ジャニーズ事務所は11月1日、滝沢秀明副社長(40)が退任したと発表しました。滝沢氏はジャニーズJr.などのタレント育成を担うグループ会社「ジャニーズアイランド」の社長も務めていましたが、9月26日付で退任、後任の社長には、アイドルグループ「V6」元メンバーの井ノ原快彦氏(46)が就任したことも発表しました。このニュースがエンタメ業界を揺るがした直後の11月4日、ジャニーズ事務所の人気アイドルグループ「King&Prince」の平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太さんが来年5月にグループから脱退、ジャニーズ事務所からも退社すると発表され、業界だけでなくジャニーズファンにもさらなる衝撃が走りました。相次ぐ退所者もあり、誰もが「ジャニーイズム」の継承者と認めていた滝沢氏が退任に至った背景について、週刊文春はじめ芸能誌やスポーツ紙が様々な報道を続けています。ジャニーズ事務所の行く末を案じる記事も多く見られます。カリスマ経営者の後を継ぐ難しさジャニー喜多川氏というカリスマ経営者を亡くしたことから始まったジャニーズ事務所の混乱は、企業のTOP交代で起こりがちなゴタゴタを解りやすく可視化してくれている一つの例です。経済界や政界でも、TOPの交代は組織にとって一大事。特に、創業経営者、カリスマ経営者が退くときには、誰が後を引き継ぐのか、誰がどうやって決めるのかが問題になります。事業承継問題は、どの企業にもいずれやってくる大きな課題です。それだけに優れた経営者は早めに準備を始め、時間をかけてスムーズな経営移行をと考えます。しかしこれまでも、ソフトバンクグループやユニクロ、日本電算など後継社長を創業経営者が自ら指名し経営を譲ろうと一度はバトンタッチしたものの、事業承継がうまくいかず、再び創業経営者がカムバックすることになりました。カリスマ経営者が自ら指名した後継者であっても、実際にその経営を任せると期待どおりにはならなかったのです。経営のバトンタッチがいかに難しいものかを印象づけました。 創業家と経営陣、株主との確執も日本には歴史のある企業も多く、代々創業家によって経営を繋いできた老舗企業がたくさんあります。しかし時代と共に市場は変化し経営環境も変わってきています。その変化に対応できない企業はいずれマーケットから退場するしかありません。変化に対応するためには、自らも柔軟な変化をしなければなりません。商品や事業を変える、組織や人事制度を変えるなど様々な対応策がありますが、経営者を変える事が一番の解決策となることもあります。しかし、経営の主導権を握る者はなかなかその座を手放そうとはしません。上場企業であっても創業家が大株主であり、経営に口を出し続けるということは度々起こります。2006年に上場した出光興産は、上場を機に創業家は経営から退いたはずでした。しかし、石油業界の再編が進む中、2014年に昭和シェル石油との経営統合に向けて検討を始めたと発表したところ創業家が反対、裁判なども経て2018年にやっと経営統合に至りました。他にも、創業家の名前を冠する企業(グループ)は多く存在し、創業家が影響力を持ち続けている例は少なくありません。 珍しくない同族経営の身内間の争い同族経営の非上場企業では、経営陣の世代交代は経営者としての能力は別にして同族間での委譲されるのが一般的です。株式会社ジャニーズ事務所も創業者のジャニー喜多川氏が亡くなった後は、姉の藤島メリー泰子氏(代表取締役会長)、その娘の藤島ジュリー景子氏へと経営の実権を引き継いでいます。しかし、遺産相続と同様に会社の後継問題は時として骨肉の争いとなります。上場企業で経営権を争って話題になったのが大塚家具です。創業者である大塚勝久氏が会長職に退き、一度は社長の座を長女の久美子氏に譲ったものの、その後の経営方針の変更が気に入らず取締役会で解任を提案、可決されました。しかし、大塚勝久氏が社長に復帰後、業績が悪化し、今度は久美子氏の社長復帰・勝久氏の会長専任を取締役会で決定。その後は勝久氏と久美子氏がそれぞれ株主総会での決着を目指して委任状の争奪戦を繰り広げ、「公開親子喧嘩」とまで言われ注目されました。結果は久美子氏が勝利し勝久氏は大塚家具を追われることになりましたが、この「公開親子喧嘩」騒動などの影響もあり業績は上向かず、大塚家具はヤマダ電機の傘下に入り、久美子社長も退任に至りました。 変革を受け入れるか否定するか今まさに話題になり注目されているのが、アメリカのTwitter社です。Twitter社を買収し自らCEOに就いたイーロン・マスク氏は、経営にいきなり大なたを振るいました。従業員の半分を解雇し、基本的にリモートでの就業を認めず出社を求め、ハードに働くことが嫌なら退職をと宣言。事業構造の広告モデルからの脱却を目指し公認マークの有料化の検討や凍結していたトランプ前大統領のアカウントを復活させるなど、今後の動向に世界中の注目が集まっています。 滝沢氏はジャニー喜多川氏から「ジャニーイズム」を継承するべく経営に参画し、芸能活動からは引退。ジャニーズ事務所ではジャニーズの変革に取り組んで、様々な新しい取り組みや変化をうみ出していたようです。しかし、滝沢氏が株式会社ジャニーズ事務所の副社長、株式会社ジャニーズアイランドの代表取締役社長であったとしても、ジャニーズ事務所の株式の大半は代表取締役社長藤島ジュリー景子氏が握っているでしょうし、ジャニーズアイランドはジャニーズ事務所の完全子会社。経営の実権を握っていたわけではないはずです。滝沢氏が去った後のジャニーズ事務所がどう変わるのか。Twitter社の動向にも注目しながら、来るべき自社の事業承継準備を怠らないようにしましょう。