企業広報について語る際、多くの場合は戦略的に「攻める」広報が主流です。メディアとの関係作り、情報提供などのメディアリレーションズ、投資家や市場に向けて情報発信するインベスターリレーションズ(IR)、社内や組織内従業員、その家族とのコミュニケーションをとるインハウスコミュニケーション、顧客や消費者と直接コミュニケーションを取るカスタマーリレーションズなど、コミュニケーションターゲット毎にカテゴリーも整理されています。近年では、SDGsへの関心も高まり、地域社会やコミュニティ、あるいは行政機関や政府とのコミュニケーションも重要となり、パブリック・アフェアーズまで企業広報の一部と見なされるようになってきました。 しかし、どのカテゴリーにも同時共通に求められるのにあまり語られないのが、バッドニュースに直面した際の「守り」の広報です。緊急事態に最前線で対応するのも広報の重要な役目です。メディアや消費者、従業員や取引先、あるいは行政組織に対して、適時的確な情報発信が求められます。 ダイヤが混乱した時の事を考えてみると移動中の地下鉄やJR、新幹線などに乗っていて突然停止したり遅延・運休になったりという経験はありませんか?しばらく止まったまま動かないと、次のアポイントや乗り継ぎに間に合わない、この先に計画していた予定・スケジュールが崩れてしまうのではという不安とストレスに襲われます。この時に適時的確な情報提供があればその情報を元にスケジュールの組み直しや必要な連絡もできます。しかし、何の情報もなければそれもできずイライラするばかりです。何の情報も無いまま待たされる、放置されるとイライラが募り、車掌や駅員を問い詰めたり暴言を吐いたり、過去には暴行に至ったケースもあります。また、事故や故障ではなく地下鉄サリン事件のようなテロや近年立て続けに起こった列車内での殺傷事件の様な場合は、乗客・利用者への的確な情報提供と安全な避難誘導がなければ更なる被害者を生んでしまいます。何が起こっているのか、どうすれば良いのかをすぐに報せてもらわなければパニックになったり逃げ遅れたりということになりかねません。乗客だけでなく、これから駅に向かおうと思っていた人や他の駅の利用者にも影響は及びます。首都圏では地下鉄と私鉄・JRとの相互乗り入れも盛んで、影響は広範囲に及ぶこともあります。こういう不測の事態に際し、鉄道会社は、広報は、何処に対してどんな情報発信や対応が必要でしょうか?危機管理広報は、このような鉄道のトラブルを自社の事業や現場で起こったトラブルに置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。 危機管理広報の第一歩は平時に緊急事態(クライシス)が発生した際、危機的なダメージを被る可能性があると判断されたら、緊急事態対策室や対策本部を設置します。対策本部が設置されると、その事態に関する情報は一元化され、本部の広報チーム(窓口)から発することになります。対策本部が設置されない場合でも、広報窓口は一元化しなくてはなりません。クライシス時には、誤った広報対応が更なる混乱、危機に追い込むことは少なくありません。そうならないためにも平時からのリスクマネジメントは重要です。リスクコミュニケーションだけでなく、メディアや顧客などステークホルダーとの良好な関係や信頼を得ておくことで、クライシス発生時の反応も違ってきます。ステークホルダーが第一報に接した際、「やっぱり」と捉えるか「まさか!」「どうして?」と反応するかはその後の情報発信の仕方にも大きく影響してきます。SNSやネットで誰もが情報を発信することができる時代、偏った意見や視点で見られて思いもよらない方向に誘導されることもあります。そのようなリスクも想定して備えなければならない時代になってしまいました。 初動対応は時間との闘いクライシスの発生情報は、多くの場合は外からもたらされます。警察や司直からの連絡・問い合わせだったりマスコミの取材だったり。マスコミの報道で初めて知るということもあります。まさに寝耳に水です。いかに情報をコントロールできるかは初動の対応にかかっています。マスコミやSNSが先走ってしまうと情報発信の主導権を握られてしまいます。誤った情報や意図しない報道が先行すると、それを打ち消したり修正するのにも多大な労力を必要とし、その間に悪意を持った投稿やおもしろ半分に炎上を煽る投稿などがネットに溢れ、企業イメージを毀損する事態にもなってしまいます。そうならないためにも、第一報が入ってからの初動が重要です。コールセンターやお客様窓口を開設している場合には、顧客や取引先だけでなく様々な人から問い合わせやクレームが来ることも予想されます。SNSの公式アカウントに対しても同様の反応があるでしょう。危機管理広報は、このような外に開かれた情報発信・受付窓口も含め、平時から緊急時の対応をコントロールしなければなりません。緊急時対応の瞬発力だけでなく、平時からリスクに備える・減らす企業活動の積み重ねが危機に際して小火で鎮火できるか、はたまた大炎上して存亡の危機に発展するかを分けることにもなります。平時のリスクをデザインすることが、危機に際してのダメージコントロールに繋がり、その延長線上に危機管理広報は存在します。