閏年の今年、2月29日に突然ネットで「頭ポンポン」がトレンド入りしました。かつて「頭ポンポン」は恋人間のコミュニケーションの定番として若い女性の間ではAPPという略称までありました。そのAPPがセクハラと認定されたのです。そもそも「頭ポンポン」がセクハラに該当するのか?という議論も熱を帯びネットを賑わせたのです。「頭ポンポン」がセクハラと認定され、町長は辞意「頭ポンポン」が突然注目されたのは、岐阜県羽島郡岐南町の町長によるハラスメント問題の調査報告書の公表とそれを受けての町長の会見報道からでした。岐南町の町長によるハラスメント問題を週刊文春電子版が報じたのは昨年の5月18日に遡ります。文春の報道を受け、同月30日に副町長を本部長とする危機管理対策本部は「岐南町ハラスメント事案に関する第三者調査委員会」を設置し、調査をスタートしました。そして今年2月27日、調査委員会の報告書が公表され、そこには「頭をポンポンする」など99のハラスメント行為の認定事実が一覧として示され、テレビの報道番組をはじめネットメディアや新聞などでも改めて99のハラスメントなど町長の不適切な行為を取り上げて紹介したのです。28日に会見を開いた町長は「今回の調査委員会の報告書は、中立性を欠いていたと思います」とし、5月までは町長を続ける意向を示していました。しかし、会見の3時間後には「心が折れた」と辞意を表明することになります。調査報告書の「3 関係者の処分に関する助言」のイ-(イ)町長の「処分」について(結論)では「町長の職を即時に辞して頂く以外の選択肢はない、という結論に達した」と締めくくられていました。週刊文春にリークされるまでそもそも、週刊文春にリークする前に町長のこのようなハラスメント行為を止めることはできなかったのでしょうか?調査報告書によれば岐南町にも「岐南町ハラスメントの防止等に関する規程」が制定され、ハラスメントの相談窓口も設置されていました。実際に町長のハラスメントに関する相談も寄せられ、誰からの相談ということは伏せて町長に改善を求めても、犯人探しを始める始末。そこで、町長参加を必須とする外部弁護士によるハラスメント研修を実施したものの効果は一時的なものにとどまり改善は見られませんでした。町長に注意を促せば恫喝され、個人あるいは組織としても、町長に対して適切に注意をできる者がいないという状況が常態化する中で、各職員が個別対応、自衛をしなければならない状況が続きました。町長の度重なるハラスメント行為に耐えられないことを理由として秘書が退職し、退職という途を選択せざるを得ないほどの状況を重く受け止めたその他の被害者らが、最後の手段として、『週刊文春』に情報提供をするにいたりました。調査報告書が指摘する、ハラスメント要因日大アメフト部やジャニーズ問題でも第三者委員会による調査が行われ、報告書が公表されていますが、その度にリスクマネジメントに関する多くの学びがあります。今回の岐南町ハラスメント事案に関する調査報告書には、なぜ町長のハラスメントを職員の8割もの人が知っていながら止めることができなかったのか、指摘できなかったのかについても「町側の対応」として整理されています。組織TOPのハラスメントを止めたくても止められなかった苦悩の行動や理由が詳細に記されています。重大な結果を招いた原因・背景として報告書では、町長が「性別による役割の違い」という「強固な固定観念」を有していたことなどが指摘されています。また、ハラスメント規程に不備があり、町長自身がハラスメントを行った場合についての定めがなく、ハラスメント防止委員会の設置者が町長と規定されているために、設置に向けて動くことは事実上困難であったとしています。職員の任免権・人事権という圧倒的な権限を背景に、町長は好きなように振る舞っていたようです。報告書で指摘された町長の性格・特徴は以下の通りです。トップであるという自己顕示欲が強い 自身への挨拶・礼儀を殊更に重視する 身だしなみを重視する 人事を掌握することを好む 気に入らないことがあると、瞬間的にかっとなり、高圧的威圧的態度をとる 自分がこうだと思ったら、部下からの説明・意見は受け入れない 相手の気持ちに対する配慮に欠ける行動をすることが多い 休日を取ることに否定的な態度をとる 自分の気に入る職員と気に入らない職員とで、対応をあからさまに変える 男女で対応を変える プライベートへの介入を好む 障害者に対する理解が充分でない発言がある 犯人捜しをする独善的なTOPの典型的な思考・行動様式であり、このような人は決して珍しくありません。独善的な国家元首や首長、経営者の暴走を止めるヒントに今回に限らず、第三者委員会による調査対象の多くは独善的な地位にある者の行為についてや、問題の背景にそのような人(あるいは空気)が存在する場合がほとんどです。そのような問題がある人がトップにいる組織は珍しくありません。危機管理に努めるべき職責にあるトップとして、時代遅れの感覚のまま危機管理意識を欠いてその任に留まることを許せば組織は大きなリスクを抱えることになります。トップが世襲で継がれるオーナー企業では対策は難しいかもしれませんが、選挙や株主総会、理事会などを経て代表が替わる組織では、予めTOPの暴走を監視・ブレーキを掛けることができる仕組みを作っておくことが重要です。調査報告書でも指摘しているとおり、倫理観・正義観・常識の捉え方は社会動向等により常に移り変わるものであり、ハラスメントについては、人権意識の高まりから強い関心が持たれるようになり、許されない行為として、行為者に厳しい目が向けられるようになっています。もし「頭ポンポン」がセクハラに相当しないと思ったのなら、御社のハラスメント防止規定を見直す必要があるかもしれません。ハラスメント防止に関する規定が制定されていないのであれば早急に整備し、組織内で共有してください。ハラスメントが常態化していて我慢できなくなった従業員が、週刊文春に情報提供するかもしれませんよ。