日本テレビ系列の4月~6月クールで放送された「それってパクリじゃないですか?」。原作は奥乃桜子さんの「それってパクリじゃないですか?~新米知的財産部員のお仕事~」。知財に関するトラブルをテーマにしているので、毎回興味深く見ていたのですが、6月14日放送回がとうとう最終回となってしまいました。恋人による情報漏洩から冒認出願を許すドラマは、月夜野ドリンクの知財部を舞台に繰り広げられます。発売準備を進めていた新商品がライバル会社の特許を侵害している!との警告書が届きます。月夜野ドリンクは新商品の肝となるその技術を、「営業秘密」としてあえて特許申請していなかったのです。何年もかけてやっとたどり着いた技術が、新商品発売直前のタイミングで特許申請されたことに疑問を抱き調べ始めます。そして、特許公告に記載されたライバル会社の発明者の名前が、月夜野ドリンクの同僚の恋人であることに気づきます。同僚がライバル会社に勤める恋人に情報漏洩し、その情報を元に冒認出願(権利のない者が出願し、権利を取得)したことを突き止めるのです。ストーリーの詳細については、公式サイトでご確認ください。ドラマとそっくりの情報漏洩で逮捕「それってパクリじゃないですか?」の最終回が放送された翌日の6月15日、国立研究開発法人・産業技術総合研究所(産総研)に所属する中国籍の研究員の男(59)が、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)の疑いで警視庁公安部に逮捕されました。逮捕容疑は絶縁ガスにも使われるフッ素化合物の合成技術に関する研究データを、中国企業にメールで送信(2018年4月)した疑い。データを送信した先の中国企業は化学製品製造の会社で、日本の代理店は産総研と同じつくば市にあり、社長は容疑者の妻が務めているというのです。構図としては「それってパクリじゃないですか?」の最終回とそっくりです。しかも、ドラマと同様に、中国企業はメールを受け取った1週間後に中国で特許の申請もしています。産総研の情報漏洩は日本の安全保障を脅かしかねないとしてマスコミも大きく取り上げ、日中の外交にまで影響しそうな問題になっています。ドラマでは和解し、ライバル会社が特許を月夜野ドリンクに無償譲渡することで円満に解決しましたが、不正競争防止法違反(営業秘密の侵害)に問われてもおかしくない事案といえます。自分の利益のために秘密情報を盗む者も経産省の不正競争防止法パンフレットには、営業秘密の侵害を「窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、若しくは第三者に開示する行為等」と記しています。産総研の営業秘密の侵害は報道の通りであれば明らかに意図的なものであり、いわゆる産業スパイといえる行為です。産業スパイは自分が所属する組織や企業の命令や指令に従って秘密情報を盗み出します。そんなのはうちの会社には関係ない、大手や先端技術を扱う企業の話でしょ、と思ってはいけません。取引先や仕入れ先、その価格や顧客の情報も重要な営業秘密です。昨年(2022年)、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイト社長(当時)が「はま寿司」の営業秘密を持ち出した不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。はま寿司の商品原価や仕入れ価格の情報を持ち出して退職し、転職先のかっぱ寿司に提供した疑いです。転職活動や転職先での待遇や出世を有利に、あるいは情報をお金に換える目的で秘密情報を盗む者は後を絶ちません。自分の利益のために秘密情報を漏洩する者もいるのです。リモートで自宅や遠隔地での作業が増えると、情報管理も難しくなります。社会情勢やマーケットの変化と共に情報の価値も変わります。自社にとって何が秘密情報にあたるか確認、リスクの洗い出しをし、情報の管理方法について検証・見直しを定期的に実施する必要があります。営業秘密はどこででも漏れる可能性がある私は飛行機での移動の際、空港で航空会社やカード会社が提供するラウンジを利用することが多いのですが、大声で話や電話をしている人を見かけることがあります。そのつもりは無くても聞こえてくるのですが、「そんな話、ここでしていて大丈夫?」というような場面もよくあります。先日も外が見える窓に向いた席に座り、電話で大きな声をあげて話をしている男性がいました。固有名詞も丸聞こえです。まわりが静かなので、その気になればその会話は簡単に録音できてしまいます。日常で情報が漏れるこんな場面は、ドラマではよくあるシチュエーションです。スマホで録画しておけば、顔まで記録されてしまいます。これを誰かが迷惑行為を晒す目的でSNSにでも投稿しようものなら…炎上の果てに秘密情報まで開示されてしまいます。どんなに情報セキュリティを厳重に管理しても、最終的に情報を漏らしてしまうのは「人」です。結局は従業員のロイヤリティ・モチベーションをいかにあげていくか、情報に関する意識を浸透させるか、人材への投資と教育が企業経営にとっては重要課題と言えます。