日本大学は12月15日に理事会を開催し、アメリカンフットボール部廃部を決定したと報じられました。同部をめぐっては、一連の薬物事件以外にも8月下旬、部員へのパワハラ行為があったとしてコーチが解任され、9月中旬には20歳未満の複数の部員の飲酒も発覚していました。日大フェニックスの愛称で数々のタイトルを獲得してきた名門アメフト部も、とうとう消滅することになりそうです。アメフト部の問題から経営問題に7月に発覚した日大アメフト部の薬物事件はなかなか収束しません。11月27日には3年生の男子部員が密売人から大麻とみられる違法薬物を購入したなどとして、麻薬特例法違反の疑いで新たに逮捕され、これでアメフト部の逮捕者は3人となりました。また、薬物事件の対応を巡り臨時理事会が開催され、澤田副学長と酒井学長に辞任を勧告、林理事長を減給処分とすることとなりました。酒井学長と澤田副学長は27日、大学側にそれぞれ辞任する意向を伝えたということです。一方、澤田副学長は辞任を強要されたのはパワハラにあたるなどとして同日、林理事長に対して1,000万円の損害賠償を求めて提訴しました。学生の薬物事件は再び日大経営陣の確執やガバナンス問題をさらけ出すこととなりました。相次ぐ大学生の薬物検挙日大に限らず、今年は大麻取締法違反の疑いで、大学生の逮捕が相次いでいます。7月から8月にかけて、日大アメフト部員以外にも東京農大ボクシング部員2人、朝日大ラグビー部員3人が、いずれも大麻取締法違反の疑いで逮捕されました。11月に入ると、早稲田大学相撲部所属の3年男子学生が大麻取締法違反(譲り受け未遂)容疑で逮捕され、11月20日に福岡大学の元陸上部員の男子学生が大麻所持容疑で逮捕。さらに一緒に大麻を購入していたとして同級生も28日に逮捕されています。奇しくも11月28日、福岡県の大学生を対象に福岡県薬物乱用対策推進本部が主催する薬物乱用防止講演会が福岡大学で開催されました。大麻等薬物乱用問題に関する正しい知識についての普及啓発を図ることを目的とし、講師は「夜回り先生」こと水谷修氏でした。若年層、特に学生や運動部員への薬物の広がりを懸念し、福岡県はじめ各自治体や大学単位だけでなく、スポーツ団体・協会などでも対策や啓発に力を入れています。例えば日本ラグビー協会は新たに「大学コンプライアンス対策チーム」を設置しました。朝日大学ラグビー部の事件発生後には、全国256大学に所属する約1万人のラグビー部員を対象としたアンケートを実施しています。対策チームはアンケートの結果などを受け、来年2月ごろに危機管理に関するメッセージを全大学に通達する予定といいます。リーグワン参加チームには、危機管理を取り扱う担当職員の配置も義務づけています。注意すべき違法薬物は大麻だけではない大麻には「THC(テトラヒドロカンナビノール)」が葉や花に含まれ、摂取すると幻覚症状などを引き起こします。THCは「麻薬」として規定され、販売や所持、栽培などが大麻取締法や麻薬取締法などで罰則付きで禁止されています。このTHCに似た成分を含んだ「大麻グミ」は違法ではないとされ売買されていましたが、THCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)は8月4日から、HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)は12月2日から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)の「指定薬物」として新たに指定され、所持、使用、流通が禁止されました。11月にHHCHを政府が指定薬物への指定検討を始めたと報道されると、駆け込みでの購入、買いだめが起きていました。後先を考えずに学生が買いだめをしている可能性もあります。使用したり所持しているのを通報されたら、規制前に買ったという言い訳は通用しません。大学などの教育機関は学生に大麻や覚醒剤などだけでなく、このような指定薬物についても正しい知識と意識付けを啓発する義務があります。学生と社会人で違う報道のされ方ここまで、このコラム内では「○○大の学生」や「●●大◎◎部の学生」という書き方をしてきましたし、報道の際にも見出しでは容疑者個人名よりも籍を置く大学や所属するクラブを頭に付けて「の学生」とされることがほとんどです。氏名は一緒に公表されますが、多くの人の認知と記憶は大学名やクラブです。一方社会人の場合は「会社員」や「医師」「建設業」など職業が枕に付く程度で、自治体職員や警察官などの公務員以外は所属組織まで公表されることはほとんどありません。世間では、社会に出る前の学生は大学や教育機関が身元を預かり、成人していてもまだ修行中の身で半人前であるという位置づけだからです。それだけに、学生が引き起こす事件や事故、トラブルには常に監督責任者である(と世間が考える)大学・教育機関の名前がついてまわります。18歳成人になり、学生は全員大人だからという言い逃れはできません。学生の数が増えれば増えるだけ、学校の抱えるリスクは大きくなると言っても過言ではありませんし、備えも必要になります。危機管理広報の参考に話を日大に戻します。日大は文科省からの要請を受け、法人(日大グループ)から独立した第三者委員会を立ち上げ、アメフト部の薬物事件に関しての調査を行っていました。その調査報告書が10月30日に公表されています。10月31日には日本大学の公式サイトにも「アメリカンフットボール部薬物事件対応に係る第三者委員会」からの調査報告書の公表について」としてpdfがアップされました。この報告書には事実の整理と共に、何が間違っていたか、ポイントポイントでどういう対応をすべきだったかなどが整理されています。全文(93p)と要約版(24p)がありますが、要約版だけでも目を通すことをオススメします。特に、要約版の「1 基本的姿勢の不適切さ」の「(3)一連の報道対応」は危機管理広報はどうあるべきかについてが細かく言及されているので、危機管理広報に携わる人には必読です。8月2日、林理事長の失言とも言える「違法な薬物が見つかったとか、そういうことは一切ございません」発言に至る背景も、ニュースでは触れられることが無かったその前に出されたニュースリリースの存在と問題点なども記してあります。また、危機管理規定や危機管理・対応マニュアルなどが整備されていたにもかかわらず、それらは無視され運用されていなかったことも指摘されています。調査報告書を通して、組織全体での危機管理に対する認識の甘さを批判しています。規定やマニュアルは制定することよりも、それを適正に運用する事の方が重要なのだと改めて気付かされる報告書です。