BCPを策定する目的は何でしょう?何を目的としてBCPを作成するのでしょう?前回の「BCPとは」でも触れましたが、高齢者施設・介護福祉施設等にはBCPの策定が義務づけられました。そのため、これらの施設でまだBCP未策定の所では、BCPの策定そのものが目的となってしまいがちです。一般企業においてもどこかで大きな地震や災害がある度に思い出したように、あるいはコロナ禍で業績に影響が出たような業種でも、BCPの重要性が語られ指摘される機会が増えています。しかし、BCP策定が重要だ、急務だ、と危機感を抱くのは一部の経営層に限られ、管理職どころか取締役であっても興味を持たず、「BCPって何?」「先にやるべきことが他にある」くらいの認識の人がほとんどでしょう。 策定すべきBCPは1つではない企業活動には大小重軽、様々なリスクが取り巻いています。成長のための3カ年や5カ年計画というものは多くの企業で策定しますが、潜在的に抱えるリスクについて社内で議論しそれに備えるBCPを策定するまでの企業は希です。自然災害に備えるだけがBCP策定の目的ではありません。高齢者施設・介護福祉施設等にBCP作成が義務づけられたのは、自然災害に対するものと新型コロナウィルス感染症に対するものの2種類です。最低限この2種類の緊急事態には対応できるように備えなければならないということです。必要に応じて、それぞれの施設毎に他の危機・緊急事態に備えるためのBCPも策定しなければならないのです。厚生労働省の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」には、「災害発生時に適切な対応を⾏い、その後も利⽤者に必要なサービスを継続的に提供できる体制を構築することが重要」とあります。これらの施設のBCP策定目的はまさにこれです。「利用者に必要なサービスを継続」することがBCPの策定目的です。 止めてはならないものは何かそれでは、自社でBCPを策定する際には何を目的に定めれば良いでしょうか?BCPは事業継続計画です。緊急事態発生時に「何を」継続させることが自社にとって事業継続に繋がるのかを見極めることです。BCPは概念でもお飾りでもありません。実際の緊急事態発生時にはその計画に従って具体的に行動に移せなければならないのです。高齢者施設・介護福祉施設等のBCP策定目的が「利用者に必要なサービスを継続できる」であるように、自社(事業所・部門など)のBCP策定目的は「○○を継続させる」こととなります。従って、○○が継続できなくなる緊急事態は?それが具体的に想像できないとBCPは策定できません。止まってしまう事があってはならないものを止めてしまうあらゆる場合を拾い出していきます。たとえば大地震や河川の氾濫・大雪などで広範囲が被災し孤立したら大規模停電が発生したら水道やガスの供給が突然ストップしたら原料素材・食材・部品などの供給がストップしたら労働争議が発生したら(かつてはゼネストが盛んでした)経営者・決裁権者が急逝・入院などで経営の舵取りができなくなったら経営者・従業員の不祥事がマスコミに報じられたらサーバーがウイルスに感染したら、ハッキングされたら工場やオフィスで火災が発生したら商品・サービスなどがネット上で炎上したら従業員・スタッフの数が足りなくてシフトが組めなくなったら最大の顧客から取引停止を宣告されたら ……など業種や業態・ロケーションなどで様々な危機が想定できます。お客様や従業員の命に関わる危機だけでなく、事業存続に大きな影響を与える緊急事態もあります。全体にとっては軽微であっても、そのエリアへの影響が大きかったり撤退を余儀なくされるような場合もあります。対応についても影響が全社に及び全社で対応が必要とする物から、限られた部署やエリア・拠点で対応するべき事象まで様々です。万能なBCPなどなく、個別事象を想定してBCPを策定していくのです。 正しく取り組めばリスク削減に冒頭でBCP策定が目的化してはいけないような事を書きましたが、BCP策定を目的とすることが必ずしも悪いわけではありません(外部のコンサルタントに丸投げして形だけBCPを整えるというのはもちろん論外です)。BCPを策定する事を目的に、将来起こりそうな危機や起こって欲しくない事象を想定することから始めても構いません。危機が具体的に想像できれば、それにどう対応するか、どういう準備をしなければならないかが考えられます。しかし、これだけではBCPにはなりません。緊急時の対応だけに留まらず、さらにその先の復旧や再開のための準備や手段までまとめ、実際の緊急事態を想定したトレーニングやシミュレーションを実施して初めてBCPの最初のスタートです。BCP策定を目的として正しく取り組むことで、会社や事業所、その部署で潜在的に抱えるリスクに気づき共有することができます。潜在的なリスクを認識・共有していればBCPも常に更新されていくようになります。それは結果として会社の想定外のリスクを限りなく0(ゼロ)に近づけていく事にも繋がるのです。