4月29日、FRIDAY5月5日号で追及スクープ!”中古車販売業界の雄”ビッグモーターが「客のタイヤ」に穴を空けていた「衝撃動画」と題し、ビッグモーターの不正車検・不正整備、工賃の水増しや保険金の過剰請求などについて報じました。元従業員(2019~21年の2年間ビッグモーター熊本浜線店に勤務)が「仕事を覚えるため」と偽り、21年6月に撮影した動画を元に記事は構成されています。相次ぐビッグモーターの不正に関する報道ビッグモーターについての報道では、この1年ほどを遡るだけでもいくつもの問題が取り上げられています。2022年の5月から6月にかけてはナンバー無し(ビッグモーターのロゴマークがデザインされたプレート)で公道を走る車の写真がSNSに複数投稿され、物議を醸しました。かねてより問題視されていた保険金不正請求問題では、22年夏に自主調査をしたものの保険会社各社を納得させることができず、12月に第三者による調査チーム設置を保険会社に提案したと報じられています(東洋経済ONLINE)。そして、今年1月30日にウェブサイトのインフォメーションに「公正で適正な調査を行うため、当社と利害関係を有しない外部専門家から構成される特別調査委員会を設置いたしましたのでお知らせいたします」と、「特別調査委員会設置のお知らせ」とするページを掲載しました。今年になってからも、2月に佐賀県唐津店が点検整備の一部を実施せずに保安基準適合証を交付したことなどを理由に保安基準適合証の交付停止、3月には熊本県の熊本浜線店が車検の不正などを理由に指定自動車整備事業者(民間車検場)の取消処分(いずれも九州運輸局から)を受けたことが報じられています。否定も肯定もせず沈黙第三者による特別調査委員会の調査の最中に九州運輸局からの処分を受け、FRIDAYのスクープ記事も出ました。このFRIDAYの記事の中では、その事実について、ビッグモーター本社はどのように考えているのか。本誌は質問状を送ったが、期日までに返答はなかった。また都内にある代表取締役社長・兼重宏行氏(72)の自宅を訪れ見解を求める旨の質問書を投函したが、やはり返答はなかったとあります。本当に利害関係の無い第三者による調査を進めているとしたら、一連の処分報道やFRIDAYの記事は調査委員会の心証を害することになるでしょう。それでも、ビッグモーターは否定も肯定もせず沈黙を続けています。店舗ごとの評判については、ネット上では悪い評判も良い評判もあり、ひとくくりで良い、悪いとは言えません。このビッグモーターに関する一連の報道を今回取り上げたのは、不正や不祥事を指摘するためではありません。もちろん、沈黙を貫く本社の姿勢については疑問を抱かざるを得ませんが、他社でも同様のことが起こりうるリスクについて考えるきっかけとして取り上げたいと思います。串カツ田中炎上事案との共通点ビッグモーターに関するFRIDAYの記事を見ると、今年3月にこのコラムで取り上げた串カツ田中の内部告発炎上事案を思い出します。どちらも退職した元従業員が第三者に情報提供して問題が明らかになりました。ビッグモーターは店舗数300店以上、従業員6,000人を謳っています。同じく串カツ田中も店舗数が300以上(2022年1月に300店舗達成キャンペーン実施)と多店舗展開しています。両社の沿革を確認すると、ビッグモーターは2013年頃から新規出店のペースが速まり、この10年ほどで急激に店舗数を増やしたことがわかります。串カツ田中は2011年の直営6店舗から2019年まではほぼ直線的に店舗数を伸ばしたものの、コロナ禍で伸びが鈍化。この3年はほぼ300店で横ばいです(株式会社串カツ田中ホールディングス2022年11月期第2四半期決算説明資料より)。もちろん直営店ばかりではなくフランチャイズの店舗もあります。店舗や拠点を急激に広げる時に起こりがちなこと勢いがある企業は、急激に店舗数や拠点を増やし、同時に従業員を増やすことになります。その結果、従業員の採用や教育が追いつかずトラブルを引き起こすことが珍しくありません。さらに今は、コロナ禍明けでサービス業はどこも人材不足となっています。質よりも数を揃えることを優先する企業や現場もあります。串カツ田中の事案では教育はしっかりできていたのに現場責任者がルールや決め事を無視し、ハラスメントまで行っていました。コンビニやファストフードだけでなく、居酒屋や飲食店、デリバリーサービスなどでもフランチャイズで店舗を増やしている業態は多くなりました。店舗と共にそこで働く従業員が増えれば目が行き届かない店や本部の意向やルールを無視するオーナーや従業員も少なからず現れます。仮にビッグモーター本社は各店舗に対して法令遵守・コンプライアンスの徹底を指示していたとすると、FRIDAYに告発された熊本浜線店の事案は、その店舗が本社や本部からの指導やルールを無視して独自で行っていたことになります。保険金不正請求疑惑についても特定の店舗が独自に不正を働いていたことになります。公道でナンバーを付けずに走ったのは単に面倒くさかっただけなのか、それともそもそも臨時回送運行許可証(ディーラーナンバー)を取得(費用も手間もかかります)していないのかはわかりませんが、それもその店舗の勝手な判断ということになります。店舗が増え、従業員が増えればこのようなことはどの業種でも起こりえます。私たちはバイトテロやお客様への対応ミスが、ブランドや信用を一気に落としてきた事例を過去にたくさん見てきています。さらにコロナ禍を経て、人は不寛容に拍車がかかった様にも見えます。絶対に守るべきこと、やってはならないこと、コンプライアンス・社内ルールの徹底と遵守などは、定期的に研修や勉強会を行うなどして浸透させる必要があります。そして何よりも従業員の働きがいや会社に対してのロイヤリティを高めることが、不要なトラブルを避けることに繋がります。