近年、豪雨災害による浸水被害が増加し、企業の業務継続計画(BCP)を策定するうえで、水害リスクを考えることが不可欠となり、その基礎資料として浸水予測図を活用することが必要です。また、不動産取引においても、甚大な被害をもたらす大規模水災害の頻発を受けて、水害リスクに係る情報が契約締結の意思決定を行う上で重要であることが認識されました。そのため水防法(昭和24年法律第193号)に基づき作成された水害ハザードマップを活用し、水害リスクに係る説明を契約締結前までに行うことが必要とされ、不動産取引の重要事項に水害リスクに係る説明が追加されています。地域の浸水予測を示すものとして、「洪水浸水想定区域図」と「浸水ハザードマップ」があるのでその違いを知っておきましょう。洪水浸水想定区域図洪水浸水想定区域図は、国土交通省及び都道府県が、洪水予報河川及び水位周知河川に指定した河川について、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保するため、又浸水を防止することにより水害による被害の軽減を図るため、想定し得る最大規模の降雨(想定最大規模降雨)により当該河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を洪水浸水想定区域として指定し、指定の区域及び浸水した場合に想定される水深、浸水継続時間を「洪水浸水想定区域図」として公表しています。また、これと合わせ、河川の洪水防御に関する計画の基本となる降雨(計画規模降雨)により河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域及び浸水した場合に想定される水深についても公表しています。さらに、平成27年9月関東・東北豪雨においては、堤防決壊に伴う氾濫流により家屋が倒壊・流出したことや多数の孤立者が発生したことを踏まえ、住民等に対し、家屋の倒壊・流失をもたらすような堤防決壊に伴う激しい氾濫流や河岸侵食が発生することが想定される区域(家屋倒壊等氾濫想定区域)も公表しています。洪水ハザードマップ洪水ハザードマップは、浸水想定区域をその区域に含む市町村の長は、市区町村において、「洪水浸水想定区域図」に洪水予報等の伝達方法、避難場所その他洪水時の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な事項等を記載した「洪水ハザードマップ」を作成し、印刷物の配布やインターネット等により、住民の方々に周知するようにしています。このように、浸水区域だけでなく避難に関する情報を入れたマップになります。洪水浸水想定区域図や洪水ハザードマップは、国土交通省のハザードマップポータルサイトにおいて、洪水浸水想定区域図は「重ねるハザードマップ」で、洪水ハザードマップは「わがまちハザードマップ」から参照することができます。以下に洪水浸水想定区域図の使われる要素について説明します。洪水浸水想定区域図が示される洪水予報河川とは?洪水浸水想定区域図における、国土交通省及び都道府県が、指定している洪水予報河川とは流域面積が大きい河川で洪水により国民経済上重大な損害を生ずるおそれがあるとし指定した河川になります。この河川では、 河川管理者( 国または都道府県) は気象長官と共同して、 洪水予報を行います。洪水予報は、あらかじめ指定した河川について区間を決めて、増水により氾濫のおそれがある場合に発表されます。それは、指定河川洪水予報の標題には、氾濫注意情報、氾濫警戒情報、氾濫危険情報、氾濫発生情報の4つがあり、河川名を付けて「〇〇川氾濫注意情報」「〇〇川氾濫警戒情報」のように発表します。この氾濫注意情報が洪水注意報に相当し、氾濫警戒情報、氾濫危険情報、氾濫発生情報が洪水警報に相当することになります。なお、これらとは別に、気象庁が単独で行う注意報や警報の中にも洪水注意報や洪水警報がありますが、対象地域にある不特定の河川の増水における災害に対して発表しています。洪水浸水想定区域図が示される水位周知河川とは?洪水浸水想定区域図における、水位周知河川は、国土交通大臣または都道府県知事は、洪水予報指定河川以外の河川のうち、洪水により国民経済上重大な損害を生ずるおそれがあるものとして指定した河川になります。この河川では、特別警戒水位を定め、この水位に達したときは、その旨を水位または流量を示して通知・周知しています。洪水浸水想定区域図で使われている「想定最大規模」とは?近年、ゲリラ豪雨の増加や、台風による被害が増えています。それを受け、平成27年水防法が改正され、予想することができる最大規模の降雨があったときに、浸水が想定される区域を指定し、浸水想定区域図を公表することになりました。洪水氾濫などの水災害を防ぐために、降雨などによる河川に対する影響を想定するときに使う、想定することのできる最大規模のものを考えます。「想定最大規模降雨」とは「想定しうる最大規模の降雨」のことで、発生頻度としては、約1,000年に1回程度を想定しています。河川施設整備の水準とする計画規模(大河川で約200年に1回程度)を大きく上回る自然現象を対象としています。これは、日本を降雨特性が似ている15の地域に分け、それぞれの地域において観測された最大の降雨量を設定することを基本としています。ただ、その降雨量が年超過確率1/1,000程度の降雨量(1年の間に発生する確率が 0.1%程度の降雨で、発生確率は小さいですが規模の大きな降雨である)と比較して小さい場合は、年超過確率1/1,000程度の降雨量を目安として設定します。1000年に1度程度とは、1000年に1度来る降雨というわけではなく、1年の間に発生する確率が0. 1%程度の降雨になります。洪水浸水想定区域図で使われている洪水浸水想定区域図「計画規模」とは?「計画規模降雨」とは「河川整備の目標とする降雨」のことで、洪水を防ぎ、河川を整備するときに使う基準で、洪水が発生する確率で表します。河川の流域の大きさや災害の発生の状況などを考慮して定めるものとされています。それは一級河川では、100 ~ 200年に一度の確率で発生する洪水に対して安全な河川管理を行っているところが多く、小さな河川では、10 ~ 50年に一度の確率とされているところもあります。「10年に1度発生する洪水」よりも「100年に1度発生する洪水」のほうが、大きな洪水になります。そのため「想定最大規模」の方が、大きな災害になるといえます。自治体等では、洪水浸水想定区域図を公表していますが、「想定最大規模」の図は、被害が想定できる最大規模のもので、「計画規模」の図は何年かに一度起きる洪水や浸水を表しています。洪水浸水想定区域図と洪水ハザードマップの記載されている情報の内容と意味を知ることにより、地域の水害リスクの実態を理解することになり、水害対策の基礎情報になります。