ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに核の脅威が高まり、それに対応して核シェルターへの注目度が増しています。2022年10月17日、岸田首相は予算委員会の質疑で、「核攻撃に対する施設は現実的に対策を講じていく必要があるという問題意識は持っている。諸外国の調査を行うなど必要な機能や課題について検討を進めている」と述べ、核シェルターの整備を検討する考えを明らかにしました。2022年12月には自民党内にシェルター議員連盟が発足し、核シェルターについての議論に備えています。では日本において核シェルターはどれくらい普及しているのでしょうか。NPO法人命を守るシェルター協会が2014年に発表したデータによれば、各国の人口あたりの核シェルター普及率は、スイス、イスラエルが100%、ノルウェーが98%、アメリカが82%、ロシアが78%、イギリスが67%であるのに対し、日本は0.02%となっています。日本は5,000人に1人の割合であり、日本のほとんどの人にとって、核シェルターがまったく身近ではない状態にあることがわかります。2022年3月と4月に「核シェルター」の検索数が上昇ロシアのウクライナ侵攻における、核シェルターへの注目度の高まりはGoogleトレンドからも確認できます。2022年3月6日~12日、4月24日~30日に「核シェルター」の検索数が上昇していました。3月6日はウクライナ北東部にある核物質を扱う研究所がロシアのロケット弾で攻撃を受けており、4月27日はロシアのプーチン大統領が「(ロシアは)他国にない兵器を所有しており、必要な時に使う」と語り、核使用を示唆しています。世論が核関連のニュースに敏感になり、核シェルターへの興味を高めていることがわかります。また、政府は2022年12月に決定した安全保障関連の3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)で、シェルター整備の方針を明記しました。ミサイル攻撃への対応として「様々な避難施設の確保をする」としており、公共施設だけでなく、商業ビルや個人の住宅といった民間の建物への配置も推進する予定です。こうした動きは民間にも伝わっており、Google検索での「核シェルター」のセカンドワード(2023年1月31日時点)を見ると、上位に「値段」「日本」「普及率」「マンション」といった言葉が並んでいます。これまで身近ではなかった核シェルターが急遽、リアルに必要なものとして浮上していることがわかります。有事には2週間しのげる閉鎖空間が必要にそもそも核シェルターとはどんなもので、どのようにすれば個人で設置できるのでしょうか。核シェルターとは、核爆発による放射性の破片や降下物から、人を保護するためにつくられる閉鎖空間です。核爆発から2週間で外部の放射性物質は1,000分の1まで減るとされており、2週間程度、身を潜める場所として核シェルターが必要になります。核シェルター内は外部よりも気圧を上げて外部の空気が入らないようにし、換気はフィルターや空気清浄機を通して行われます。トイレは外部に水で流すといった形式が取れないため、溜めて後で廃棄する簡易トイレなどが必要です。水や食料は人数に対し、最低でも2週間分程度の備蓄が必要になります。では家庭用の核シェルターにはどんなものがあるのか。作り方・設置する場所により大きく三つのタイプに分けられます。一つ目は地下につくるタイプです。住宅や社屋の新築の際に地下に埋める形式であり、このタイプがもっとも頑丈なつくりとなります。二つ目は地上につくるタイプ。例えば、住宅や社屋の新築時に併設して、地上のスペースに核シェルターを建てます。三つ目は屋内につくるタイプです。家の中の一部を隔離できるようにし、核シェルターとして活用します。こうした核シェルターは民間企業で販売、施工されています。多くがショールームを持っており、実際にどのようなものかを確認することが可能です。値段はサイズや設備、場所などによって幅があり、数百万~数千万円とさまざまです。建設費用や土木工事費用、維持費なども考慮する必要があります。いよいよ23年度に核シェルターに必要な仕様や性能が検討される日本での核シェルターの普及率は0.02%と非常に低率ですが、その原因は何でしょうか。理由としては、日本の住宅地は狭く、個人で核シェルター分の空間を確保しづらいこと、そして、まとまった金額が必要なためと思われます。特に都心部はマンションなどの集合住宅も多いことから、今後は個人所有の核シェルターをつくると同時に、公共の共同核シェルター施設などが必要になると予想されます。では海外ではどのように普及させているのか。日本経済新聞2023年1月27日(有料会員限定)記事によれば、スイスでは、米ソ冷戦下でのキューバ危機(1962年)を受けて、全新築住居に核シェルターの設置を義務付ける連邦法が成立(1963年)。自治体が避難先を割り当てています。台湾では学校や一定規模以上のビル、マンションに設置を義務付けています。シンガポールではすべての新築住宅に設置義務を課し、地下鉄のシェルターは周辺人口に合わせて設計しています。イスラエルでは全新築住居に壁を強化した区画の設置を義務付けています。日本政府は今後どのように普及を支援するつもりなのか。同記事によれば、政府は23年度に核シェルターに必要な仕様や性能の技術的な分析を始め、爆風に耐えられる強度や壁の厚さ、設置にかかるコストなどを調査。それを踏まえて具体的な要件を調整し、24年度には設置する企業への財政支援などの案を検討する予定です。ですから、個人としては、やみくもに核シェルターをつくるよりも、政府の核シェルターの設置方法や規格が固まってから動き出すという対処法がベストといえるかもしれません。また、公共の共同核シェルター施設がいつ、どこに、どの規模でつくられるのかを知ることも重要です。個人では、まず核シェルターについて地域での情報収集から始めてみてはいかがでしょう。「災難の先触れはない」といわれます。まさに核攻撃は事前に察知できない災難だけに、普段から心を引き締めて、しっかりと備えることが肝心です。