品化し、盛んに営業をかけました。エリア、業種、オフィスか工場かなどで予め準備されたテンプレートを埋めて行けば、コストも時間も大幅に圧縮して自社のBCPができあがります。担当者にとっては、「外部の専門家」に依頼して策定したというエクスキューズを得ることになります。そうしてできあがったBCPは、首都直下型地震や南海トラフ大地震の発生が予想される地域では大地震や津波を想定した似たようなものとなっていることでしょう。 BCPはリスクマネジメント全体の中で位置づけをここで問題なのは、以前にも指摘しましたが多くの企業でBCPを災害発生時の対応プランと位置づけて策定されていることです。東日本大震災から10年が過ぎ、その直後にBCPを策定してそのまま見直しをしていなければ、今発動して果たして本当に役に立つのでしょうか?それ以前に、苦労して手に入れた自社のBCPの存在も、誰にも引き継がれず忘れられているかもしれません。BCPを策定することを目的にスタートすると、できあがった時点で机や戸棚の中にしまわれてしまいます。しかし、BCPはリスクマネジメント全体の中に組み込まれるべきものです。企業を取り巻く多くのリスクを想定し、それぞれのリスクにどのように向き合い、対応策を準備するか。企業の事業継続に大きな影響を与えるようなトラブル、事象が発生した時に備えて策定するプランなので、業種や業態、場所や時間帯、そこにいる人や動植物などそれぞれで考慮すべき対象やステークホルダーは様々です。例えば、コロナ禍以前の2019年とコロナ禍の最中にある2021年ではそこに働く人の数や働き方、お客様の状況など全く変わってしまった所もあるでしょう。あるいは今年、ミャンマーやイスラエル、香港など、国外に工場や拠点を置いている場合、政情の変化やテロなどで突然対応を迫られるケースもありました。 常にアップデートし続けるのは困難を極める 事業継続ガイドラインも、随時見直され改訂版がアップされています。内閣府の最新のガイドラインは今年(2021年)4月にアップされたものです。このように、企業を取り巻くリスクは日々変化し、それに対処する準備・方策も常にアップデートされなければなりません。そのためには、自社に降りかかるリスクを常に分析・予想し、BCPを始めとしたリスクに対する備えを更新し続ける部署なり担当者が必要です。社内横断プロジェクトのような形の組織でも可能でしょうが、常に更新し続ける仕事は達成感を得づらく当事者意識を持ち続けるのも困難です。しかも、BCPが発動するその時は明日かもしれないし、10年後か、もっと先か、いつ来るかも解りません。その間には人事異動や退職などで人の入れ替わりもあるでしょう。モチベーションを維持して改善し続けることは、トヨタの「カイゼン」のように組織・チームのDNAとして引き継がれなければ困難です。これを実現するには、オーナー企業であれば経営トップの強いリーダーシップで引っ張り続けるか、独立して強い権限を付与されたリスクマネジメント室のような組織を置くなどで実現可能でしょう。しかし、継続的にBCPを更新しリスクマネジメントに穴がないか客観的に目を配れる人員を配置できる企業は限られています。それだけの余裕もノウハウもなければ、外部の力を借りる事です。先に述べたBCP策定のような外注方法ではなく、BCP策定~継続的な見直し、周知と運用を側面からサポートする、ファシリテーターやタイムキーパー、あるいはトレーナーとして一緒にBCPを育て続けられるパートナーを探すことが重要です。