2023年7月1日から改正道路交通法の一部が施行され、電動キックボードは新たに設けられた特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)という規格に位置づけられました。6月までは、電動キックボードは車両として区分され、定格出力が600W以下は原動機付き自転車、それよりも大きな定格出力の電動キックボードは普通自動二輪車として扱われていました。当然運転免許も必要ですしヘルメットの着用義務もありました。7月から特定小型原付は自転車と原付の間に位置づけられ、最高時速20km(歩道は時速6km)でヘルメットの着用は努力義務、16歳以上であれば運転免許なしでも運転可能となったのです。タクシーに代わる手頃な移動手段として電動キックボードのレンタルサービスやシェアリングサービスも増えて、東京などの都市部では走っているのを見かけることも多くなりました。交通規則やマナーを守り、適切な利用をすれば大変便利な乗り物かもしれません。コロナ後、タクシーが拾えなくなったという話を聞くようになった一方で、歩くにはちょっと遠い1~2km程度の移動や駅から先の移動に電動キックボードのシェアリングサービスを利用するという話も聞くようになりました。規制緩和されて着用は努力義務になったので、ヘルメットを持ち歩く必要がなくなったことも大きいでしょう。手軽に乗れる電動キックボードのシェアリングサービスは、MaaS(Mobility as a Service)の有力な移動手段として欧米で広がっています。一方で約250万人が利用しているフランスでは、2021年から2022年には電動パーソナルモビリティーによる重大な事故が38%増加。そのため今年4月に電動キックボードの規制強化を発表しました。さらにパリでは電動キックボードのシェアリングサービス継続の是非を問う市民投票を実施。投票率は低かったものの89.03%が「反対」という結果を受けて、パリ市は9月1日からの廃止に向けて検討中とみられています。従業員が電動キックボードを利用する事を想定するとこれからは手軽な移動手段として、プライベートだけでなく業務中の移動でも電動キックボードの利用は考えられます。7月20日に電動キックボードが歩道を走行中に5歳男児に接触事故を起こしたと報じられましたが、今後利用者が増えれば残念ながら事故も増えていきます。規制緩和を前に、JAF(日本自動車連盟)では電動キックボード運転中の事故を想定したテストを実施し、公開しました。電動キックボードの事故は被害が大きい! 乗るなら必ずヘルメット着用を(JAF Mate Online)昨年9月には、レンタル電動キックボードで単独転倒事故を起こし、頭を強く打って利用者の男性が亡くなりました。ヘルメットを着用しないで転倒したり衝突したりすれば、最悪の場合は死に至る可能性があるだけでなく、歩行者に衝突すれば大けがを負わせる恐れもあります。交通ルールやマナーを守るのはもちろん、利用する電動キックボードについては整備状況や保険加入などについての確認も必要です。事務所と工場間や広い工場の中での移動に使ったり、近隣への配達やサービス提供のために会社で電動キックボードを所有して利用するような場合も同様です。社有車同様、自賠責・任意保険加入はもちろん、運行日誌や整備記録なども残しておく必要があります。シェアサービスを利用する際には、サービス提供会社のサイトなどで自賠責保険の加入状況は最低でも確認しなければなりません。無保険で事故を起こすと、高額の賠償金を自己負担しなければならなくなります。もしも業務中の利用で事故を起こしたら、会社にも賠償責任が問われる可能性もあります。また、自社を起点に電動キックボードを利用するのであれば、運用ルールとしてヘルメット着用を義務づける事が望ましいでしょう。車の運転でも注意が必要電動キックボードは最高速度20kmで車道を走行します。今でも自転車や速度が遅い原付が前方を走っているときには、追い越す際にも接触しないように車線を変えたり大きく進路を膨らませたりしているでしょう。片側1車線や道幅が狭い道路では、逆走する自転車は多く存在します。今後は電動キックボードも加わります。X(Twitter)には、幹線道路をノーヘルの若い女性が電動キックボードで逆走する写真が投稿され、1日で589万回表示され、1万回のリツイート、2,055件の引用リツイート、4.5万件の“いいね”がつき、多くのコメントで炎上。翌日には画像がニュースでも紹介されていました。車道をそれなりの速度で走る車両でありながら、運転している人は必ずしも運転免許を持っているわけではなく、交通ルールやマナーを理解しているとは限りません。一時停止をせず脇道から飛び出したり、歩道からいきなり車道に出てきたりという場面が容易に想像できます。運転姿勢も、ボードの上に立っているだけですから不安定です。路面の凹凸でふらついても、自転車のように両足を使ってバランスをとったり足を着いて踏ん張ることも難しく、いきなり目の前で転倒することがあるかもしれません。しかも、多くはヘルメットを着用していないでしょう。そのつもりは無くても事故は起きてしまい、大けがを負わせてしまうことになります。車を運転しているときに電動キックボードが視界に入ったら、近づかずに距離を取った方が良さそうです。 これから身近になる電動キックボードをテーマに、職場で利用のメリットやリスクについて話し合いの場を設け、情報を共有してみてはいかがでしょうか?