義務教育から高等教育まで、日本には数多くの教育機関があります。文部科学省の学校基本調査(令和3年度)によれば、幼稚園から大学・専修学校まで合わせると55,476校、そこでは園児・生徒・学生15,269,367人が学んでいます。働く専任教員数も1,170,470人、非常勤や事務・用務職員などを加えると更に多くの人が関わっています。教育の現場ではそれぞれに違う子ども達の成長と共に関わり方も変化しなければなりませんし、先生と生徒という関係性の中では時にハラスメントというナーバスな問題も持ち上がります。また、教室内、クラブなどの校内活動中だけでなく、登下校時や放課後にも子ども達には様々な誘惑や危険が潜んでいます。マスコミで取り上げるような大きな話題にならないまでも、日本全国で日々様々なトラブルが起きています。 失敗が多い教育機関の会見4月23日に知床半島カシュニの滝沖で、遊覧船が沈没。それから行方不明者の捜索状況や船の引き上げに関するニュースなど、報道番組で1カ月以上にわたり毎日報じられています。運航会社の有限会社知床遊覧船社長が謝罪会見をしたのは事故から4日も経った4月27日。しかし、その会見で説明された事も次から次に違う事実が明らかとなり嘘が覆されることとなります。この知床遊覧船の社長による失敗会見とほぼ同じ頃、ある高校ではネットで注目を集める事件が起きていました。熊本県八代市の私立高校サッカー部での男性コーチによる暴行動画の流出に端を発する問題。4月20に動画流出がわかり、4月22日に部員がサッカー部公式ツイッターに経緯を説明する動画を投稿します。投稿された動画は生徒主導で謝罪したとされていましたが、実は監督の指示で作られ投稿したことがすぐに明らかになりました。4月25日にコーチが書類送検され、5月4日に保護者への説明会、5日に会見が行われています。しかし、5月5日の会見も監督の説明も嘘ばかりだったとサッカー部OBなどからの告発もあり、監督も学校を退職。知床遊覧船の社長の会見と同様に後から嘘がばれて自らを窮地に追い込む、やってはならない典型的なパターンです。少し前の2018年の悪質タックル事件でも、日大アメフト部の監督・コーチが会見をしましたが大荒れとなった事を覚えている人も多いでしょう。5月26日には、野球部員がランニング中に倒れ翌日に死亡していたと、岐阜県大垣市の大学が記者会見を行いました。学生が倒れたのは5月14日で、監督・コーチは救急車を呼ばず、30分ほどして車で病院へ運んだということです。死因は明らかにされていませんが、この時の対応や公表(会見)まで10日も空いたことなどに批判や疑問が寄せられています。増え続ける子どもの自殺 2020年度の小・中・高校生の自殺は415人(2021年10月13日 文部科学省生発表)で、過去最多となりました。毎日1人以上、どこかで自殺していることになります。コロナ禍による学校閉鎖や社会環境・家庭環境の変化もあったでしょうが、この10年、増加傾向であることは間違いありません。生徒が自殺をすると、クラスメートだけでなく同級生や同じ学校の生徒にも精神的なショックや動揺が広がり、心のケアやフォローに追われることになります。いじめを苦に自殺ともなれば、犯人捜しや学校や教育委員会の対応への批判なども湧き上がり、マスコミの注目を集める展開になることも珍しくありません。保護者説明会では、その学校で一緒に学んでいた子ども達の保護者とも向き合わなければなりません。我が子にも同じ事が起こるかもしれないという危機感から、マスコミとは違う厳しい追及があることも想像に難くありません。生徒同士のいじめだけでなく、クラスメイトや先輩後輩、先生、コーチとの人間関係、LGBTQへの対応やさまざまなハラスメントも自殺の要因となり得ます。 多くの子ども達を預かる責任アメリカでは度々起こる銃撃事件。大学や高校にとどまらず、5月には小学校でも銃撃事件が起きてたくさんの死傷者が出ています。銃の規制が厳しい日本では、このような銃撃事件こそ起きていませんが、刃物による襲撃事件・殺傷事件は何度も起きています。記憶に新しいところでは川崎市で2019年5月、スクールバスを待つ児童や保護者が包丁を持った男に襲われ多くの死傷者が出ています。2021年11月には宮城県の認定こども園に子どもを殺す目的で男が刃物を持って侵入しましたが、こちらは幸いにも不審に思った職員と園の適切な行動で園児を避難誘導し、男を取り押さえて被害を未然に防ぐことができました。このこども園は、21年4月に開園したばかりで、この事件の前に不審者対応の訓練を2回行っていたそうです。訓練が功を奏し、「いかのおすしが届きました」の合い言葉と共に職員は連携を取り冷静に対処することができたといいます。 教育の現場に潜むリスクは一般企業よりも多岐にわたり複雑かもしれません。それでも、事前にリスクを洗い出し十分な準備を怠らなければ、もしもの事態が起こっても被害を最小限に留める事ができるのです。もちろん、学習塾や予備校も例外ではありません。教育現場でのあまりにも複雑なリスクに備えるため、文部科学省では学校の危機管理マニュアル作成の手引きを公開しています。企業におけるBCP作成マニュアルに似た位置づけとなりますが、危機管理・対応マニュアルが未整備な教育機関は参考にして見直すと良いでしょう。仔細に渡って具体的に示してありますのでダウンロードして現状のマニュアルの見直しの参考にもなるはずです。