ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧米諸国と日本などはロシアに対しての経済制裁を表明、実行に移してきました。同時に各国の企業でもロシア事業の見直しやロシアとの取引を縮小、撤退する動きが活発化しました。経済制裁への参加・協力という企業もあれば、決済手段が限定され更にはルーブルの暴落により事業を継続していても収益が悪化するので事業を停止するという企業もあります。ロシア事業の撤退や縮小を表明する企業が相次ぐ一方で、事業継続を模索する企業もあります。 カントリーリスクを越えるレピュテーションリスク自由主義経済の国の多くの企業はウクライナに寄り添い、ロシアの一方的なウクライナ侵攻に対する抗議の意志を表明するためにロシアからの撤退やサービスの提供を取りやめています。そんななか、明確な意思表明をしない企業やそれぞれの企業の考え方に基づいて事業継続を表明する企業もあります。3月8日の日経新聞電子版にはニューヨーク州年金基金の会計監査役は4日、マクドナルドやペプシコ、化粧品大手エスティ・ローダーなどの投資先にロシア事業を停止するよう求める書簡を送った。コンプライアンス(法令順守)や人権、レピュテーション(評判)などのリスクを挙げ、「事業を停止することによって、国際秩序を脅かすロシアを非難する上で重要な役割を果たせる」と主張した。と、ニューヨーク州年金基金の会計監査役が、コンプライアンス・人権と共にロシア事業継続へのレピュテーションリスクについて言及したことを紹介しています。また、日本企業の対応についても、日本企業ではカジュアル衣料の「ユニクロ」がロシア国内の50店で営業を続けている。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」と述べ、事業継続の意向を示している。米ブルームバーグ通信は7日、日本経済新聞が伝えた柳井氏のコメントを引用し、「ZARA(ザラ)」などを展開するアパレル最大手のインディテックス(スペイン)がロシア全店を一時閉鎖したのとは対照的な対応だと報じた。ブルームバーグはトヨタ自動車やホンダがロシア生産や輸出を止めた一方、日本たばこ産業(JT)は事業を続け、三菱商事や三井物産も石油・天然ガスプロジェクトからの撤退を急いでいないと指摘し、日本企業の対応が割れていると解説した。と報じています。ロシアで事業展開する企業の対応を世界中が注視しているのがわかります。この記事が出た3月8日時点は事業を継続していたコカ・コーラやスター・バックス、マクドナルドなども後に方針転換し、ユニクロも後に方針転換して営業停止を発表しました。 ウクライナの危機管理広報のインパクトウクライナ外務省は3月10日に同省公式フェイスブックにロシアで事業継続している企業名(ロゴマーク)を公開しました。日本の企業では、三菱やファーストリテイリング、JT、ブリヂストンなどのロゴもありました。投稿本文では、ロシアの市場で企業が供給、生産、または販売するすべての製品は、常にロシア政府にとって優先事項である軍事予算に貢献するとし、ただちにロシアでの活動を完全に休止するよう求めています。この投稿は多くのシェアとコメント、更にはTwitterや他のSNSでも拡散され、ここに掲載されたロゴの企業に対して大きなプレッシャーとなりました。ウクライナ外務省だけではありません。アメリカではエール大学のジェフリー・ソネンフェルド氏らのチームがほぼリアルタイムでロシアに進出している企業リストを更新しています。リストはA(完全撤退)~F(事業継続)の5つのグループに分けられています。このレポートによれば、初めて2月末に公開された時に撤退を表明していたのは数十社だったのが、3月28日では450社に上っています。グループA(撤退)を表明している企業は178社、ほとんどが欧米の有名企業です。対して、グループFには中国の企業・ブランド名が多く並んでいます。トヨタやSonyなど日本の企業の多くはグループBの事業停止・中断を表明した192社に中に見られます。ユニクロもグループBにありますが、日経新聞の記事やウクライナ外務省のFacebookにもロゴがあった様に、当初柳井社長は事業継続を表明しネットなどでは物議を醸していました。ロシア政府は企業活動の停止や撤退を決めた外資企業に対して、ロシア国内にある企業資産を差し押さえる方針を打ち出したりもしたので、大きな出血を伴う事業停止や撤退を決める経営判断は難しかったのかもしれません。しかし、世界はロシアとの取引を通じてお金や物を供給することで、間接的にロシアの軍事攻勢に資金を提供することに繋がるという認識です。ロシアの軍事侵攻の片棒を担いだ企業と見られてしまいます。これはグローバルに展開する企業だけでなくドメスティックな企業でも、ロシアとの取引を続けていることは理念や大義なき企業と見なされ、レピュテーション(評判)を下げることに繋がりかねません。パーパス経営に注目が集まっているなか、企業の存在理由を明確にし、企業理念やミッションをウェブサイトに明示する企業が増えてきました。レピュテーションリスクと向き合うためには、まず企業のパーパス、企業理念やミッションに立ち戻ることです。