女性の社会進出を阻む昭和の壁2022年9月5日の日本経済新聞電子版に、“男性の育児、やっと1時間超 「昭和モデル」なお根強く”という記事が掲載されました。総務省の2021年「社会生活基本調査」発表を受けて、編集委員の辻本浩子氏が執筆したもので、記事は風は吹いている。しかしなお途上だ。総務省の2021年「社会生活基本調査」では、男性の家庭進出が進む一方、「昭和」の壁がなお厚いこともうかがえる。という書き出しで始まります。そして家事・育児分担の偏りは、少子化の要因の一つであり、女性の社会進出の壁ともなっている。男性は仕事、女性は家庭、という「昭和モデル」は、数字の上ではまだ根強い。と指摘しています。辻本氏が指摘している「昭和の壁」は、様々な場面での男女の格差。その格差を生み出しているのは、昭和(戦後)の高度経済成長からバブル期の成功体験であり固定化されたジェンダーの役割意識です。経済は右肩上がりで終身雇用や年功序列を基本にした社会制度が機能していた時代、男性は大黒柱として外で働き家計を支え、女性が専業主婦として家庭を守るというのが基本モデルでした。しかし、バブル崩壊後の約30年はGDPも所得水準も伸びが止まり横ばいとなり、昭和の働き方も過去のものになりつつあります。しかし、昭和に生まれ育った最後の世代が今、様々な組織のトップあるいは上級管理職の多くを占めています。組織やそこに働く人の意識にはまだ昭和の価値観が亡霊のようにとりついています。ネットでも度々話題に上る昭和の価値観お笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザーさんは、YouTubeで視聴者から届いた質問に答える動画「カズレーザーの50点塾」を配信しています。奇しくも上記日経新聞と同じ9月5日配信の動画で、2000年代生まれのZ世代とする視聴者から昭和の価値観について問う質問の回答がネットで話題になりました。「いつまでも、昭和の価値観で物事を判断したり、老害が多すぎて嫌になります。男はこうで女はこうあるべきや、結婚してない=ダメや、過度なパワハラ、セクハラを悪いと思わなかったりなど。どうして令和の今でもこんな古臭い価値観は消えないのでしょうか? こんな嫌な価値観は無くなって、アップデートされてほしいです。またY世代のカズレーザーさんは、昭和の価値観についてどう思いますか?」(画面から筆者抜粋)とつづられていました。昨年は開幕を間近に控えた東京オリ・パラ組織委員会の森会長(当時)が「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」と昭和的発言。多くのボランティアが参加辞退を表明し、女性蔑視発言だと国際的にも批判を浴びるなどして辞任に追い込まれました。「昭和の価値観」とGoogleで検索すると、検索結果はなんと1030万件! こんなにも「昭和の価値観」がネット上で語られ、批判され、解説されています。このZ世代の視聴者からの質問と概ね同じようなことが指摘されています。因みに、カズレーザーさんの回答がネットで話題になったのは、「Z世代とかY世代って上の人が勝手に作った枠組みなので、もしZ世代に当てはまっているんだったら、絶対Z世代なんてダサい言葉使わないでください。昭和だと思われます」と逆指摘の回答でした。聞いてはいけないこと、聞かなければいけないこと昭和の価値観のままの人は、森元会長のような不用意な発言だけでなく、面接の席などで聞いてはいけないことも無意識に聞いてしまいます。出身地や家族構成、思想信条・尊敬する人などを訪ねることはもちろん、女性に結婚の予定や出産後も働きたいかなども聞けません。厚生労働省が作成した履歴書の様式例も性別欄は男女の選択式ではなく任意記載となるなど、時代と共に変わっています。逆に、聞かなければならないこともできました。改正育児・介護休業法が、男性の育児休業取得促進に向け10月から更に一段進んだ形で施行されました。これまでの育児休業に加え、出生時育児休業(産後パパ育休)も取得が可能になりました。妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対しては、育児休業に関する制度等を知らせ、取得を勧めなければなりません。育児休業を控えさせるような案内の仕方は認められません。SDGsとは真逆の昭和の価値観2015年に国連で採択され2030年に目標達成を目指すと合意されたSDGs(持続可能な開発目標)。今は学校教育でもSDGsは取り上げられ、子ども達も早くから意識するようになりました。ユニセフのSDGs CLUBは子どもにもわかりやすく解説してあります。SDGsで開発目標として掲げられている指針を見ると、「昭和の価値観」として指摘されている事の多くが指針とは逆の否定的行為であることに気付きます。昭和の価値観から起きてしまう問題の代表的なものが、パワハラ、セクハラ、マタハラなど古い価値観を押しつけるハラスメントと、閉ざされた人間関係や仲間内でのかばい合いやもたれ合いが作り出す贈収賄や談合などの不正でしょう。SDGsでは、これらについても明確に否定しています。目標5 “ジェンダー平等を実現しよう”のターゲット5-1ではすべての女性と女の子に対するあらゆる差別をなくす。5-4ではお金が支払われない、家庭内の子育て、介護や家事などは、お金が支払われる仕事と同じくらい大切な「仕事」であるということを、それを支える公共のサービスや制度、家庭内の役割分担などを通じて認めるようにする。5-5では政治や経済や社会のなかで、何かを決めるときに、女性も男性と同じように参加したり、リーダーになったりできるようにする。目標8 “働きがいも経済成長も”のターゲット8-5では2030年までに、若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにする。そして、同じ仕事に対しては、同じだけの給料が支払われるようにする。そして、目標16 “平和と公正を全ての人に”のターゲット16-5ではあらゆる形の汚職や贈賄を大きく減らす。とあります。近年、若者の間で人気の昭和レトロですが、働き方や男女の価値観まで昭和に戻ることは期待されていません。SDGsのピンバッチを胸に付けて“やってる感”をアピールするだけでは、昭和の価値観は何も書き換わりません。SDGsの17の開発目標についてきちんと理解することから、価値観を令和型にアップデートしましょう。