「レピュテーションリスクについて考えるべき時が来た」でいきなりレピュテーションリスクに触れ、これまでレピュテーションに関する記事を2つ続けました。しかし、レピュテーションについてきちんと整理しないままでしたので整理することにします。 レピュテーションは単なる評判ではなく企業評価企業経営においてレピュテーションというワードが注目され始めたのは20世紀終盤。レピュテーション研究の第一人者と言われたニューヨーク大学スターン・スクールの経営学教授兼レピュテーション研究所所長のチャールズ・フォンブラン氏が体系的に整理し、1996年に『REPUTATION』という本に著しました。日本語では「評判」と訳されますが、ここでレピュテーションは一つの指標で語られるのではなくあらゆるステークホルダーとの関わりの中で複合的に紡ぎ上げられるものと位置づけられました。「Corporate Reputation Review」誌の創刊は1997年、日本でレピュテーションについて議論・研究され始めたのは「日本の経営者のレピュテーション・マネジメントに関する認識」(櫻井通晴氏論文2010)によればやはり1990年代後半ではないかと思われますが、日本で翻訳本を含め、レピュテーション関連の本が出版され始めたのは2000年代になってからです。その後、ハリスインタラクティブ(Harris Interactive)とフォンブラン氏が共同で開発したRQ(Reputation Quotient : 企業評価指数)は、企業の評判を測定するための標準化された指標として認知され改良・発展していきます。評価の指標は(1)品質とサービス (2)財務業績 (3)職場環境 (4)社会的責任 (5)ビジョンとリーダシップ (6)情緒的アピール の6次元で合計20の属性に細分化されていました。2000年前後にはCorporate Reputation Review誌やThe Wall Street Journal誌にはRQスコアで評価した企業レポートが掲載されました。日本では日本経済新聞社と日経リサーチが企業評価システムPRISMを共同開発し、「収益・成長力」「社会性・透明性」「環境・研究」「若さ」の4項目について評価、順位を付けました(2010年に新システム、NICESに移行)。ところで、私たちがよく知るミシュランガイドの星の評価も5つの基準の総合評価としていますから、レピュテーション数値化の先駆けとも言っても良いでしょう。 利用者の生の評価がリアルタイムで公開されるしかし、上記の整理はインターネットが今ほど普及する以前のものです。インターネットが普及する以前は、商品やサービスを評価するのは専門家でありマスメディアでした。「評判が良い」という場合には、専門家の評価が高い、メディアの受けが良いということとほぼイコールでした。21世紀にインターネットが広く普及し始めると、日本では2chなどの電子掲示板、mixiやGREEなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)が広まります(同じ頃アメリカではMySpace、LinkedIn、Facebookがスタート、拡大)。マスコミには出ない限られたマニアの集まりのみで共有された評価や評判も、ネットのグループに参加することで知ることができるようになり、また自らも評価に参加することも可能になりました。楽天市場やamazonなどのECサイトや食べログなどのレビューサイトでは、利用者・購入者が商品やサービスを星の数や点数で評価し、コメントできる機能を持たせました。これにより、利用者のリアルな声を参考に商品選びができる様になります。売る側、商品・サービスを提供する側からすれば、売って終わりではなくなりレビューや評価を意識せざるをえなくなります。 検索サイトでは、先行していたYahoo!がディレクトリ型(登録されたサイトのみが検索対象)だったのに対し、ロボット検索によるGoogleの登場で、ネット上のあらゆる公開情報が検索対象になりました。Yahoo!では見つからなかった個人のブログやマニアックなサイトも目にとまる様になり、ニッチなワードや検索語の組み合わせで専門家が手がけない分野や新たな視点、ピンポイントの情報を発信する個人にも注目が集まるようになりました。また、多くの有名人もブログをスタートさせ、マスメディア並みの読者を持つブロガーが登場するようになります。ブログでの評価や記事内容が商品やサービスの売り上げや風評に影響を及ぼす様になり、ブロガーという肩書きも一般的になります。新商品発表会や新規開店前のメディア向けプレスデーには、ブロガー(後にインフルエンサー)が招待されることも増えました。Facebook、Twitter、Instagramが日本に上陸しSNSの主流となると、急激に利用者が増えたことでコミュニケーションネットワークのインフラとなっていきます。重要な情報や、共感し広く知らせたい投稿などはシェアやRetweet機能により友人だけでなく知らない第三者へも広く情報を拡散させることができます。さらに、ブログほど構えることなく日常をつぶやく(あるいは写真や動画を投稿する)だけでなく、同じテーマを共有する#(ハッシュタグ)機能により、#でくくられたテーマ(商品名やサービス・固有名詞から曖昧な言葉、造語まで)に対してどのような書き込みがされているのかを見ることもできます。レビューサイトは商品やサービスから対象をどんどん広げ、あらゆるステークホルダーがあらゆる方向から企業を評価しそれが公開され、ネット上に情報が溢れています。今ではネット上の書き込みがRQのスコアほぼ全てに影響を与える可能性があるのです。 レピュテーションを資産と捉えるレピュテーションはブランドや特許・著作権などと同じように無形資産・知的財産(インタンジブル)と考えられます。ミシュランや食べログの星の数も、お金で買うことはできませんが失うと業績に大変な影響を与えることから、無形財産と捉えることができます。レピュテーションは正(プラス)だけでなく負(マイナス)もあります。長い時間をかけて高いレピュテーションを獲得しても、たった一人の失言でいきなりマイナスになることもあります。負のレピュテーションは目に見えない負債となって長く業績に影響を与え続けることもあるので、近年ではレピュテイション・マネジメント(R)にも注目が集まっています。※レピュテイション・マネジメント(R)は、株式会社ブライト・ウェイの登録商標です。