BCP策定に取りかかろうとすると、誰を責任者に任命すると良いか悩みどころです。全体を俯瞰して見ることができ、現場の細部まで把握している経営TOPが指揮を執るのがもちろんベストです。しかし、それは従業員全員の顔が見える程度の企業規模や特定の業種に限られます。会社の規模が大きくなり、事業分野も多岐にわたったり拠点の数が多くなるととても無理です。BCPは1つとは限らず、目的に応じて策定する必要もあります。 amazonの物流倉庫が竜巻に襲われつい先頃、アメリカ南部で大竜巻が多数発生し、甚大な被害をもたらしました。その一つにamazonの物流拠点もあり、大きな物流倉庫の真ん中がぐちゃぐちゃに崩れ去り、しかしその建物の両端は綺麗なまま残っていました。竜巻のエネルギーの大きさを思い知らされると共に、本当に半径数十メートルという狭いエリアで局地的に被害が発生したことが解ります。テネシー州やケンタッキー州など頻繁に竜巻が発生する所では、すぐに警報を発し、サイレンを鳴らしたり携帯に警報発令を報せるインフラも整っているようです。住宅には竜巻に備えるシェルターを設置するように促し、購入・建設費用に補助も出しているといいます。当然、そのような地域に新しく大きな拠点を構えるのですから、amazonもそれ相応の備え-建物内に安全な区画を設けたり地下シェルターを用意したりはしていたはずです。そして、このようなことを想定したBCPも。被災した物流倉庫のBCPにはどんなことが想定され、どのような対応策が盛り込まれていたのでしょうか?勝手に想像してみましょう。最新のamazonの物流倉庫はピッキングなどもロボットが行い、各工程で無人化が進んでいます。とはいえ、膨大な商品を扱う倉庫には多くの人が働いていたはずです。まず、①従業員の安全確保と安否確認・救助、対策本部の設置、本社・関係連絡先への報告。続いて②被害状況の確認と影響範囲の特定・対応。そして③顧客への発送早期再開に向けて必要な取り組み。大きくこの3つの段階に分けることができるでしょう。自然災害に遭遇した際には、BCPを策定しているいないに関わらず、どの業種でもどんな会社でも①は必要です。その被害想定が竜巻によるものなのか、地震なのか、洪水なのかなど地理的にある程度事前に想定が可能で、人命を守るための防御・対応策も考えられます。しかし、②と③については複雑です。amazonはリアルに商品を扱い物流まで担っています。しかし、根幹はIT企業であり高度なデジタルデータ処理の上に成り立っています。今回被害に遭った物流倉庫も顧客からの注文にリアルタイムに処理されたデータに基づき出荷作業をしていたはずです。この作業の最中にいきなり倉庫ごと人も商品もロボットも竜巻に飲み込まれました。これが20世紀の物流倉庫であれば、全て紙の伝票で管理されていて倉庫と一緒に伝票も飛んでいってしまい、どんな注文が入っていたかさえ解らないでしょう。しかし、amazonのことですから、注文情報やその発送作業状況は自社のクラウドAWSで処理され、セキュリティもバックアップもしっかりされているはずです。データが無事であれば発送できなかった注文を、他の拠点に振り分け対応してもらうこともできるかもしれません。しかし、そのためには各所に確認や依頼をしたり調整も必要でしょう。それでも発送が遅れたり場合によっては注文をキャンセルする処理も発生するかもしれません。顧客への影響を最小限に留めるためには、関係各署への指示・依頼・決済などが速やかな処理が必要です。そのような行程もBCPには必要です。 BCPが発動されたら誰が対応指揮を執るのかBCPが発動した際に、誰が現場の指揮を執るのでしょうか?誰が指揮を執るとスムーズでしょうか?大前提はBCP全体を理解して頭に入っている人でなければなりません。その上で臨機応変に判断し決断を迫られる場面も出てきます。被害に遭ったamazonの物流倉庫のBCPは、倉庫の設計・建設段階から携わっている人が策定するのがベストです。倉庫の所長や事業部長がBCP策定の責任者であれば、被災した際の対策本部長としても十分に機能するに違いありません。これを逆から考えてみると、BCPの策定責任者は誰が適任かがみえてきます。BCPを発動するとなった時に、現場で指揮を執る人、対策本部長となる人が最適です。しかし、大きな組織では、それが会社の代表や本部長など、現場から遠い人ではいざとなった時に混乱を招くばかりです。思い出されるのが、東日本大震災で津波被害に遭った福島第一原発の原子炉事故です。吉田所長(故人・当時)の指揮の下、現場はでなんとかその苦難を乗り越えようとしているところに、遠く離れた東京の本社や官邸からの余計な関与が現場の混乱を招いてしまいました。 策定責任者に求められるスキルはBCPは策定したら終わりではなく、定期的なシミュレーション・訓練も実施し、常に見直し更新し続けなければなりません。BCPの指揮を執る人が策定の責任者になれれば一番ですが、事業部長や拠点長、ましてや社長が通常業務の中で時間を割くのは困難です。しかも、策定しなければならないBCPは複数のことも有ります。そうなると、誰か代わりを立てるか作業を分担することになります。BCPは単なる机上のプランではありません。実際に発動されれば関係各署が連携して事に当たらなければならないので、それぞれの部署で細部に渡る検討が必要になり、それをまとめて調整しなければなりません。策定責任者は役職ではなく、プロジェクトリーダーとして、全体をとりまとめる力が求められます。会社は、BCP策定責任者に役職を超えた権限を与え、その活動を支援する姿勢を社内に示すことも重要です。