公の場での説明責任を放棄する細田衆議院議長通常国会がスタートする1月24日、昨年から旧統一教会との関係について説明を求められていた細田衆議院議長は、公邸で与野党の代表者に懇親会方式で説明を行いました。細田議長はこれまで、関連団体の会合に複数回出席したことを認め、「今後は関係をもたないよう適切に対応する」と文書で回答しています。一方、野党側は公開の場での説明を求めていました。それにも関わらず今回も非公開の場での説明となりました。冒頭部分のみ公開され質疑は非公開、細田議長の説明や質疑の様子は、テレビなどの報道でも伝聞に近い形でしか伝えられていません。細田議長はどうして公の場での説明をこれほど拒むのでしょうか? 三権の長として相応しくないと責められるのを恐れたのでしょうか? 議長の解任規定はない(らしい)ので、最初に報道されたときに会見を開き説明していれば、今頃はすっきりした気持ちで国会運営に臨めていたでしょう。議員の身分と閣僚・役職の身分は別物ドラマや映画では、不正を働く政治家の理不尽な行いや悪事を暴き、正したり復讐を果たしたりというようなストーリーはよくあります。そして不正を暴かれた政治家は政治生命を絶たれて物語は終わります。しかし、現実には、当の政治家(議員)は不祥事が報じられても辞職することはほとんどありません。逮捕されたとしても、議員の職に留まる者が多くいます。この1年ほどでも政治家の不正を伝える報道を多く目にしました。政治資金規正法違反や年金未納、不適切発言や旧統一教会との関係を隠す・虚偽の報告をする、などこれでもかというくらいに問題が発覚しています。岸田政権では、8月に発足した第2次改造内閣だけでも、4人の大臣と政務官一人が辞職(事実上の更迭も)しています。しかし、議員辞職はしていません。国会議員も地方議員も、国民・有権者の投票によって選ばれます。首相は閣僚などの任命権はありますが、議員を辞めさせることはできません。往生際が悪いと思われようが辞めない議員が失職するのは、大まかにいうと公民権停止規定により被選挙権を有しなくなる場合と除名処分を受けた時です。公民権停止処分は、収賄罪・斡旋利得罪、公職選挙法違反、政治資金規正法違反などの罪で有罪となった場合です。直近では、関連政治団体が政治資金パーティーの収入を4,000万円ほど少なく収支報告書に記載した問題で、薗浦健太郎衆院議員が東京地検特捜部の捜査対象となり議員辞職(自民党も離党)しています。直後に政治資金規正法違反の虚偽記載などの罪で略式起訴され公民権停止となりました。2019年7月の参議院選挙での河合夫妻選挙違反事件もまだ記憶に新しいのではないでしょうか。河井克行議員の妻、河井案里氏が参議院議員選挙に立候補し当選。しかし10月に夫婦による大規模な買収疑惑が報じられ、9月の内閣改造で法務大臣に就任していた克行氏は大臣を辞任します。捜査では買収を受けた県議会議員・市議会議員の多くの名前も公表され、自ら名乗り出る議員、辞職する議員も出るなど地方議会にまで波紋は広がりました(後に市民団体が買収を受けた議員に刑事処分を求める告発状を広島地検に提出)。それでも2人は議員辞職せず、翌20年に東京地検特捜部により公職選挙法違反で逮捕されても案里氏は無罪を主張し続けました。しかし、議員辞職をしないまま21年2月に有罪判決が確定し、公民権停止となり失職(当選無効)。克行氏は4月に議員辞職願を提出し辞職。10月に克行氏も有罪判決が確定しました。買収疑惑が報じられてから案里氏は1年4ヶ月、克行氏は2年間議員に留まり続けました。その間の2020年1月15日の深夜に会見を行いましたが、ほとんど疑惑に対する説明になっていないと与野党からもメディアからも批判を受けました。法務大臣だった河合克行氏は説明責任を果たすことはありませんでした。議員であり続けることが何よりも大事当選無効となった案里氏が当選から失職するまでに受け取った歳費・歳末手当・文書交通滞在費(現調査研究広報滞在費)は約4,900万円とされます。ご迷惑をかけたと役職を手放しても、まず辞職はしません。議員を辞した途端に収入も途絶えてしまいます。一方、議員が離党や議員辞職をしてしまうと、議員の所属する会派や党は1議席を失うことにもなります。議員も所属政党も議員辞職という選択はなかなかできません。それでも議員としての出処進退は本人が判断すべきです。公の場で会見を行い、説明責任を果たす覚悟を示す政治家は極めて希です。不祥事や疑惑が明るみに出た際の対応の仕方や印象で、次の選挙の有権者が審判をくだします。政党にこそ求められる危機管理広報能力企業の危機管理広報と同様、今の政党中心の政治制度では、議員個人ではなく政党に危機管理広報能力が求められます。河合夫妻が公職選挙法違反を犯した参議院選挙では、自民党が作成し、候補者に配布した「遊説活動HAND BOOK」の失言防止マニュアルが外部に流出し物議を醸しました。いくら新人候補者に配布しても、ベテラン議員の失言が多いのにと、揶揄されました。政治家は一人一人が出たがり、しゃべりたがりです。人の前でしゃべるのは得意だと思い込んでいます。しかし、危機に際しての広報対応はほとんど経験したことはないはずです。これだけ多くの不祥事や疑惑、様々なトラブルが発生しているのに、各政党では対応を個々の議員にまかせているので、党内で蓄積も共有もできていません。選挙を組織で戦う以上、これからは党所属議員のリスクコントロールにもある程度関与し、危機管理広報も組織で対応することが必要です。