10月7日夜10時41分頃、東京23区で10年ぶりとなる震度5強を記録する、首都圏直下を震源とする地震が発生しました。この地震で舎人ライナーが脱輪し、新宿などでは一部地域で停電、各所で水道管の破裂による冠水が発生。また、長周期地震動も観測され、高層建築物の上層階の揺れは更に大きかった事が想像できます。国土交通省の発表では、首都圏を中心に7万5738台のエレベーターが停止し、このうちエレベーターに閉じ込められたケースが、合わせて28件あったということです。JR他首都圏の鉄道も全て止まりました。夜も遅かったので、地震の瞬間ほとんどの人は自宅でその揺れを感じたのでしょうが、新型コロナ感染症対策で発出されていた緊急事態宣言も9月末日で全て解除され、オフィスや繁華街に人出が戻り始めた矢先。ピークの時間帯ではなかったものの、移動の足を奪われ、多くの帰宅困難者が駅周辺に溢れました。 平日の昼間の発生だったら?を想定してみると地震発生が夜遅い時間だったことや、新型コロナ感染症対策で多くの飲食店の営業が21時までとなっていたこと、リモートワークを継続している企業がまだ多いことなどでそれほど街に人出はなかったにもかかわらず、この混乱でした。これが平日昼間に発生していたらどうでしょう?8月、防災の日に向けて書いた2本のコラムコロナ禍の防災の日に考える、企業にとっての災害への備え その1 事業基盤編コロナ禍の防災の日に考える、企業にとっての災害への備え その2 命を守る編でもまとめていますので、そちらも読んでいただきながら、エレベーターに注目して考察してみたいと思います。10月7日の地震は夜だったので、人が乗って動いていたエレベーターは少なかったはずですが、それでも28件の閉じ込めが発生しています。オフィスに多くの人が出入りする日中のワークタイムなら多くのエレベーターが動いているでしょうし、朝夕の出勤・帰宅時間帯やランチタイムならたくさんの人を乗せているはずです。そんなときに大きな地震が発生したら?最新のエレベーターは地震を感知すると最寄りの階に停止し、扉が開くよう設計されていますが、実際の災害時に全てのエレベーターが設計通りに稼働する保証はありません。古いビルのエレベーターだと、まずそのような機能は備えていません。エレベーターの閉じ込めは桁違いに増えるでしょうし、そこに閉じ込められる人の数も膨大になるかもしれません。日中のオフィスビルや商業施設でエレベーターの閉じ込めが起こった場合、多くの場合は1つのカゴの中に複数人、それも数人ではない多人数になるでしょう。火災の発生や建物の崩壊、落下なども同時に発生しているはずですから、消防による救出はいつになるかわかりません。エレベーターの管理会社も同時に複数の救援依頼に対応しなければならないので、電話さえも繋がらない可能性もあります。 狭い密閉空間に長時間閉じ込められる狭い空間にたくさんの人が閉じ込められたままいつ来るか解らない救助を待つことになります。平時でもストレスを感じる密閉空間に多くの他人と一緒に閉じ込められることを想像してみてください。2018年に震度7を観測した北海道胆振東部地震では、ほぼ北海道全域で停電(ブラックアウト)が発生※しました。自家発電設備や非常用電源を備えたビルもありますが、発電機の燃料や蓄電量には限りが有ります。最悪のケースでは停電でエレベーター内も真っ暗(あるいは非常灯)になるかもしれません。大きな地震の後には、多くの場合は余震も続きます。しかも、それなりの揺れのものも起きますし、熊本地震の時には最初の震度7の地震は前震で本震は翌日に起きました。閉じ込められたまま余震の度に身をすくめることになります。このような状況を想像すると、企業やビル管理会社はどのように備える必要があるでしょうか?近頃はエレベーターに非常用の備蓄品を収めた防災キャビネット・ボックスを設置するビルが増えましたが、多くの人が乗っている場合にはその備蓄品では十分でないかもしれません。何よりも、混乱やパニック、不安に陥った様々な人の心を落ち着かせ、正しい行動に導く必要があります。自社ビルでエレベーター内にいるのがほぼ同じ会社の従業員であれば自然と統制は取れるでしょうが、フロア毎に違う会社がテナントに入っている高層ビルなどではそうはいきません。それでもまずは誰かが非常通話ボタンを押すはずです。エレベーターの非常通話ボタンで繋がるのがビルの中央監視室や警備室であれば、そのスタッフが的確な指示を出せなければなりません。ビルの中央監視室や警備室のスタッフだけではなく、テナント各社も災害に備えたBCP研修を定期的に実施することが求められます。様々なケースのシミュレーションを行う際に、エレベーター内で地震に遭遇した場合の対応を全員がシミュレーションして疑似体験しておくと良いでしょう。 一度止まったエレベーターはしばらく停止したままに閉じ込めもなく自動停止した最新エレベーターは、今度は外からは扉は開かなくなり運転を停止します。自動診断システムを持たないエレベーターは、技術者が1基ずつ点検して復旧しなければなりません。大地震で大量にエレベーターが止まると、復旧にも相当な時間(場合によっては数日)を要します。高層階に取り残されたら階段を使って降りるしかありません。翌日出社してみると、まだエレベーターが復旧していないということもあり得ます(東日本大震災の時がそうでした)。オフィスを移転する際には、立地や広さ、家賃ばかりに目が行きがちですが、エレベーターのスペック(ビルは古くても耐震工事と共にエレベーターを新しくしている所も多い)とメンテナンスについてもチェックするようにしましょう。また、大きな災害発生時には、無理して帰宅せずにオフィスや施設内に留まることが推奨されています。周囲が落ち着いて帰宅後も無理に出社を求めず、リモートで安否確認やその後の指示が出せるような体制・仕組みが求められます。リモートワークの推進は、災害時においてもリスクの軽減に繋がるだけでなく、災害発生時に家族と一緒にいれば、お互いの安否を心配する必要も無くなり、それだけ会社・所属組織へのロイヤリティも高くなるのではないでしょうか。 ※深夜(早朝)の午前3時過ぎだったため、エレベーターの閉じ込めは23件に留まりました。