リスクマネジメントは、経営者や広報部など一部の人が気を付けていればいいというものではありません。どんな業界、どんな職種でも、ビジネスパーソンなら十分配慮する必要のあるものです。もっとも身近なリスクの例としては、ハラスメントが挙げられます。企業としても法的責任が問われますが、働く人にとっては“すぐそこ”にある問題。セクハラ、パワハラに始まり、お酒を強要するアルコールハラスメント(アルハラ)、「仕事って楽しいよな」という価値観を押し付けるエンジョイハラスメント(エンハラ)、さらにはエアコンの温度設定をめぐるエアーハラスメント(エアハラ)なるものまで……。その種類は実にさまざまです。相手が嫌な思いをする原因は意外なところに潜んでいる――。そういった想像力をはたらかせないとトラブルにつながってしまうのが、現代の職場環境なのかもしれません。無意識に加害者になることもとはいえ、今は研修などでハラスメントとその注意点を扱う会社も多く、「言われなくても分かっているよ」と思う人も多いかもしれません。しかし、研修のケーススタディがすべてではないのがハラスメント問題の難しいところです。たとえば、あなたが営業部を預かる管理職の立場だったとします。人手不足でメンバーは常にいっぱいいっぱい。若くして部内一の業績を上げているAさんも、日々の営業活動に加えて、最年少メンバーという理由で社内での来客対応や備品チェックなどの雑務までこなしていました。仕事の早いAさんは雑務のスピードも早く、それで職場は一見うまく回っているように思えます。人数の少ない職場ではたまに見る光景かもしれません。ここで重要なのは「Aさんは誰に命じられて雑務までこなしているか」という点になります。なぜなら、上の立場の人が「能力に見合わない程度の低い業務を継続的に命じる」ことは、パワハラとみなされる可能性があるからです。Aさんが進んで申し出たならともかく、「Aくんが一番若いし、快く引き受けてくれるからやってもらおう」と、軽い気持ちで管理職のあなたから命じているとしたら要注意。Aさんが断り切れず、「なんで俺ばかりこんなことを」と内心思っているなら、あなたはすぐに本人から話を聞き、事務の人を雇うか、雑務を持ち回り制にするなどの対策を講じなければならないでしょう。厚生労働省のハラスメント対策サイトによれば、職場のパワーハラスメントの定義は、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの以上の3つの要素をすべて満たすものとあります。言葉による攻撃や、無理難題を押し付けることだけがパワハラではない事実は、意外と見落とされがちなポイントです。誰に相談するか分からない時にでは、実際にハラスメント(と思われる行為)を受けてしまった場合はどうすればいいでしょうか。現在は社内にハラスメント通報窓口を設けている会社もあり、ハラスメント研修時に紹介されることもあります。しかし、社内の窓口では心情的に利用しづらかったり、そもそも社内にそのような窓口が用意されていない方もいらっしゃるでしょう。そういった場合は、公的な窓口に相談をすることになります。ネットで検索をすればさまざまな相談窓口がヒットしますが、逆に「どこに相談すれば?」と迷ってしまいそうです。そんな時に覚えておきたいのが、厚生労働省委託事業の「ハラスメント悩み相談室」。相談者の話の内容に応じて、司法の専門性の高い窓口か、各地方の行政がやっている窓口かなど、その人に合った場所を案内してくれる、ポータルサイトのような役割の相談先です。ハラスメントの中身は本当に多岐にわたります。その分、そのケースに合った相談員の方に話を聞いてもらうことが解決への近道です。もしもの時の選択肢として、相談先の“総合窓口”を知っておくといいでしょう。ハラスメント解決の心得「自分の行動がハラスメントと言われてしまうかも」、あるいは「自分がされていることって、実はハラスメントなのでは?」という不安は、働く人なら誰もが抱く可能性のある、身近な問題です。大切なのは、不安や疑問を感じた時に我慢をせず、誰かに話してみることです。そのケースがハラスメントに当たるかどうかの線引きは、専門家でないとなかなか難しいこともあります。だからこそ「このぐらいで相談するのは大げさかな」と思わず、まずは声を上げてみてください。そして、社員をまとめる立場の管理職や人事部の人は、誰かが相談してきた時に些細なことだと思わず、相談者のプライバシーを守りながら真摯に耳を傾けることが、会社のリスクマネジメントを考えるうえでも重要になってきます。