東京地方裁判所は、2022年11月17日、ファスト映画と呼ばれる動画をYouTube上に複数投稿していた男女に対して、総額5億円の支払いを命じる判決を言い渡しました。この判決は、2人の行為が著作権侵害に当たることを認め、映画会社13社からの請求を認容したものであり、著作権侵害に対し非常に厳しい態度で臨むことが明らかとなった判決の一つといえます。しかし、著作権とはそもそもどのような権利なのか、何が問題なのかなどよく分からないという方も少なくないと思います。そこで、今回はファスト映画を題材に著作権と著作権侵害について解説します。ファスト映画とは?著作権について触れる前に、今回問題となったファスト映画とはどのようなものであったのかについて簡単に解説します。ファスト映画とは、映画館で公開された映画の映像を10分程度に編集し、ナレーションなどを付けて映画のストーリーを明らかにする、いわゆる映画のネタバレをする動画でした。被告となった2人は、こうした動画をYoutubeにアップロードする行為を繰り返し、合計1千万回もの再生回数を稼いだ結果、約700万円の広告収入を得ていました。ファスト映画に対し、映画会社各社はYouTubeでの映画レンタル料である400円~500円を元に映画1本辺り200円の損害が発生していると主張し、損害の一部として5億円を請求しました。東京地方裁判所はこれを認め、全体で20億円の損害が発生しており、その一部である5億円の請求を認めました。著作権とファスト映画では、こうしたファスト映画と著作権はどのような関係に立つのでしょうか。ここからは著作権とファスト映画の関係について解説します。著作権と著作権侵害著作権とは、著作権法において定められた著作物に対する権利の総称のことをいいます。著作権は複数の権利(支分権)で構成されており、大きく分けると著作財産権と著作人格権の二つに分類されます。著作権のうち今回のファスト映画と関係するもので主な権利を挙げると以下の様なものがあります。複製権…著作物を複製する権利上映権…著作物(映画やビデオ)を上映する権利公衆送信権…インターネット上へのアップロードなど、公衆へ送信する権利翻案権…編曲、脚色、映画化などに関する権利この他にも、著作権には口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権といった権利もあります。このように著作権は様々な権利で構成されており、原則としてこうした著作権は著作権者が有しており、第三者は勝手にこの権利を侵害することはできません。著作権侵害の具体例として、Aさんが創作したキャラクターのイラストを、BさんがAさんの許諾を得ること無く、コピーして販売していた事例を考えてみましょう。この場合、著作権者はAさんなので、Aさん自身がキャラクターのイラストをコピーして販売したり、無償で譲渡するというのは著作権の行使として可能です。しかし、Bさんは著作権者ではありません。そのため、Aさんの許諾を得ること無く、有償で販売する行為はAさんの譲渡権を侵害していますし、コピーしている行為は複製権の侵害にも該当します。今回のファスト映画の場合には、他人の著作物である映画の映像にナレーションやコメントを付加し、編集している点で翻案権の侵害である点や、映画の映像をYouTube上にアップロードしている点で公衆送信権の侵害となり、著作権侵害である旨が認められています。著作権侵害をした場合の法的責任著作権を侵害した場合の法的責任には大きく分けると(1)民事上の責任(2)刑事上の責任の2種類があります。民事上の責任には主に、損害賠償責任不当利得の返還があります。今回の判決は損害賠償責任として1回の再生数あたり200円の損害を認め、総額で約20億円の損害が発生しており、そのうちの一部として5億円支払いを命じています。他方で著作権侵害は犯罪行為としても規定されています。著作権(財産権)侵害の場合には10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金が定められています。著作者人格権等の侵害の場合には5年以下の懲役又は500万円以下の罰金とされており、いずれも処罰には著作権者自身が告訴を必要とする親告罪となっています。なお、これらの罰則は私人(個人)が著作権など(著作者人格権を除く)を侵害した場合であり、法人が侵害した場合にはさらに重く3億円以下の罰金となります。そのため、会社のパソコンなどを使用し業務として著作権侵害を行った場合には、非常に重い罰金が会社に科される可能性がある点に十分注意しましょう。まとめ今回のファスト映画に対する判決は著作権侵害に対し厳しく臨むという裁判所の姿勢がうかがえる判決であったともいえるでしょう。被告らが得たのは700万円の広告収入であったにも関わらず、損害賠償額は5億円となっており、著作権侵害が犯罪行為であり、リスクの高い行為となり得るかを知るための事例になるかと思います。会社の業務や日常生活においても他人の著作物を利用する機会がありますが、そうした際には引用をはじめとする著作権法のルールを守り、会社が著作権侵害の罪に問われることの無いよう業務を進めていきましょう。