2022年9月25日、レンタル電動キックボードで単独転倒事故が発生し、利用者の男性が亡くなりました。報道によると、男性は駐車場内で電動キックボードを運転し、方向転換しようとした際に車止めに衝突し前向きに転倒。その際に頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認されたということです。飲酒運転の可能性があるといいます。電動キックボードでの死亡事故は全国初です。私はこの事故の報道に背筋が凍る思いがしました。個人的な話になりますが、私も半年ほど前、法事で飲酒後に横断歩道でつまづいて転倒、頭(顔面)を打って意識を失い救急搬送されていたからです。目が覚めたのは、病院の処置室でした。乗り物に乗っていたわけではなく、お酒を飲んでいたとはいえ(小走りだった?)転倒しただけです。誰も救急車を呼んでくれなければ、そのまま車にひかれていたかもしれません。あるいは意識が戻ることなく死んでいたかもしれないのです。頭を打つ怖さ、頭を守る事の重要性を痛感しました。電動キックボードは道交法上“車両”この事故を巡っては、様々なところに波紋を呼んでいます。現状の道路交通法では電動キックボードは車両に該当し、電動モーターの出力によって2つの区分が適用されます。定格出力が600W以下は原動機付き自転車、それよりも大きな定格出力の電動キックボードは普通自動二輪車として扱われます。従って、運転するには免許も必要ですし、車両にはナンバープレートやライト、バックミラーなど保安基準を満たす装備が必要です。更に、自賠責保険の加入も義務づけられています。もちろん、飲酒運転などもってのほかです。しかし今年4月、電動キックボードに関する改正道路交通法が国会で可決されました。2024年5月までに施行予定の改正道路交通法では「特定小型原動機付き自転車」区分(出力600W以下の電動に限る、最高速度20km/h以下など)が新設され、この区分の車両を運転する際には16歳以上は免許不要 (16歳以下は乗車不可)で、ヘルメットは努力義務となります。実証実験でヘルメット着用は任意今回死亡事故を起こした電動キックボードは、改正道路交通法施行を視野に入れた「特定小型原動機付き自転車」を見据えた車両で、特定のエリア・期間で行われている実証実験に参加する企業の「特例電動キックボード」(最高速度15km以下)に該当するレンタル車両でした。そのためヘルメット着用は任意となり、亡くなった方も事故時にヘルメットは着用していませんでした。実証実験は、国家公安委員会及び国土交通省において下記の点に関する特例措置を整備し、本特例措置の対象となる「特例電動キックボード」の通行に関する安全性等について検証するものです。運転時のヘルメット着用を任意とすること。普通自転車専用通行帯の走行を認めること。自転車道の走行を認めること。自転車が交通規制の対象から除かれている一方通行路の双方走行を認めること。特例措置活用を希望する事業者は新事業活動計画を経済産業省に申請、認定されなければなりません。事業者のサイトでヘルメット着用は推奨されず今回事故を起こした車両は、実証実験に参加している株式会社Luupの物でした。事故後、Luup社のウェブサイトには「9月25日に発生した交通事故につきまして」とするお知らせが掲載されています。このお知らせに対してもネットでは、事故で亡くなった方や遺族への配慮が足りないのではないか、どこか他人ごとではないか、といった反応があります。Luup社のサイトで事故前の4月25日にアップされた【注意喚起】LUUPをご利用の皆様へのページを改めて確認すると、安全対策の項目にも東京海上ホールディングス株式会社と共同で制作された「電動キックボードのご利用ガイドブック」にも、ヘルメットに関する記載はありません。特例措置はヘルメット着用を任意としていますが、実証エリア内でも特例対象外区間がありますし、実証エリアを一歩出て走行する場合はヘルメットの着用は必要です。実証実験に参加している電動キックボードに乗っていれば、どこでもヘルメットの着用が免除されるわけではありません。利用者の安全を考えればヘルメットの着用を推奨する、または自主基準で着用するなどの記載は必要でしょう。更に言えば、安全を求める利用者に対してはヘルメットも貸し出すようなオプションも欲しいところです。事故で亡くなった方も、お酒を飲んでいたとしてもヘルメットを被っていたら、あるいは助かっていたのではないかと思ってしまいます。特例措置対象外で不法に走り回る車両の存在実際に街を走りまわっている電動キックボードは、実証実験に参加している物ばかりではありません。電動キックボードはネット通販でも簡単に購入することができます。例えばamazonで「電動キックボード」と検索すれば、2万円台から様々な商品が表示されすぐに購入が可能です。もちろんamazonから届く商品にナンバーは付いてませんし、ほとんどの商品は保安基準を満たす装置は付いていません。自宅の庭などで乗ることはできても、そのまま公道を走ることはできません。しかし、ネットで購入してナンバーも付けずに乗り回している者がたくさんいるのが現実です。もちろん、公道を走るには免許も保険も必要です。保安基準も満たしていない違法車両で、保険にも入っていない電動キックボードが、歩行者や第三者を巻き込んで事故を起こしたとしたら。加害者も被害者もその家族も大変不幸なことになってしまいます。無免許の高校生が乗ることを想定すると改正道路交通法が施行されると、16歳以上であれば無免許でも(登録された合法の)電動キックボードを運転できるようになります。オートバイや自転車通学を認めている学校は、電動キックボードでの通学を認める要望が出るかもしれません。通学は学校が許可しなくても、学校を離れた塾や休日の自由な時間に電動キックボードを乗り回すことは考えられます。更には、免許を持たず道路交通法もマナーも知らない高校生にとっては、合法の電動キックボードと違法なそれとの認識もしないでしょう。そんな未成年が運転する電動キックボードが公道に出てしまい、事故に遭う、事故を起こすことにならないかと心配になってしまいます。このまま改正道路交通法が施行されると、高校生のお子さんを持つ親御さんは新たな心配事を抱えることになります。改正道路交通法の施行にも影響が及ぶことは避けられないかもしれません。