近年、企業だけでなく行政組織でも広報に力を入れる所が多くなってきました。一方で、組織のスリム化や人材不足のため、広報の専門部署を置かず、総務や秘書室、経営企画室などスタッフ部門が担当したり兼務したりというケースも多いようです。さらに兼務といっても組織単位での兼務ではなく、その中の「誰か」が担当することになります。あるいは、広報経験者やメディア出身者を新たに採用し、専任広報担当として置く企業もあります。広報業務をアウトソースする場合でも、窓口はその「誰か」一人となり往々にしてブラックボックス化してしまいがちです。そこで、一人の担当者が広報業務を担う場合のリスクについて考えてみたいと思います。一人広報のメリットまず、リスクの確認の前にメリットについても整理しておきます。広報担当者が一人であれば、メッセージやコミュニケーションの一貫性を保つことができます。対応する担当者が持つ情報量・スキルや経験値、あるいは人間性や性格の違いによる対応のブレは起こりません。企業が発するメッセージの一貫性を保つことで、企業イメージやブランドが混乱することを防ぐことができ、メディアや顧客などステークホルダー(利害関係者)との関係構築において信頼性が高まります。また、広報に関する業務のいっさいにおいて一定の権限を与えられていれば、広報担当者が一人で意思決定を行えるため、情報の伝達や対応が迅速に行われます。組織内での調整や合意形成の時間を省くことができ、危機対応時など、迅速な対応が求められる場合に有利です。それでも、このようなメリットが活きてくるのは、社長直轄で権限を委譲されている場合や役員、あるいは上位役職者が広報担当であるような、強い権限を与えられている場合に限られます。そうでない場合はむしろ以下のようなリスクが顕在化する可能性が高くなります。 担当者の専門知識やスキルによる制約一人の担当者が全てを担当すると、広報に関する専門知識やスキルの幅により広報活動が制約される可能性があります。たとえ経験者を採用したとしても、その人が学んだり経験したりして得た知識は万能ではありません。これまでに経験したことの無い分野に対して対応を求められることもあります。メディア関係者との関係構築には時間もかかります。また、その人の経験や視点が広報活動を制限する可能性があります。広報担当者にはフラットな視点が求められ、あらゆるステークホルダーを意識した多様な意見や視点を取り入れて業務に当たることが必要です。しかし、往々にして個人の偏った価値観や好き嫌いなどが、メディアへの対応や記者との関係に影響を及ぼすこともあります。結果、広報活動の多様性や効果的なターゲットへのアプローチが制限されることになります。危機管理・クライシス対応は、なかなか経験を積むことができません。実際にトラブルが発生すると、膨大な情報を集めて処理をし、判断、指示を出さなければなりません。ベテランであっても一人で対応することはほぼ無理だと考えた方が良いでしょう。特定の領域に特化した知識や経験が必要な場合には、専門家のサポートが必要となります。複数のメンバーがいる組織であれば、異なるバックグラウンドや経験、専門知識を持つメンバーで協力し、より幅広い視点からの広報戦略を立案したりクライシスに対応することも可能ですが、一人広報ではそれは叶いません。代わりがいないことによるリスク広報担当者が一人である場合、もし病気や急な退職などの理由で不在になった場合、広報活動に大きな影響が出る可能性があります。どんな職種であっても、組織が特定の業務を一人に依存することは、業務の継続性やリスク管理の観点からも避けるべきです。平時は対応できていても危機対応は一人では難しいどんな業態・職種においても、特定の業務や役割を一人に集約するとその人に負荷が集中することになります。 一人の担当者が全ての広報活動を担当する場合、プレスリリースの作成・配信やメディア対応、コミュニケーション戦略の立案など広範な業務をこなさなければなりません。近頃はSNSの運用を広報の業務に加えることも多くなりました。新商品発表やサービススタート時、あるいはクライシス対応など、特定の事象が発生した時に業務が集中します。ルーティンの業務は負荷が小さくても、一時期に業務が集中するとミスも起きやすくなります。特にクライシス対応においてはプレッシャーやストレスも極限に達します。キャパシティの限界を超えて対応を迫られ、見落としなどのケアレスミスや判断ミスが更なる重大な危機を作り出すことさえあります。クライシス・危機対応に際しては、迷わず専門家のサポートを求めるべきです。広報を一人の担当者が担う場合には効率性や一貫性が向上するメリットはありますが、それを超えるリスクも存在します。企業は広報活動を効果的かつ効率的に実施するためには、組織的な広報チームを構築するか、外部の専門家との連携が重要となります。