毎年のように発生する豪雨、土砂災害、大型台風の襲来、豪雪などの自然災害の度に介護福祉施設や病院が被害に遭ったり孤立したりというニュースが報じられます。この原稿を書いている間にも、阿蘇山噴火のニュースが飛び込んできました。場合によっては、施設や病院がその地域では大型で丈夫な建物であるために周辺住民の緊急避難先になり、そこで多くの人が救助を待つということもあります。福祉施設の入所者・利用者の多くは老人や障害者、乳幼児など誰かのサポートを必要としています。災害による人的な被害だけでなく、施設の損壊や設備の被害によるサービスの停止等がその後利用者の生命維持に重大・緊急の影響を及ぼすことにもなります。そのような事態を避けるためにも、サービスの継続が求められます。業務継続計画(BCP)の策定は欠かせません。 BCP策定・訓練が令和6年度から義務化障害福祉サービスは、障害者、その家族等の生活を支える上で欠かせないものであり、昨今大規模な災害の発生がみられる中、施設・事業所等において、災害発生時に適切な対応を⾏い、その後も利⽤者に必要なサービスを継続的に提供できる体制を構築することが重要です。こうした観点から、全ての障害福祉サービス等事業者を対象に、運営基準において、業務継続に向けた計画等の策定や研修の実施、訓練の実施等を義務付けることとされました。 なお、3年間の経過措置(準備期間)を設けており、令和6年度から義務化されます。(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部作成「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」より)また、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が平成25年に施行され、「新型インフルエンザ等にかかる業務継続計画(BCP)」の策定も求められています。まさに現在進行中の新型コロナウイルス感染症には、この特措法を一部改訂して対応しています。特措法では新型インフルエンザ等が発生した場合に、医療の提供の業務又は国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者の従業員や、新型インフルエンザ等対策の実施に携わる公務員に対して臨時に行う予防接種(特定接種)は住民よりも先に行うこととなっています。介護・福祉施設等は特定接種の対象業種(施設)となっています。しかし、この特定接種の対象事業者となる登録申請に必要な要件にはBCPを策定していることとあります。施設利用者の安全・安心のためにも特定接種の対象事業者登録が求められますが、そのためにはBCPの策定が必要なのです。 ガイドラインやテンプレート・ひな形はあってもこのような背景から、厚生労働省や各自治体では防災・減災対策に各種補助や支援制度を設けています。厚生労働省のサイトには、「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」とするBCP作成を支援するページもあります。このページには、BCP作成のガイドライン、作成支援のひな形、作成時ポイントを整理した動画など盛りだくさんです。ガイドライン、ひな形などは以下が用意されています。 ●自然災害編自然災害発生時の業務継続ガイドライン(pdf)ひな形(doc)●新型コロナウイルス感染症編新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン(pdf)様式ツール集(xlsx)ひな形(入所系)(doc) ひな形(通所系)(doc)ひな形(訪問系)(doc) 動画は、総論・新型コロナ感染症編・自然災害編の3部に分かれ、それぞれの動画内で使用されている資料と共に以下合計10本が用意されています。総論1: BCPとは新型コロナウイルス感染症編2:共通事項3:入所系4:通所系5:訪問系自然災害編6:共通事項(概要編)7:共通事項8:通所サービス固有事項9:訪問サービス固有事項10:居宅介護支援サービス固有事項ガイドライン、ひな形、動画と丁寧に作られています。しかし、これらを見ても実際に施設の職員だけでBCPを作成するのは困難でしょう。しかも、自然災害用と感染症対応用の2つ作らなければなりません。それぞれのガイドラインを読み込み、自施設の状況に当てはめながら課題や問題点を拾い出し、対応策や解決策を決めていかなければなりません。BCPを策定すると、実際に災害が起こった時にはそれに従って行動するという決め事になり、人の命にも関わることです。従って、BCP策定は理事長や施設長など、権限を持ったリーダー主導で進めなければ決められないことも多いでしょうし、災害時の対応についての最終的な責任も問われます。 被災時だけでなく災害後も、一般的なオフィスや企業以上に人命に直結するサービスを提供している施設です。ただでさえ責任重大で作成が困難なBCPです。令和6年に義務化されるからではなく、すぐそこに迫っている自然災害に備えるためにも、コンサルタントやファシリテーターの力を借りて早急に策定し、研修・訓練にかかることが利用者の立場からも望まれることです。