Twitterで「弊社に中途入社した新人が、初日に『トイレが和式だった』という理由で退職しました」というツイートがありました。これに対する反応では、「退職する気持ちもわかる」「和式が使えない理由もいろいろある」といった声が寄せられています。TOTOにおける和式便器の出荷比率は2018年時点で0.4%であり、「和式便器はほとんど使ったことがない」という人も多いかもしれません。和式便器は洋式と違って、足で踏ん張る必要がありますから、足腰の弱いシニアの方や、何らかの疾患があって和式が障害になる人にとっては、使えないこともあるでしょう。中には「自分にとってトイレは憩いの場だから、洋式にこだわりたい」という人もいるかもしれません。実際、こうしたトイレの使い勝手は労務環境にとっても重要であり、健康的に安全に働くうえで大事な要素となっており、従業員の確保にも大きく関係しています。モチベーションに影響する場所の第1位「トイレ」仕事をするうえでのトイレの重要性はアンケート結果からもうかがえます。TOTOが2019年に発表した「オフィストイレの水まわりに関する調査」によれば、仕事のモチベーションに影響する場所の1位は「トイレ・化粧室」(66%)であり、2位の「食堂・カフェテリア」(46%)を20ポイントも離していました。先ほどのツイートに対しても、以下のようにトイレの問題が退職の理由になったとする声が多数見受けられます。転職理由の一つにトイレが少ないことがあった。ワンフロア100名に対してトイレが3つで20分以上待つことがあったウォシュレットがなくて辞めた転勤先のトイレが汚いからと辞めた人がいる知り合いは事務所のトイレが男女兼用と知って1日で退職したでは、オフィスのトイレに関して設置ルールというものは決まっているのでしょうか。オフィスにおけるトイレの設置基準は、労働安全衛生法「事務所衛生基準規則」に定められています。和式や洋式といった形式を問うルールはありませんが、設置する数などが決められています。第17条 事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。1)男性用と女性用に区別すること。2)男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者60人以内ごとに1個以上とすること。3)男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者30人以内ごとに1個以上とすること。4)女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者20人以内ごとに1個以上とすること。5)便池は、汚物が土中に浸透しない構造とすること。6)流出する清浄な水を十分に供給する手洗い設備を設けること。女性にとってトイレは体調を整える場また、2021年12月1日には「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」で、トイレ設備について見直しが行われました。男性用と女性用のトイレを設けた上で、独立個室型のトイレを設けたときは、男性用および女性用のトイレの設置基準に一定数反映させる。少人数(同時に働く労働者が常時10人以内)の作業場において、建物の構造の理由からやむを得ない場合などに限り、独立個室型のトイレで足りる。独立個室型のトイレとは、男性用と女性用を区別しない四方を壁等で囲まれた1個の便房により構成されるトイレで、いわゆる「多目的トイレ」「みんなのトイレ」といった形式のものです。この見直しは、オフィスにおける女性活躍の推進や高齢者、障がい者の増加を受けて、働きやすい環境を整備するために行われたものです。性別を区別しないトイレを設置するという意味では、LGBTQ(性的少数者)など多様なジェンダーへの配慮にもつながるものといえるでしょう。このように法律にルールをまとめる必要があるほど、人が働くこととトイレ環境の関係は密接であるといえます。では働く人にとって、トイレはどのような位置づけにあるのか。先ほどの「オフィストイレの水まわりに関する調査」で「トイレで気分を切り替えたいと感じることがあるか」という質問をしています。結果、「よくある」「まあある」を合わせて54%と過半数を超えていました。特に20代・30代では約7割と非常に高くなっています。また、女性にとってトイレは体調不良時の避難場所としての性格も持っています。女性ワーカーの約6割がオフィスで女性特有の症状で困った経験があり、一時的に休憩したい場所の第1位は「トイレ・化粧室」(69%)でした。実に多くの女性が「トイレ・化粧室」で体調を整えていることがわかります。トイレはオフィスワーカーにとって、精神的にも身体的にもエネルギーを取り戻せるリフレッシュの場です。その意味ではトイレの快適さは健康面だけでなく、仕事の生産性にも広く影響するものといえます。今後もトイレは人に寄り添って変わり続ける以前のオフィスのトイレは「汚い、暗い、臭い」の3Kで、あまりケアされていませんでした。しかし、近年におけるトイレは排泄だけでなく、「気分転換の場、癒しの場、モチベーションをアップする場」となりつつあります。より過ごしやすいデザインにしたり、身だしなみのチェックや化粧直し、歯磨きができるように配慮するなど、多目的に利用できる空間へと変わりつつあります。また、最近のトイレは快適さばかりではなく、防犯面での配慮も求められています。トイレや更衣室などでの盗撮やのぞきといった犯罪行為が問題になっており、これらを防ぐための対処も必要です。例えば、「オフィスのトイレを担当者が定期的に見回りする」「トイレに防犯ブザーを設置し、担当者がすぐ駆け付けられる体制を取る」といった対策が求められます。トイレは従業員すべてが利用する場であり、誰もが改善の意識を持っています。企業は従業員に「不満に思う点はないか、よりよくしたい点はないか」と定期的にヒアリングしながら、より使いやすく、快適なトイレ環境にすることが望まれます。