4月17日、ドラッグストア国内最大手のウエルシアホールディングスは、松本忠久社長が同日付で辞任したと発表しました。リリースには松本氏に不貞行為があった事を理由に社長と取締役の役職の辞任を勧告し、本人から辞任届が出されたとされています。後任は「決定し次第公表する」としています。久しぶりに「新潮砲」が炸裂したもののこの突然の辞任劇の引き金となったのは、実は新潮砲によるものでした。同日のDAILY新潮の記事によれば、「週刊新潮」が不倫の証拠をつかみ、松本氏やウエルシアに取材した結果の辞任だったとあります。DAILY新潮の記事ページの最後には翌18日発売の週刊新潮(4月25日号)の電車の中吊り風のバナーが掲載され、そこに1兆円企業が「ツルハ」と統合で注目の折も折日本最大のドラッグストア「ウエルシア」社長が取引先中国人女性と「危険な情事」との見出しが踊っています。この記事が出る前に後任も決まらないまま、慌てて辞任発表となったのでしょう。恐らく、リリースを配信(サイト掲載)したのは17日9時過ぎ。それを通信社が記事配信し、10時半過ぎに全国の提携先新聞社のネットNEWSに一斉に掲載されています。ところが、このニュースが注目されたのは午前中まで。この日は朝から円安の進行や衆院補欠選挙、自民党の裏金問題や水原元通訳の違法賭博がらみの報道から大黄金展で盗まれた金の茶碗が見つかったなど、話題に事欠きません。午前中の報道番組やワイドショーは前日から仕込んだネタで組み立てますから、当日のニュースはよほどの大事件や注目されるものでなければ、その時間の最新ニュースとして短く伝えられるだけです。話題になるとしたら午後の報道番組からでしょうが、那須町山中で2人の焼損死体が見つかったことで(珍しくもなくなった)不倫の話題など飛んでしまい、(ウエルシアには幸いなことに)ネットでもほとんど注目されないままでした。そして夜11時14分、四国で初めて震度6弱を記録する地震が発生し、それ以降のテレビはほぼ地震に関する報道番組に変わってしまいそのまま朝を迎えました。「本当は報せたくない」事の発表タイミングBAD NEWSは発表のタイミングが難しく気を遣います。人の命や健康、第三者の財産や生活に影響が及ぶような事案であれば、即座に公表・対応の告知が必要です。大きな問題となっている小林製薬の紅麹サプリによる健康被害については、公表は最初の症例報告から2か月後だったということが明らかになり批判されています。商品の問題に加え、なぜあんなに公表を遅らせたのかとコーポレートガバナンスのあり方も問題になっています。一方、不倫はハラスメントとは違い、発覚して(不倫相手が取引先の女性ということで)社内で問題になったとしても基本はプライベートな問題です。新潮砲がなければ、調査を経て問題ありとなっても、次の株主総会で退くという形をとったかもしれません。緊急性がなくある程度発表のタイミングを選べるのであれば、悪い報せはできるだけ目立たないように発表し、できれば世間にスルーしてもらいたいというのが企業の本音です。そこで、できるだけ目立たないタイミングでの発表を考えます。例えば他の話題に隠れて発表するどさくさに紛れて発表するメディアや世間が対応しづらい時に発表するなどがあります。1. だと、例えばより大きな話題に世間の注目が集まっている時などです。昨年のWBC期間中は日本中が試合に釘付けとなり、連日WBCの話題で盛り上がりました。オリンピック期間中やサッカーワールドカップの日本代表戦の日などは世間の注目・話題はほぼそこに集中します。大きな災害や事故が起こったときにも同様です。ウエルシアは意図せずここに当たりました。2. は、同じような不祥事が続いて騒がれ、話題に新味がなくなってきた頃。2013年には大手ホテルで提供されていた料理メニューで、表示の材料と実際に使用されていた食材が違っていたという不祥事が相次いで発覚しました。阪急阪神ホテルズの社長が辞任を発表した翌日からは、同様の不適切表示をしていた全国数十のホテルが雪崩を打って公表を始めました。特定の業界で慣習的に行われていたことが問題となるたびに同じような事が繰り返されています。3. はGWやお盆、年末年始のメディアが休みや特別編成になる時期などがそれに当たります。年末年始には報道番組はほとんどなくなり、紙のメディアもお休みです。おめでたい話も含め、芸能人やスポーツ選手のプライベートな発表が大晦日・元日に多いのはそのためです。開きたくない会見でも低姿勢であるべきメディアが対応しづらい時間帯をあえて指定した会見もありました。少し遡りますが、2018年の日大アメフト部悪質タックルが問題となった際に、当該部員が謝罪会見をした翌日、日大が内田前監督と井上コーチ(当時)の緊急記者会見を開きました。マスコミに会見のお知らせFAXが届いたのは当日の午後7時過ぎ、受け付けは7時半から、開始は8時からというものです。しかも、そのFAXには会場(日本大学会館)が明記されていなかったという報道もありました。通常、午後8時からの会見というのは余程の緊急性がないと設定しません。大きな自然災害に関して政府からの緊急の報せや気象庁の会見、大事故・事件に伴う会見、それ以外では企業不祥事に関してTOPの緊急会見くらいです。この日大の会見は謝罪ではなく弁明会見でした。記者からは質問が相次ぎ、司会者(日大広報部)との激しいやりとりが始まります。記者から「この会見は、みんな見てますよ」という声に対して、司会者は「見てても見てなくてもいいんですけど」と答える始末。記者会見に来させない、報道させない、マスコミをコントロールしようという意思が伝わってきました。その後、現在まで連続する日大の不祥事の根っこが見えるような会見でした。「知らせたい」は逆を通常の広報業務だと、新商品や新サービスの発表など、広く知ってほしいとリリースを配信したり記者発表をしたりしますが、基本的には上記1~3の逆を心がければいいということになります。ここはriskdesignのコラムですので、「知らせたい」事の発表タイミングについては、改めて別の機会に。