姫路市の県立高校3年の男子生徒が卒業式に出席する際、髪の毛を編み込んだ「コーンロウ」と呼ばれる髪型で登校しました。その際、髪形が校則に違反しているという理由で卒業生用の席に座ることを認められなかっただけでなく、他の生徒がいない2階席に隔離されたことが報じられ、物議を醸しています。名前を呼ばれても返事しないように念押しされたり、トイレに行くときには教師が一緒に付いてきたり、校内で友人を待っていると、「校内から出てくれ」と言われたとも報道されています。そもそも、なぜ男子生徒は「コーンロウ」で卒業式に出席しようとしたのでしょうか。毎日新聞の記事などによると、生徒の父は米ニューヨーク出身の黒人研究者で母は日本人。日米の二重国籍を持ち、海外と日本を行き来しながら育ち、2018年からは母親や兄弟とともに日本で暮らしています。生徒の髪は巻き毛で横に広がりやすく、学校側は式の1週間前の頭髪検査で、長さが校則に違反するとして散髪するよう指導していたとしています。今年卒業する中高生にとっては、コロナ禍もあり卒業式には特別な思いがあったでしょう。生徒は卒業式を「特別な日」と考えインターネットで調べ、アフリカにルーツを持つ黒人文化の伝統である「コーンロー」にたどり着きます。これなら「目や耳、襟にかからない」という校則の基準に合致し、巻き毛である髪質でも整って見えると判断。式の前日、美容室で耳周りも短くし、派手にならないよう注意を払って髪を編み込んでもらい当日を迎えました。ところが、本人の思いとは裏腹に校則違反として不合理な対応をされたのです。全国でブラック校則の見直しが進んでいるなか令和4年12月、文部科学省が「生徒指導提要」を改訂しました。この改定を受けて、全国で校則の見直しの気運が高まりました。例えば福岡市では改訂前から私立中学校の校則見直しに取りかかり、令和5年には「すべての中学校で合理的説明ができない校則内容の解消」をめざし、全校がホームページに校則を掲載し、公表(令和5年3月までに)するとしています。令和5年2月1日福岡市教育委員会PressRelease 福岡市立中学校の校則見直しについて他の自治体・教育委員会、あるいは個々の学校でも同様に校則の見直しに取りかかっていることでしょう。それなのに、この姫路市の兵庫県立高校ではいまだに昭和を彷彿とさせる校則の運用です。「生徒指導提要の改定」は知らなかったのでしょうか?あるいは無視したのでしょうか?改定された生徒指導提要3.6 生徒指導に関する法制度等の運用体制の、「3.6.1 校則の運用・見直し」では、校則の意義・位置付け、運用、見直し、児童生徒の参画について記載されています。更には、「3.6.2 懲戒と体罰、不適切な指導」では、〔不適切な指導と考えられ得る例〕が7つ示されています。その中で・児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。・組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。・殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。・児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。・指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。の5つは今回の対応そのものです。不適切な指導として示された7つの例のうちの5つが当てはまるという、まさに悪い例の見本です。校則運用の問題ではなく、人権侵害や差別問題も一連の報道、ネットで指摘されているのは、校則のあり方、運用の仕方だけではありません。教師・学校の人権や差別に関する意識の低さも問題視されています。県教育委員会が開いた記者会見も最悪でした。記者会見はテレビの多くのニュース番組でも放送され、「教育的配慮が足りなかった」と学校の対応を一部問題視はしたものの、基本的なスタンスは学校の対応を擁護するように受け止められるものでした。生徒のルーツについては「国籍は学校側もつかめず、想像するしかない」「この髪形が自身のルーツであると説明してもらえればよかった」さらには「互いの思いが一方通行だった」と学校側は何も知らなかったので仕方ないというスタンスです。差別的な対応をしたという批判からは逃れたかったのでしょうか。それとも、問題の本質がわかっていないのでしょうか。まさにこの4月1日にこども基本法が施行されました。昨年の6月22日に公布され、教育現場には施行に向けた準備、徹底の指示が下されたはずです。上記12月に改定された「生徒指導提要」と共に、昨年から今年にかけては自立した一人の人間として、子どもの権利や個性を尊重するよう教育現場の意識の転換が図られた年です。それなのにこの高校は何も変わっていないし、指導する立場の兵庫県教育委員会も同様のようです。私はこれまで10年以上海外の子育て事情を取材してきました。ノルウェーやカナダなどの子育て先進国では、「Equality 平等」についての教育が幼稚園・小学校の低学年から徹底されていることが共通しています。移民や難民を多く受け入れ、幼い頃より平等に関する教育を受け、男女平等はもちろん、国籍や民族、肌の色、育った環境……そのようなことで差別することがあってはならないと教えられます。ノルウェーで子育てを所管する省庁はMinistry of Children, Equality and Social Inclusion=こども・平等・社会省(取材当時) です。省の名前に「Equality 平等」が入っているくらいです。取材をノルウェー大使館へ打診した際には、事前資料としてEquality 2014 - the Norwegian Government’s gender equality action plan も送られてきました。ノルウェー(北欧3国)の「Equality 平等」についての考え方をよく理解した上で取材に来てほしいと念を押されました。いかに「Equality 平等」を重視し、その浸透に力を注いでいるかがうかがえます。いじめや虐待、校則の誤った運用などを改善要求する際に、こども基本法が施行されたことで法律的な裏付けができました。今回の高校の対応は、今後はこども基本法違反に問われる可能性があります。日本でも海外にルーツを持つ子ども達が増えています。校則のありかた、あるいは違反への対応に対してだけでなく、差別や人権、子どもの権利侵害で訴訟が提起されることが増えてくるでしょう。教育現場では、子どもの権利条約とこども基本法の理解・徹底とともに、校則や指導の仕方の現状確認・見直しが急がれます。