4月16日の講座で株式会社吉野家 常務取締役 企画本部長(当時、以下常務)が発した「生娘をシャブ漬けに戦略」などの発言がテレビやネットで大きな話題となりました。38万5,000円(税込み)の受講料で4月16日から3カ月にわたって開催される、早稲田大学社会人教育事業室が主催する「デジタル時代のマーケティング総合講座」の初日の講座。カリキュラム・時間割(4月18日に修正済)を見ると、実際の企業の課題に基づいた「デジタル時代のマーケティング計画策定」を5名程度のグループで討議しながら進めるPBL科目(Project Based Learning 課題解決型学習)を常務は担当していたようです。この「実際の企業の課題」で吉野家の若い女性を取り込むマーケティング施策について話した際の発言のようです。講師である常務からは、「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」と前置きした上で「生娘をシャブ漬けに戦略」とか「田舎から出てきた右も左もわからない若い女の子を牛丼中毒にする」といった発言があったと、受講生がSNSへ投稿しています。すると、BUSINESS INSIDER JAPAN 編集部は投稿者にコンタクトを取り、当日の状況やSNS投稿に至った思いや大学の対応などを詳細に記事にしました。吉野家「生娘をシャブ漬け戦略」抗議した受講生が詳細語る。「教室で笑い起きた」発言の内容や当日同席していた他の講師、受講者の様子なども詳細に書かれていますので当日の様子はこちらの記事に譲り、吉野家、早稲田大学の対応について確認してみます。 直ちに常務を断ち切った早稲田大 まず、主催者であり受講者から抗議を受けた早稲田大学は、当日講義の最後に早稲田大学の教授から謝罪。18日に早稲田大学のウェブサイトと社会人教育プログラムWASEDA NEOのサイトに謝罪文を掲載しています。WASEDA NEOの謝罪文は「(お詫び)講座内で起きた不適切発言について」とする講座主催者としての謝罪と再発防止に務めるという落ち着いたものですが、早稲田大学本体に掲載された文章は「本学講座における講師の不適切発言について」として、学外の学修者へのリカレント教育である「デジタル時代のマーケティング総合講座」における講義担当の株式会社吉野家常務取締役企画本部長の発言は、教育機関として到底容認できるものではありません。早稲田大学として受講生の皆様に心よりお詫びするとともに、当該講師に厳重に注意勧告を致します。 なお、当該講師には「デジタル時代のマーケティング総合講座」の講座担当から直ちに降りていただきます。早稲田大学 と怒りをにじませる厳しいものでした。WASEDA NEOの受講生だけでなく本学の在学生や卒業生、これから早稲田大学を目指そうとする高校生やその保護者・高校や予備校関係者に向け早稲田大学の姿勢を明確に表したものといえます。ここで対応を誤れば早稲田大学まで巻き添えになって評判(レピュテーション)を落としかねません。 会社としての対応が後手に回る吉野家一方の当事者である吉野屋も同じく4月18日、サイトに謝罪文のPDFを株式会社吉野家名で掲載。しかし、PDFのプロパティでは、謝罪文の作成者が常務の名前になっていた(現在は削除)ことでプロパティのスクリーンショットがTwitterに投稿されるなど再び炎上することになります。プロパティで確認できるのは、作成日時は4月18日11:29:22、更新が15:23:49となっていますので、この時刻にプロパティを変更して再度アップしたと思われます。そして翌19日、株式会社 吉野家ホールディングスとして常務の役員解任を正式プレスリリースしました。 吉野家はこのわずか1カ月前にも「魁!!吉野家塾」というヘビーユーザー向けキャンペーンでファンをがっかりさせていました。期間は2021年7月15日~2022年3月31日の259日間で、期間中に吉野家を利用すると1日1米礼(マイル)が貯まり、獲得米礼で師範、達人、匠、仙人の称号が与えられます。更には登録エリア内での順位を公表して競い合わせました。昇格する毎に特典も付与され、仙人に到達すると名前入りのオリジナル丼がプレゼントされるというものです。仙人に到達するためには220米礼必要で、1日1米礼ずつ貯めて220日かかります。259日間で220米礼ということは週6日以上吉野家に通わなければ達成できません。名入り丼を目指し、やっと220米礼獲得して「名入り丼特典先配送入力フォーム」を開くと「特典を受け取ったご本人様のお名前に限ります。下欄の入力フォーム『姓』『名』にご入力いただいた内容で製作いたします」と記載されていました。さらに、「家族、友人等第三者、キャラクター、タレント、ニックネームなどは使用できませんので予めご了承ください」とも。恐らく、仙人に昇格した暁に丼に入れる名前もいろいろと考えていたはずです。しかし、到達して蓋を開けてみると「本名」に限定とあったので、後から名入れの条件を出すとはいかがなものかと物議を醸したのです。このキャンペーンに参加していたのは、吉野家のヘビーユーザーであり熱烈な吉野家ファンだったはずです。売り上げを上げる事、話題になることだけを考え、顧客の気持ちが置き去りにされたといわざるをえません。ファンを裏切ってしまったのです。 かつてのあの矜持はどこへ? 吉野家といえば2004年、BSEでアメリカ産牛肉が輸入できなくなった際には、吉野家の味は豪州産や他の国の牛肉では味が変わるからと牛丼の販売を一時中止しました。牛丼一筋と謳う吉野家の牛丼に対する姿勢、味へのこだわりと、妥協して顧客の信頼を裏切ることができないという矜持を吉野家ファンは感じ取ったものでした。それだけに、2年後に牛丼が復活した時には吉野家の牛丼ファンの歓ぶ姿がニュース画面に溢れました。「魁!!吉野家塾」の混乱に続き今回の常務の発言、更にはその後の会社の対応などを見るとBSEの時に見せた吉野家の矜持はかけらも感じられません。常務の発言、その後の対応からは現経営陣が顧客を数字でしか見ていないのではないかと感じさせてしまいます。ヘビーユーザーの吉野家ファン、多くの女性に嫌悪感を抱かせただけでなく、決定的にレピュテーションを毀損した吉野家。吉野家不買運動の#(ハッシュタグ)が立つなど、今後の業績にも少なからず影響が出そうです。追記:2022年5月10日5月6日、吉野家ホールディングス(HD)は牛丼チェーン吉野家の採用説明会に予約した大学生に対して、本人確認もせず名前や大学、居住地などから外国籍であると勝手に判断し、参加を拒否していたと明らかにしました。「内定しても就労ビザの取得が非常に困難」なためと説明していますが、吉野家HDは東証プライムの上場企業。これを取り上げた報道番組のコメンテーターは、就労ビザの申請が拒否されることは考え辛いといいます。吉野家の採用ページ(RECRUITING SITE 2022 多様性をもたらす外国籍社員の働き方 )では「『ダイバーシティ』をキーワードとし、組織の活性化を目的に、外国籍社員の積極的な登用を続けています」と、外国籍社員採用に前向きな姿勢を謳っていますが、実態は全くかけ離れた採用姿勢であったことが露呈しました。ESGの視点を重視しているという以上、自ら選定したマテリアリティ(重要課題)について検証する必要があるようです。吉野家ホールディングスグループは、経営理念『For the People』が示す「企業は社会のニーズを満たし、人々の幸せに貢献するための存在である」との認識を具現化すべく、事業活動において環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の視点を重視しています。サステナビリティ基本方針とマテリアリティ(重要課題)より