メダルラッシュに盛り上がった東京オリンピック。直前まではマスコミも含め反対の声も強かったものの、蓋を開けてみると連日のメダルラッシュと名勝負・名演技が続き、直前まで開催に否定的だったメディアやネットの空気も一変、日本中が湧きました。コロナ禍という危機昨年から続く新型コロナウイルス感染症によるパンデミックに、世界中が翻弄されました。2020年4月に初の緊急事態宣言が発出され、それからのニュースはその日の新型コロナの新規感染者数を伝えることが恒例となってしまい、新規感染者数の増減やワクチンに関する報道ばかりとなってしまいます。不要不急の外出自粛、リモートワークへの移行が推奨され、経済活動も制限されるようになりました。移動や飲食などを伴う観光や宿泊、航空・鉄道などの公共交通機関、観客を入れられなくなったエンタメ・スポーツ業界などは大きく業績を落とし、倒産や廃業する企業、店舗も多く出ています。一方、おこもり消費やリモートワークの拡大に伴い、ネット通販やパソコン・タブレット、家電などの需要は伸びて業績は二極化しています。このコロナ禍という危機に直面し、企業・生活者は、いかにコロナを乗り越えるか、いかにして生き延びるか、あるいはコロナ禍が作り出した新たな需要にいかに乗るか、対応するかというこれまた関心も二極化してしまいました。新型コロナは日本人だけでなく人類共通の敵。コロナ禍は人類とコロナとの戦争です。新型コロナという共通の敵との戦いが繰り広げられていて、それをマスコミは連日報道しているという構図です。企業活動もマスコミ報道もコロナ対応モードです。東京オリンピックもコロナ対応のため1年延期し、ほとんどの競技会場が無観客で開催にこぎつけました。東京五輪組織委員会が直面する危機しかし、1年延期し開閉会式の見直し、簡素化に伴い演出チームを入れ替えたことで様々な問題が起こります。新たに責任者となったCMクリエイティブディレクターの佐々木宏さんは渡辺直美さんの容姿を侮辱するような案を出したとして今年3月辞任。開幕直前には開会式の音楽担当の一人、小山田圭吾さんが過去の取材記事が問題になり辞任(組織委は「本人も反省している」として留任の意向を示したが、批判が収まらず辞任を申し出た)。演出担当の小林賢太郎さんも過去にコントでホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を不適切に扱ったとして解任となりました。3人の辞任、解任理由はいずれも人権や人の尊厳に関わる不適切な発言や扱いによるものでした。そもそも、組織委員会前会長の森喜朗さんが辞任した理由も、同様の発言によるものです。ところで、小山田さんの問題が発覚した際に、何故すぐに解任しなかったのでしょう?組織委員会(あるいは電通)は弁護士に相談したのではないでしょうか?20年以上前の記事で、しかもいじめをしていたのは学生時代で、さらに遡ってのでき事です。「30年も前のいじめ行為は罪に問われるのか」と相談したのではないかと考えます。傷害罪の時効は10年ですから、弁護士はその問に対しては「今、法的に罪に問われることはない」と回答するはずです。この回答を得て武藤事務総長も「現時点においては、小山田さんの弁明というものをおうかがいして、引き続き、このタイミングでありますので、彼には支えていただきたい、貢献していただきたいと考えています」との会見コメントに至ったと想像します。小山田さんが留任していたら?競技もスタートし、連日のメダルで開幕前のゴタゴタはすっかり話題に上らなくなりましたが、小山田さんを留任させようとした背景に弁護士のアドバイスが有り、もしそれを小山田さんが受け入れれば批判の声はもっと大きくなり、更なる混乱を招いたかもしれません。さらに小山田さんが留任を受け入れ続投していたら、今度は小林さんの解任もなくなっていたかもしれません。小山田さんは留任して小林さんだけ解任したら弁護士を伴って地位の回復を主張するかもしれません。 弁護士は、依頼者の代理人や弁護人として法律の専門家として係争などの調整に当たります。契約書や特許、商標、著作権などの権利侵害や係争などについての相談先として、弁護士と顧問契約を結んでいる企業は多くあります。個人の依頼であろうと企業の依頼であろうと、法律の専門家として依頼主の側に立ちます。しかし、法律の専門家としてアドバイスするが故に、その結果として依頼主・相談者の不利益に繋がることもあります。弁護士を伴って開いた謝罪会見が失敗した例は枚挙に暇がありません。最初の謝罪会見で弁護士が同席すると失敗やモヤモヤが多い訳企業でトラブル・クライシスに直面した時に、顧問契約している弁護士があればまずは相談するでしょう。しかし、相談先を弁護士だけに限定してしまうと危険です。クライシスに即座に対応し、適切なメッセージを届けるためには、それぞれの分野の適切な専門家に相談する事が重要です。SDGsやESGに関心が高まり、遵法だけでなくサステナブルやフェアであることが重視される時代です。SNSが普及し、企業の評判や風評もネット上で広がる今、生活者やメディアとどうコミュニケーションをとるか、何をメッセージとして届けられるかは非常に重要になってきています。クライシス発生時にはコミュニケーションそのものをデザインしなければなりません。弁護士は法律の専門家ですが、コミュニケーションデザインの専門家ではないのです。