コロナ禍で業績が低迷する旅行・観光業を支援するために、観光需要喚起策としてスタートした全国旅行支援。旅行代金の40%を割引(1人1泊あたりの上限:交通付き宿泊旅行8,000円、その他5,000円)し、さらに、旅行先の土産店などで使用できる地域クーポンを平日3,000円分・休日1,000円分を進呈します。割引を受けるには、本人確認書類などに加え、ワクチン3回接種済証または PCR検査等の陰性証明が必要です。利用・予約は、キャンペーンに参加する旅行予約サイト、旅行会社、宿泊施設で申込みます。ここで思い出すのは2020年にスタートし、2021年に中断した「Go Toトラベル事業」ですが、「全国旅行支援」と「Go Toトラベル事業」は別物です。「Go Toトラベル事業」のサイトにも「現在実施中の『全国旅行支援』は、Go Toトラベル事業とは別の事業となります」と冒頭に明記してあります。「Go Toトラベル事業」の窓口は観光庁のGo Toトラベル事務局で一本化していましたが、全国旅行支援は都道府県毎の事業のため、事務局も都道府県毎です。必要書類や地域クーポンの有効期限も都道府県毎に違いがあります。助成金や支援事業には不正がつきもの?観光業以外でもコロナ禍で売り上げが急減したり業績不振に陥る企業を支援するために、「持続化給付金」、「家賃支援給付金」、「雇用調整助成金」などの様々な施策がとられました。しかし、それらの助成金・給付金を不正に受給する者が後を絶たず、全国で多数発覚しています。経済産業省は、持続化給付金の不正受給者1,588者(個人・法人)、不正受給総額16億494万8,130円、家賃支援給付金を不正に受給した者として79者(個人・法人)、不正受給総額 2億2,059万3,600円を認定し(令和4年11月24日時点)、それぞれの不正受給認定者一覧も公表しています。一方、相次ぐ不正摘発報道を受けて自主返還したものは、持続化給付金で17,161件、約180億円、家賃支援給付金では1,192件、約10億円にのぼります。調査により給付金等の不正受給が判明すると、加算金・延滞金つきで返還請求された上で社名まで公表されます。自主的な返還の申出を行い、返還を完了すれば原則として加算金・延滞金を課さないとなっていますので、慌てて自主返還を申請しているのでしょう。社名が公表されると、その後の事業運営上の信用も落としかねません。それにしても、これだけ多くの不正申告があったことに驚きます。 Go Toトラベルの不正は旅行支援では?Go Toトラベルでも多くの不正受給が報道されました。多くは旅行代理店や宿泊施設などの事業者が宿泊者数や宿泊数を虚偽に申告して不正に受給するケースでしたが、事業者が宿泊者と共謀して実際には8,000円の宿泊費を20,000円と申告して逮捕された例もあります。現在実施中の全国旅行支援では、Go Toトラベルのような不正受給の報道は今のところ耳にしませんが、ネットでは便乗値上げの疑いを指摘する書き込みやそれを否定する書き込みで賑わっています。便乗値上げは、前述の宿泊費の虚偽申告とは違います。給付金を騙し取るのではなく、宿泊者に請求する金額を不当に上げているのではと言うのです。 ダイナミックプライシングと便乗値上げもともと旅行業界では、需要に応じて価格を変動させるダイナミックプライシングが普通に取り入れられていました。観光地では、ゴールデンウィークや夏休み・冬休み、休日・休前日の宿泊費や旅行代金は高く設定されます。逆にシーズンオフや平日には価格を下げて稼働率を上げようとします。シーズン以外でも、宿泊予約サイトでは宿泊日がずっと先だと割引率が高く、宿泊日が近づくにつれて高くなります。通常は、早く予約するほど安く泊まれます。急に大きなイベントが発表され宿泊需要が高まると、いきなり高くなることはよくあることです。今年BTSのコンサートが開催されることになった韓国・釜山では、コンサート前後の宿泊料金を通常の10倍に値上げしたホテルもあったといいます。その時には価格を上げる前に予約していた宿泊客をホテル側が一方的にキャンセルしたと大問題になりました。日本の旅館業法では、お客様の同意なしに宿泊予約をキャンセルする事、宿泊を拒む事は基本的にはできません。これは明らかな便乗値上げですし、旅館業法違反です。今回指摘されているのが、ダイナミックプライシングの一環として妥当な価格設定なのか、それとも便乗値上げなのかはなんとも判断は難しいところです。 ブラックフライデーの価格は本当に安い?全国旅行支援の便乗値上げ疑いと同じような現象が、今年盛り上がったブラックフライデーセールでも起きていました。特に巨大ECサイトではリアルなお店と違い、繰り返し購入していたり、安くなったら買おうとチェックしていない限り、通常いくらで売られているかを把握している商品は限られています。特別セールと銘打って、30%OFFや50%OFFと表示されて「これはお得!」と飛びつくと、実は普段からその価格で販売されていたとか、特別セールの直前に短期間サイトにアップして通常価格を偽装していたという事例が見られます。こういうショップは売るだけ売って、セール後に閉店することもあります。 便乗値上げはあとでしっぺ返しも全国旅行支援でもブラックフライデーでも、実際に便乗値上げが行われていれば、いずれ利用者が知ることになります。宿泊施設であれば予約サイトで、ネットショップであれば商品レビューやショップの評価欄に厳しい評価が並ぶでしょう。SNSでもすぐに拡散され風評被害にも繋がりかねません。「○○○ 評判」で検索するとすぐに評価や書き込みが見つかる時代です。目先の利益だけを求めて過ぎると、後で手痛いしっぺ返しが返ってきます。追記(2023年7月7日):持続化給付金等の不正受給認定者氏名・所在地が公表されています中小企業庁から督促を受けるまでの間に、不正受給金額に加え、20%の加算金及び年率3%の延滞金の全額を納付しなかった不正受給認定者のみ、「不正受給認定者名」(法人の場合は代表者氏名を含む)及び「所在地」が公表されています。持続化給付金、家賃支援給付金、一時支援金、月次支援金における不正受給者の公表について