2月25日付けで串カツ田中を退職した元社員が、社内グループSNSに投稿したハラスメントの告発がネットで拡散し話題となっています。告発は、1月に入社して研修を終え、配属された店舗で受けたハラスメントや杜撰な衛生管理と店舗運営について、全社員が参加するグループSNSに投稿されました。文面を読む限りでは本人は告発が目的というよりも、退職に至る経緯や状況を伝えることで現場の体質改善を求めたようです。その投稿の画面を社内の誰かがスクリーンショットして保存し、168万人のフォロワーを持つTwitterのインフルエンサーである滝沢ガレソ氏にDMで送ったとみられます。滝沢ガレソ氏は2月26日にこのスクリーンショットを【独自】としてTwitterで公開すると瞬く間にリツイート・拡散され、この原稿を書いている28日時点で2,677.2万回の表示、8.8万のいいね、2.2万回のリツイートと多くのコメントが付いています。告発DMは果たして本物か? 事実か?この事態に、串カツ田中ホールディングスは2月27日、「SNS等で発信された情報について(お知らせ)」として公式サイトのプレスルームに「現在詳細の事実を確認中であり、公表すべき内容が発生した場合には速やかに公表致します」とコメントを発表しています。Twitterにアップされた社内グループのSNS画面は、Salesforceが提供する企業向けSNS・ビジネスチャットツールChatterです。企業の限られた人間だけがアクセスできるSNSですので、串カツ田中の社内からの情報流出である可能性は高いと思われますし、違っていれば27日の公式コメントで否定していたはずです。画面を確認して発表したと思われるコメントでも否定していないことから、串カツ田中で使われているChatterの画面でほぼ間違いないでしょう。危機管理広報としての対応は?今回の串カツ田中の対応を、危機管理広報の視点から見ると、いくつか気になることがあります。元社員が社内SNSに投稿したのは全社員が見ることができるグループSNSです。対象が全社員ですから、上司や管理職、運営管理者も見ることができます。串カツ田中ホールディングスのサイトで従業員数を確認すると、2022年11月末時点の連結従業員数は445人。Twitterにアップされた画面キャプチャは、投稿者の最終編集から12分後、既に213件が参照と表示されています。Chatterへのアクセスを上記445人の従業員に限っていたとしたら、この時点でほぼ半数がこの投稿を見ていることになります。そして、滝沢ガレソ氏が27日に投稿した続報にアップされた、管理者と思われる投稿の画面キャプチャは2日前となっていますので、25日の投稿と推察されます。投稿を見て慌てた上司か、あるいは単に問題だと思って周囲の人間が管理者に「なんとかしろ!」と対応を迫ったのかもしれません。告発投稿からあまり時間を経ず後追いで投稿したのでしょう。この拙速な投稿が最悪でした。初動の誤りが危機管理広報案件にしてしまった元従業員の投稿自体は、特定の店舗におけるハラスメントや杜撰な衛生管理などを告発する内容ではあっても、本部を否定しているものではありません。むしろ、研修で教わったことやマニュアルがしっかりしていたのに、現場ではそれが徹底されていないことを問題視し、改善を求めようとあえて全社グループに書き込んだものです。しかし、管理者の投稿はこの意図を読み取ることができずに、告発したことだけを問題視しています。画面のキャプチャがこれで全文なのかは不明ですが、これだけ(事実関係が不明確な情報配信をする場所ではありません。先ほど研修センターと実店舗での差がありマニュアルなどの徹底が出来ていないなどの投稿がありましたが、業務上問題が起こった際は相談窓口に連絡をお願いします。~)を読むと、会社は何かを隠そうとしていると思われてもしかたありません。告発投稿の時点ではまだ情報は社外に出ていません。まずは投稿を知った多くの従業員に対しての適切な対応が必要でした。Chatterは社内コミュニケーションツール=メディアでもあります。恐らく、投稿からそれほど時間をおかずにほとんどの従業員が目にするか、話を聞いて内容を知ることになったでしょう。そして、入社してわずか1か月で退職することを選択した一人の新人の訴えを、会社はどのように受け止めどんな対応をするのか、固唾をのんで見守っていたはずです。同じ店舗で同様に感じていた他の従業員もいたかもしれませんし、他の店舗でも同じようなことが起きているかもしれません。きちんとしている店舗の従業員からすれば、そんなことを本部は見逃しているのか?と不信感を募らせるかもしれません。しかし、グループSNSに投稿された内容は従業員の期待を裏切るものだったのでしょう。この投稿が、結果として告発投稿のキャプチャを滝沢ガレソ氏へDMさせたのではと思います。従業員も重要なステークホルダーです。メディアの先にいる生活者や株主の気持ちを想像するように、従業員の気持ちを想像することができていたでしょうか。社内グループのSNSへの投稿であっても、内容は危機管理広報案件だったのです。公式コメントもモヤモヤを募らせるだけ滝沢ガレソ氏のTwitterを見れば、どのくらいの人が目にしているかはすぐにわかります。27日の公式コメントを掲載する時点でも、1,000万回以上表示されていたことは想像できます。テレビなどのマスメディアでこそ取り上げられていなくても、多くの人が知り関心を寄せていることは確かです。それなのに公式コメントは、さらに多くの従業員や元社員をがっかりさせることになりました。関係者だけでなく、一般のお客様もモヤモヤするだけです。同じような思いを持っていた他の従業員や元社員などから、さらに多くの告発DMが滝沢ガレソ氏の元に届いているようです。その結果、続報が投稿されることとなりました。この続報を受け、更なる告発DMが滝沢氏のもとに届き、続報が投稿されるのではと心配になります。2023年2月27日付のリリースに関連するご報告ここまで書き上げた2月28日夜、再度串カツ田中ホールディングスのプレスルームをチェックすると、「2023年2月27日付のリリースに関連するご報告」とする新たなページがアップされていました。そこには、社内SNSに投稿された告発内容について全て認めた上で、該当店舗についてはしばらくの間休業、衛生管理の徹底・再教育を行うとし、「今回の件を真摯に受け止め、今後、同様の事案が再び発生しないよう、従業員の社内マニュアルに基づく食材・衛生管理の徹底、正確な情報共有やコンプライアンス遵守など社員教育の継続的に行い、安心安全な運営体制を再構築いたします」とあります。急転直下の展開です。早い段階で事実関係を確認し、対応を協議し公表に踏み切った串カツ田中。危機管理広報対応の最初の失敗から始まった負の連鎖を断ち切ることはできたでしょうか。発表した施策を確実に実行できるかにかかっています。