令和のコンプラをdisるドラマが話題に令和6年1月クールのテレビドラマでダントツの話題となっているのが、「不適切にもほどがある!」。宮藤官九郎氏の脚本で、阿部サダヲさん演じる中学校の鬼の体育教師小川市郎が1986年(昭和61年)から令和の現代にタイムスリップ。コンプライアンス重視の現代を皮肉りつつ、(劇中吉田羊さん演じる向坂サカエが言うところの)粗暴で差別的な昭和の不適切発言や行為、今では死語となった懐かしい言葉が満載のドラマです。ドラマの冒頭「この作品には不適切な台詞が含まれていますが~中略~1986年当時の表現をあえて使用して放送します」とのことわりが表示されるだけでなく、劇中にもたびたび画面下にことわりのテロップが挿入されます。視聴率も2月23日放送の第5話は世帯視聴率8.3%、個人視聴率5.0%と好調です。株式会社しんげんが運営する「SHUFUFU」で実施した「今期面白いTVドラマ」に関するアンケート調査でも、最も面白いと思うドラマ第一位となっています。昭和世代だけでなく管理職もテレビマンも「不適切にもほどがある!」は、茶の間(昭和的ですね)の話題となっているのはもちろんですが、ビジネスマン管理職やテレビ業界でも話題となっているようです。メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏がBusiness Journalに“『不適切にもほどがある!』10代~50代・管理職にまで視聴されている理由“と題する興味深い記事を寄稿しています。SwitchMEDIA TVALのデータから、性別、年齢に加えて管理職の視聴データを抜き出して視聴状況を分析しているのですが、昭和世代はもちろん、40代~50代の管理職によく見られているというのです。管理職がこれはけしからん、あるいは悪い見本の例として勉強しているのかそれとも溜飲を下げているのかは、このデータからはわかりませんが。また、業界裏話に定評?がある週刊実話WEBでも”TBS『不適切にもほどがある!』は昭和愛が詰まった異色作!テレビ界のコンプラを逆手に取った業界視聴率No.1ドラマ“と記事にしています。この「業界視聴率No.1」というのはもちろんテレビ業界。ドラマの令和での舞台がテレビ局中心に進むので、テレビ業界で働く人たちにとっては身近であり関心も高くなるのは当然でしょう。テレビ誌デスクの話として毎週月曜日、TBSを除く民放キー局の編成会議では前週に放送されていた『不適切にも~』の話題から話が始まるんです。やれ、あのシーンが良かった、誰彼がどうした、こうしたなど。そして、最後はドラマのテーマでもあるコンプライアンスに対する問題を再認識し、皆が黙ってしまうんです。テレビ局もコンプラは厳しいですからね」とのコメントも紹介されています。そもそも、放送時間が間違っている(同ドラマの放送は金曜21時からと記載されていますが、22時から)というところから怪しいですが、それくらいメディアの界隈では話題になっているということでしょう。 ENEOSトップは昭和のおじさんばかりなのか?昭和を再現するドラマが話題を集めている最中、またまた昭和的な行為で話題をさらったのがENEOSです。2月21日、ENEOSのグループ会社「ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)」が会長をセクハラ行為で解任したと発表しました。ENEOSグループといえば、2022年にホールディングス(HD)の会長が女性への性暴力で辞任、23年に社長が女性に不適切行為をしたとして解任されています。なんとも不名誉な3年連続オウンゴールです。昭和のテレビや映画に登場していた「エロ社長」を令和の今、地で行ってしまいました。昭和のおじさん小川市郎(阿部サダヲ)が窮屈さを口にする令和のコンプライアンスに抵抗したのか、あるいは無視したのか、いずれにしても昭和のおじさんは退場を迫られました。ENEOSがセクハラで逃がした魚しかし、この一連のセクハラ行為の影響はTOPの交代に留まりませんでした。今年に入ってビジネス界で大きな話題となっている事の一つが、KDDIがコンビニエンスストアのローソンをTOB(株式公開買い付け)すると発表したことです。成立すれば三菱商事とKDDIが半分ずつの株式を持ち合い共同経営体制に移行する計画です。この計画には当初石油元売り最大手のENEOSホールディングスも参画する計画だったといいます。ところが、23年の社長解任劇があったため資本参画を辞退したというのです。KDDIの2月6日付リリース「株式会社ローソン(証券コード:2651)に対する公開買付けの開始予定及び 資本業務提携契約の締結に関するお知らせ」の“①本公開買付けの実施を決定するに至った背景、目的及び意思決定の過程”に、「当初において参加を検討していた第三者」として登場し、「当初パートナー候補者は、2023年12月25日付で、対象者に対して本取引(当初案)に関する提案辞退の申し入れを正式に提出」と記されています。後に日経新聞などがENEOSホールディングスであったと報じています。この参画辞退のダメージについて、DIAMOND onlineで桃山学院大学経営学部教授の小嶌正稔氏が”ENEOSが逃がした魚はあまりに大きい!ローソンTOBへの参画が幻に終わったワケ“という記事を寄稿しています。当初どのような絵を描いていたのかは記事を読んでいただくとして、結果としてTOPのセクハラ行為が企業の将来を潰すきっかけになったということは紛れもない事実です。そこに「ジジイの壁」がないか?このコラムの構成を考えているときに日経ビジネスの“河合薫 なぜ日本の「ジジイの壁」はこれほど強固なのか”という記事に目がとまりました。ここで言う「ジジイ」とは、性別や年齢に関係なく、組織の中で権力を持ち、その権力を組織のためでなく自分の保身のために使う人たちのことを指します。企業で不祥事を起こすのは、多くの場合この「ジジイ」達だと。上記、小嶌氏の考えもENEOSが参画を辞退した理由は社長の解任だけではないと最後に指摘しています。派閥争いが背景にあり、それぞれの「ジジイの壁」を崩すことができなかったからではないかと。昭和を懐かしみ、笑い飛ばすのは大いに結構なことですが、再び「ジジイの壁」がより高く強固になってしまうようでは困ります。ENEOSの例を見るまでもなく、未来を想像できなくなるという、企業にとっては大きなリスクを抱えることになります。あなたの会社に「ジジイの壁」はそびえ立ってないですか?