7月2日、学生時代からの大ファンである山下達郎さんのライブコンサートを最後に、中野サンプラザが閉館。中野サンプラザは福岡サンパレス※から2か月遅れで民営化し、当時は色々と情報交換をしあっていました。そんなこともあり閉館を伝えるニュースを見ながら、当時のことを思い出していました。契約終了を報告するツイートが注目される同じ頃、ネットでは中野サンプラザよりも山下達郎さん周辺の話題が盛り上がっていました。何があったのかと元を辿ってみると、音楽プロデューサーの松尾潔氏の7月1日のTwitterへの投稿でした。15年間在籍したスマイルカンパニーとのマネージメント契約が中途で終了になりました。私がメディアでジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由です。私をスマイルに誘ってくださった山下達郎さんも会社方針に賛成とのこと、残念です。今までのサポートに感謝します。バイバイ!(原文ママ)有名プロデューサーがJ-POPのビッグネームの名前をあげ、さらにはジャニーズ事務所が絡んでいるとなると誰もが感心を持ちます。このツィートが多くの「いいね」と共に瞬く間にリツイートされ、ネットに留まらず大きな注目を集めました。ことの経緯を書くと長くなるので、詳細は松尾氏の日刊ゲンダイ連載コラム「松尾潔のメロウな木曜日」「スマイルカンパニー契約解除の全真相」弁護士を通じて山下達郎・竹内まりや夫妻の“賛成事実”を確認に記されていますのでこちらでご確認ください。1ヶ月半前のラジオでジャニーズ性加害問題に触れた事が発端事の発端は、藤島ジュリー景子社長がジャニーズ性加害問題について動画と文書で公式見解を発表した5月14日の翌日、松尾氏の出身地福岡のRKBラジオ「田畑竜介 Grooooow Up」に生出演しこの件についてコメント(提言)したことから始まります。このコメントの書き起こし記事がYahoo!ニュースに掲載され、これを読んだスマイルカンパニー小杉社長が問題視しマネジメント契約を途中解約したのです。松尾氏は「いわば不敬罪による一発退場である」と書いています。ラジオ放送でのコメント全文は松尾潔「私はタレントを守りたい」ジャニーズ社長に記者会見求めるに掲載されているので読むことができます。この放送から契約終了の6月30日までは1ヶ月半。その間のやりとりの詳細はコラムに書かれていますが、この間に新たに騒ぎを大きくする重要な人物が登場します。山下達郎・竹内まりや夫妻です。そして7月1日のツイートに繋がります。この契約終了報告がネットだけでなく音楽業界や芸能マスコミで大騒ぎとなったのです。松尾氏のところへはツイートから24時間以内に10社を超えるメディアから取材依頼が届いたと綴っています。 この騒動を受け、スマイルカンパニーも7月5日、公式サイトに「皆さまへ」と社長名でのコメントを掲載しました。ここで、今週日曜日(7/9)14時からTOKYO FMとJFN(全国38局ネット)で放送されます山下達郎サンデー・ソングブック内にて、山下達郎本人より大切なご報告がございます。と山下達郎さん(以下山下氏)からのコメントが放送されることを事前予告しました。この翌日の7月6日、全ての取材を断った松尾氏は、ツィートに至る経緯とその後のこと、自分の思いなどを前述のコラムに掲載しました。このコラムで経緯が明らかになると更に注目が集まり、日刊ゲンダイ掲載のコラムを朝日新聞デジタルが取り上げるまでになります。ファンも音楽関係者も芸能マスコミも、7月9日の放送で山下氏はなにを話すのだろう?と固唾をのんで待ち構えることになったのです。7分間の驚きのスピーチ7月9日午後2時、「山下達郎サンデー・ソングブック」は「番組の中程でご報告としてスピーチをお届けしたい」と山下氏が冒頭で宣言してスタートしました。そして番組のちょうど中程、2時30分から約7分に亘る「スピーチ」は始まりました。リスナーが期待したのは、松尾氏との契約解除に山下夫妻は同意をしたのか、同意したのなら何故か(ジャニーズ事務所への忖度があったのか)というもやもやに対する回答です。山下氏はスピーチの冒頭部分で「松尾氏との契約終了については事務所の社長の判断に委ねる形で行われました」としたうえで「ネットや週刊誌の最大の関心事は私がジャニーズ事務所への忖度があって、今回の1件もそれに基づいて関与しているのでは、という根拠のない憶測です」と続きます。ここまでだと、松井氏の契約解除について山下氏は事務所判断でそこに異論を挟む立場に無く、「根拠のない憶測」というのですから、山下氏がジャニーズ事務所への忖度で契約を終了するよう促したわけではない、と受け止められます。ところが、驚きの言葉が続きました。「今の世の中は、なまじ黙っていると『言ったもの勝ち』で、どんどんどんどんウソの情報が拡散しますので、こちらからも思うところを正直に率直にお話ししておく必要性を感じた次第であります」と。話は松尾氏とスマイルカンパニーとの契約終了の経緯とは違う方向へ向かっていきます。そして、最後の最後、「この様な私の姿勢をですね『忖度』あるいは『長いものに巻かれている』と、その様に解釈されるのであれば、それでもかまいません。きっとそういう方々には、私の音楽は不要でしょう」。と締めくくりました。この締めがリスナーの怒り、あるいは失望を買いSNSには様々なコメントが溢れました。スピーチの原稿の事務所チェックは?ラジオであっても、あっという間に書き起こしのテキストとなってネットで共有される時代。さっそく、多くの書き起こし文章がネットにアップされました。ORICON MUSICはもちろん、NEWSサイトであるTBS NEWS DIG でも「【発言全文】山下達郎さん 「私が社長に対して契約を終了するよう促したわけでもありません」 松尾潔さんとスマイルカンパニーとの契約終了について ラジオで激白 「私の姿勢を『忖度』あるいは『長いものに巻かれている』と、その…」とのタイトルでアップしたほどです。私は山下氏の番組中のスピーチ部分をradikoで何度も聞き直しましたが、(当然ですが)事前に原稿を用意してそれを見ながら話しているように感じました。しかし、最後の締めの部分。ここだけはそれまでとは声のトーンが違っていました。きっと、読んでいるうちに感情が高まって思わず原稿に無い本音を発してしまったのではないでしょうか。スピーチ原稿も事前に用意して収録に臨んでいるでしょうし、コラムにも名前が挙がった竹内まりや氏も目を通しているのではないでしょうか。もちろん、公式サイトで予告したくらいですからスマイルカンパニーでも「スピーチ原稿」は事前にチェックしているはずです。リスクのスクリーニングと対応の結果であれば5月15日から7月6日の間に、スマイルカンパニーと山下夫妻の前にはファン、音楽関係者、ジャニーズ事務所、マスコミ、CMスポンサーなどなど、多くのステークホルダーとの間に大小様々なリスクが顕在化したはずです。その中からどのリスクを排除して、どのリスクを受け入れるかという判断をしたのであれば、山下氏のスピーチを聞く限りではジャニーズ事務所との関係が切れるのが最大のリスクと判断したと受け止めざるを得ません。スピーチでも「作品に罪はありません」と言っているように、山下氏からファンが離れようと楽曲はこれからも支持されるという自信の表れかもしれません。私の認識では、「山下達郎サンデー・ソングブック」は生放送ではなく事前収録。スマイルカンパニーの関係者も収録に立ち会い、「これはまずい」と判断していれば本放送までに取り直しすることもできたでしょう。しかし、物議を醸すことも想定された上で放送に至ったとみるべきです。それは企業のリスクへの向き合い方として受け入れざるを得ません。もし私のこの仮説が深読みしすぎで、炎上が想定外のことだったとしたら……そもそも、放送されたスピーチがほぼ原稿に沿ったものであれば、事前に用意した「スピーチ原稿」が不適切と言わざるを得ません。スマイルカンパニーにはリスク管理について、適切に助言できる外部アドバイザーを探すことを強くオススメします。 ※2004年10月より株式会社福岡サンパレスが運営。筆者は2004年9月~2006年7月代表取締役社長。中野サンプラザは同年12月から株式会社中野サンプラザが運営主体に。