少し前のことになりますが、前後して日本バレーボール協会と日本フェンシング協会の会長が会見を行いました。日本バレーボール協会は、今年1月に前会長が解任され3月に就任したばかりの川合俊一会長。日本フェンシング協会は、1年前に太田雄貴氏からバトンを引き継いだ武井壮会長。二人ともアスリート出身のテレビタレントとしても露出が多く、就任時は話題を集め注目されました。その二人がそれぞれの協会長として相次いで不祥事の対応でカメラの前に立つこととなりました。 不祥事発覚を改革の好機とするバレーボール協会大阪府バレーボール協会では約4,700万円の使途不明金が明らかになり内部調査を行った結果、2005年から2021年まで会計を担当していた男性理事が2,579万円を着服していたことが判明しました。川合会長は6月28日、大阪府バレーボール協会が不祥事についての発表と謝罪会見を行った際、「本件を重く感じ、しっかり受け止めて、私も同席することとした」と日本バレーボール協会長として謝罪しました。会社組織で言えば、子会社の不祥事の謝罪会見に親会社の社長が同席して謝罪するようなものです。ネットでも、責任感が強い、潔いと好感を持って受け止められました。そして30日、協会の総会後に取材に応じ、「47都道府県の協会、全ての法人化を目指す」と再発防止策に取り組むことを明らかにしました。日本バレーボール協会でプロジェクトチームを立ち上げ、各都道府県の協会法人化に向けて補助金を出したり、業務のサポートを行ったりするといいます。法人として会計管理を厳密にし、運営に透明性を持たせることで、着服や不正が起こるのを防ぐのが狙いです。法人格を取得した都道府県から優先的に日本代表戦を開催するなど、法人格を取得するメリット(取得しないことで生じるハンデ)も示し、積極的な組織改革を進める姿勢を示しました。 日本バレーボール協会ではお家騒動が続き、ついには診断書偽造・事実隠蔽で前会長が解職されるなど問題続きでした。協会の信頼は地に落ち、協会長を引き受ける事は火中の栗を拾うようなものです。川合会長にはそれ相応の覚悟があったはずです。就任時からバレーボールへの愛や選手育成への思い、そして組織改革を通じてバレーボールの人気復活を誓っていたことは容易に想像が付きます。大阪府バレーボール協会での不祥事発覚は、川合会長にとっては組織改革の好機と捉えたのでしょう。一気に改革を進める姿勢を明確にし、具体的な再発防止策として協会の法人化を打ち出しました。 文春砲2連発で火だるまのフェンシング協会日本フェンシング協会は、立て続けに文春砲の標的となり対応を迫られることとなってしまいました。昨年11月のフランス遠征の際、日本代表選手同士の不倫(男性選手は10月に結婚したばかり)が代表チーム内で問題となり、男性選手が今年4月に現役引退を発表。この「引責引退」(週刊文春)をするに至った経緯を6月9日発売の週刊文春が詳しく報じました。この直後の6月18〜25日に実施された、東京五輪で団体金メダルを獲得したフェンシング・エペの日本代表チームの沖縄合宿。この代表合宿の様子が再び文春砲の的となってしまいます。週刊文春のことですから、継続取材でフェンシングの代表の行動に関心を持っていることは容易に想像が付きます。エペの選手合宿なのに、参加選手と以前交際していたフルーレのコーチも参加して、合宿参加者内に波紋を呼んでいたと言います。このようなネタを文春が見逃すはずがありません。6月29日の文春オンライン記事によると、選手達がビーチで海水浴、バナナボート、シュノーケリング、ビーチバレー、一部は家族を同伴して同部屋に宿泊し観光を行ったなどと報じています。もちろん、エペの選手とフルーレのコーチの様子も写真付きで…世界選手権メンバーの4人と7名の「JOC次世代アスリート育成強化事業」の対象者には、合宿費用の2/3(文春の試算では総額約110万円)がJOCなどからの助成によって賄われる予定でしたが、この報道を受けて日本フェンシング協会は助成金の申請を見送るとしました。 このレジャー合宿報道に際しての武井会長の対応について、批判や落胆の声が聞かれます。文春オンラインで報じられる前日、SNSの「ふう、さすがにもう守りきれん」という投稿がこの記事が出ることを報されてつぶやいたのでは、と批判され、初動(の印象)が悪すぎます。さらに、7月2日の理事会後に取材に応じた武井会長は、「メニューに関しては報道された“レジャー合宿”“バカンス合宿”とは違う印象を持っている」、「騒動になった一番の原因は、合宿内容を我々が把握しておらず、すぐに回答できる準備ができていなかったこと。合宿の承認や開催に向けた業務フローは改善できる部分がある」などと語り、合宿を催行した事務局や参加者を擁護する姿勢を見せました。一方で、自身も含め一連の不祥事の責任の取り方や再発防止、組織改革、体質改善などについての具体的な言及はありませんでした。 経緯はどうであれ、そのポストに就いたなら日本バレーボール協会の川合会長は、どん底の状態で会長職を引き受けました。新しい会長が何も改革をせず、それまで通りのことを続けていればバレーボール人気は低迷し、どこかで使い込みや不祥事がまた起こるかもしれません。川合会長はそれを良しとせず、不退転の決意で会長を引き受けたはずです。毎日新聞のインタビュー記事でも、日本のバレー界をどうしたいのか、その先のビジョンと目標が明確です。協会内の守旧派やベテラン職員に煙たがられようと抵抗にあおうと協会を改革していくことでしょう。一方の日本フェンシング協会は、前会長の太田雄貴氏が任期満了に向け後任に武井氏を、と何度も何度も口説いて固辞する武井氏の首を縦に振らせて就任にこぎつけたと言います。アスリートとはいえフェンシング経験がない武井氏ですから、理想はあっても協会や選手に遠慮や忖度が少なからずあったかもしれません。川合会長と比べると歯切れの悪さが際立ちました。企業経営でも、M&Aやヘッドハンティング、親会社から子会社への出向、あるいは社内の人事異動でも、思いもしない形で会社や組織を任されることがあります。経緯はどうであれ、組織を任されTOPについたその瞬間から全ての責任を問われる立場となり、そこから逃げることは許されないのです。