ソーシャルメディア解体全書 フェイクニュース・ネット炎上・情報の偏り山口 真一 著 2022年6月発行ISBN 978-4-326-60350-3 2,970円(税込) 勁草書房インターネットの情報の偏り、フェイクニュース、炎上のメカニズムを徹底分析。誰もが発信者となりうる「人類総メディア時代」必携!(勁草書房 公式サイトより)今回ご紹介する『ソーシャルメディア解体全書』は、数多くの参考文献と、統計的手法によるデータ分析を使って、ソーシャルメディアを網羅的に解説した本です。2022年6月発行のため、2020年以降の新型コロナに関するフェイクニュースやネット炎上など、記憶に新しい事例も豊富に取り上げられています。ソーシャルメディアによるレピュテーションリスクは高まっている ネットを通じて、誰もが世界中に自由に発信できる時代。ソーシャルメディア(※)のなかでもSNS(Twitter、Instagramなど)の影響力は強まる一方です。SNSが私たちの生活に身近になったことで、特定の個人や企業に批判や誹謗中傷が殺到する、いわゆる「炎上」を頻繁に見かけるようになりました。本書によると2020年には1,415件、なんと1日平均4件の炎上が起こっています。 炎上の内容によっては、ネット内だけでは収まりません。テレビや新聞などのマスメディアでも取り上げられれば、影響はより拡大します。対象が企業の場合、その評価が傷つくだけでなく事業存続にまで重大な影響を起こしかねません。企業にとってのさまざまなリスクのうち、レピュテーションリスクに備える優先度は、年々高まっています。「そうはいっても何をすれば……」という時に役立つのが本書です。インターネット黎明期からの流れ、フェイクニュース、ネット炎上の解説だけでなく多くの事例が網羅的に取り上げられており、ソーシャルメディアに関する解像度を上げる助けになってくれます。担当社員の知識の底上げはもとより、一般社員への研修活用もおすすめしたい1冊です。ネット炎上・誹謗中傷のきっかけと収束までネットから発生する炎上は、テレビや新聞のニュースなどのマスメディアで取り上げられることが増えてきました。その内容を見て「前にもこんな内容を見た」と思ったことはないでしょうか。本書には、炎上を引き起こす主な原因として、法令違反や差別(人種、ジェンダー関連や特に女性の性的描写、LGBTなど、特定の層を不快にさせる内容)、ステルスマーケティング(やらせ)や捏造があげられています。 そのきっかけとなるのは自らの発信以外にも、第三者による録音や録画、内部告発や暴露というケースも見られるようになってきました。最近では、以下の2件はいずれも第三者によってSNSに投稿されています。2022年4月に、株式会社吉野家の常務取締役 企画本部長(当時)による早稲田大学でのマーケティング講座の発言同9月に株式会社船橋屋の代表取締役社長(当時)が起こした交通事故の被害者に向けての恫喝は瞬く間に拡散されて大炎上し、企業イメージを大きく損なっただけでなく、両者とも職を辞する結果となりました。SNSに訴えることで、これまでは泣き寝入りしていたことが明るみに出て社会の自浄作用となることもあるでしょう。しかし、大炎上するようなケースだと、直接には関係のないところまで誹謗中傷の攻撃が及び、被害を受けることがあります。「ネット炎上は放っておけばいつかは鎮火する」とばかりに、具体的な対策を示さないままの企業も見られますが、この2企業はその後どうなったでしょうか。Twitterで確認してみました。まず、前者の吉野家です。当時の発言内容がその後に続く不適切発言を測る基準にもなっており「あの発言以降行かない」という書き込みも散見。さらに半年以上たってもメディア記事に取り上げられており、吉野家の企業体質にそもそも問題があるのでは?という疑問はぬぐえないままという印象を受けました。後者の船橋屋については、少し様相が異なります。問題発覚から4日目には新社長就任、Twitterは1ヶ月弱沈黙したものの、現在はほぼ平常通りに戻っており「応援してます」などの書き込みも多く見られました。今回の不祥事によって受けた打撃は非常に大きいですが、信頼回復への道を着実に進んでおり、新社長へのメディアの姿勢も好意的です。これは、船橋屋の商品力とともにSNSを活用して顧客との強い関係性を築いてきたことも無関係ではないでしょう。ネット炎上は誰が起こしているのか?事象があっても、拡散されなければ炎上にはなりません。では、実際に誰がネット炎上を起こしているのかについても、本書には興味深い調査があります。Twitterで炎上しているツイートを見ると、大変多くのコメントが付いていますが、実はユーザーの全体数から見ると本当にごくわずかなのだそうです。炎上した案件そのものは多くの人が目にします。しかしそこからコメントや引用リツイートを書き込む人の割合は実はとても少ないのです。 炎上に加担して過激な書き込みをする人について、私たちは以下のような決めつけを行っていないでしょうか。「独身で定収入、もしくは定職についておらず、1日中スマホを手放さない」「大手企業や有名人・お金持ちに妬みがある」「炎上させることで憂さ晴らしをしている」本書では「炎上参加者の属性」について、2016年に40,504件のアンケートを行った結果をもとに、回帰分析を通じて結論を導き出しています。さらに、パーソナリティの特性についても分析。より詳細な炎上参加者の実情をデータから解き明かしていくのですが、その結果はとても意外な内容でした。イメージでネット炎上を語ることの危うさとともに、企業としては炎上するリスク、炎上させる人への啓発の必要性を教えてくれるものとなっています。改正プロバイダ責任制限法施行により、企業のリスクが高まる可能性「ソーシャルメディアポリシー」「SNSガイドライン」などを定め、従業員への啓発・教育を行っているという企業は多いでしょう。しかし、その内容が具体的に周知されていなければ「仏作って魂入れず」と同じこと。企業の公式アカウントやプロモーション、そして役職員の言動のリスク対応はできているといえるでしょうか。良きにつけ悪しきにつけ、企業や個人の言動が、瞬く間に可視化され、拡散されるのがSNSの世界です。 2022年10月1日には改正プロバイダ責任制限法が施行され、ネット上での誹謗中傷や権利侵害など悪質な投稿者の情報開示手続きが簡略化されました。法改正により、いわれなき攻撃から企業を守りやすくなる半面、役職員のプライベートなネット活動が、勤務先企業にまで影響を及ぼすリスクも高まっています。仮に、社内に匿名で過激な書き込みをしていた役職員がいたとしたらどうでしょうか。情報開示によってその行為が明らかになれば炎上することは必至です。侮辱罪で逮捕ともなれば、企業が被る損害は多大なものとなります。一時、従業員にSNSを禁止する企業もありましたが、情報を手軽に得られるSNSはもはやインフラとなっており、仮にTwitterやFacebookというツールが変わってもソーシャルメディアがなくなることはないでしょう。ネット炎上は決して他人事ではありません。自分たちが何もしていなくても、ある日突然炎上の対象となってしまう、不運なもらい事故のようなことも起こりえるのです。仮にそうなったら、落ち着いて対応し、すみやかに鎮火しなければなりません。SNSコミュニケーションが持つ可能性と危険性をきちんと理解し、普段からどのように使いこなしていくかを考えるために、本書は心強い助けとなってくれるでしょう。(※)総務省の『情報通信白書(平成27年版)』より「ソーシャルメディアとは、インターネットを利用して誰でも手軽に情報を発信し、相互のやりとりができる双方向のメディアであり、代表的なものとして、ブログ、FacebookやTwitter等のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、YouTubeやニコニコ動画等の動画共有サイト、LINE等のメッセージングアプリがある。」ソーシャルメディア解体全書 フェイクニュース・ネット炎上・情報の偏り山口 真一 著 2022年6月発行ISBN 978-4-326-60350-3 2,970円(税込) 勁草書房本の目次第1章 社会の分断と情報の偏り第2章 フェイクニュースと社会第3章 日本におけるフェイクニュースの実態第4章 ネット炎上・誹謗中傷のメカニズム第5章 データから見るネット炎上第6章 ソーシャルメディアの価値・影響第7章 ソーシャルメディアの諸課題にどう対処するのか