女性隊員のセクハラ告発に端を発し、自衛隊はハラスメントについて調査を行った結果、その他にもパワハラ被害が見つかりました。現在、再発防止対策に努めています。パワハラやセクハラの被害は後を絶ちませんが、企業にとっては会社のイメージや職場としての価値を大幅に下げてしまうリスクのあるものであり、被害者に対する法的責任だけで済む問題ではありません。今回はセクハラとそれによる企業のリスクと対応方法について解説します。セクハラとはセクハラは言葉として耳にしたことのある方は多いと思いますが、正確な定義ははっきりとしない方も多いのではないでしょうか。そこで、まずは定義について解説し、事例をご紹介します。セクハラの定義セクハラについては人事院が以下の様に定義しています。(1)他の者を不快にさせる職場における性的な言動・職員が他の職員を不快にさせること・職員がその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせること・職員以外の者が職員を不快にさせること(2)職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動”人事院HP「セクシュアル・ハラスメントとは」より注意が必要なのは、ここで挙げられた行為は、男性から女性だけでなく、女性から男性へ行われたものや、男性同士や女性同士で行われたものであってもセクハラに該当します。つまり一言で言うと「相手方の意に反する性的言動」はセクハラであるとまとめることができます。どんな行為がセクハラになるのか?定義だけでは、具体的にどのような行為がセクハラになるのか分らないという方も多いでしょう。セクハラに該当しうる行為を全て類型化することは困難ですが、厚生労働省は指針において以下の2つの類型に分類しています。(1)対価型セクシャルハラスメント対価型セクシャルハラスメント(以下「対価型」)とは、「職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの」と厚生労働省の指針で定義されています。つまり、職場での地位や力関係を利用して性的な言動や関係を持つように要求し、応じない場合には解雇や降格、配置転換をするなどの不利益を課す様なタイプのものが、対価型の典型例となります。(2)環境型セクシャルハラスメント環境型セクシャルハラスメント(以下「環境型」)とは、「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」と同指針で定義されています。具体例を挙げると、上司が部下の身体(胸や腰など)を度々触ったため、苦痛に感じ就業意欲が低下してしまったケース同僚が取引先で労働者の性的な情報を意図的にかつ継続的に広めた結果、仕事が手に付かなくなってしまったケース抗議しているにもかかわらず、職場にヌードポスターを掲示しているため、労働者が苦痛に感じて業務に専念できないケース以上のようなケースが指針内で挙げられています。セクハラの事例では、実際の事例ではどういった行為がセクハラに該当するとされたのでしょうか。ここからは裁判例からセクハラとされた事例についてご紹介します。(1)「おばさん」や「子持ちのババア」といった言動これは千葉地裁平成11年1月18日の事件です。この事件では入社直後から、従業員が被害者に対し、「おばさん」「子持ちのババア」といった言辞を行った自分の性体験を語る夫婦間の性的関係の有無を問いただすキーボード操作を教える際に必要以上に身体を密着させる、抱きつく、髪をなでる卑猥な写真を被害者のコンピューターの前に置くといった行為を行ったものです。社長の立ち会いの下、被害者と従業員は別々に働いていましたが、最終的に被害者は退職したという事件でした。この事件では、従業員の行為はセクハラ的な言動であることが認められ、被害者には80万円の慰謝料請求が認められました。(2)取引先へ性的な悪評をふりまく行為これは福岡地裁平成4年4月16日の事案です。この事件は日本初のセクハラ事件として有名です。被害者は非常に有能な女性編集者として社内外で評価されていました。これを嫉んだ男性編集長が、被害者はふしだらな女で水商売の方が向いているといった悪評を取引先へばらまいた被害者の異性関係が原因で取引先を失った等と被害者へ退職を勧めた結果、被害者が退職を余儀なくさせられたものです。この事件では、男性編集長だけでなく会社にも責任が認められ、150万円の慰謝料を連帯して支払う判決が出ました。セクハラが起きた場合の企業の責任セクハラを行った従業員個人は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。では、会社は責任を負わないのでしょうか。ここからはセクハラが生じた場合の企業の責任について解説します。セクハラが起きた場合に会社が負う責任としては、(1)使用者責任(2)債務不履行責任の2つがあります。(1)使用者責任使用者責任(民法715条)とは、被用者(従業員等)が業務に関連して不法行為を行った場合に、その不法行為によって生じた損害を使用者(会社)も責任を負うというものです。この使用者責任が認められると、会社は従業員と連帯して損害賠償責任を負うことになります。(2)債務不履行責任債務不履行責任(民法415条)とは、会社が負っている債務を履行しなかったために生じた損害の賠償責任を負うというものです。この場合に会社が負っている債務は男女雇用機会均等法第11条によってセクハラの防止措置を講じる義務を負っています。そのため、会社が講じていた措置や対応によっては、こうした男女雇用機会均等法に基づく義務を怠った事を理由に債務不履行責任を負うケースがあるのです。実際に起きた場合の対応ではセクハラが起きた場合には会社はどのような対応を取るべきでしょうか。ここからは実際の対応について解説します。(1)事実調査まずは事実確認を行いましょう。被害者だけでなく、加害者からもヒアリングを行い事実関係を明確にしましょう。その他にも、客観的な情報を集めるために目撃者や周りにいたと思われる人間からも聞き取りを行いましょう。注意が必要なのは実際にはセクハラが無かったにもかかわらず、セクハラを理由に懲戒処分を行うと、加害者とされる人間から会社が訴えられてしまうリスクがあります。必ず事実関係を明確にした上で対応しましょう。(2)被害者と加害者の隔離セクハラがあったと明らかになった場合には、被害者と加害者を隔離し新しい被害が発生しないようにしましょう。こうした措置を講じないで被害者に生じた精神的苦痛が大きくなると、最終的に会社が負う損害賠償額が大きくなる可能性があります。(3)加害者に対する処分事実関係が明確になったら、就業規則等に従って適正な処分を行いましょう。(4)再発防止のための措置セクハラの原因を分析した上で、職場での改善策の検討や実施、従業員への啓蒙活動や教育の実施などが考えられます。また、被害者が職場に残っている場合には、被害者のフォローやセカンドハラスメントの防止なども検討しましょう。