経営コンサルタントを名乗る詐欺師新しい巧妙な劇場型ストーリーが編み出され、一向に減らない特殊詐欺被害。警察庁によると、2023年の特殊詐欺発生状況は、認知件数19,033件、被害総額441億2,370万円にのぼります。同様に、企業や経営者をターゲットにした詐欺も様々な形で広がっています。ビジネスメール詐欺やランサムウェアによる被害は広く知られていますが、地面師や経営コンサルタントを名乗って大金をだまし取る詐欺の被害報道も少なくありません。5月29日にも経営コンサルタントを名乗る男が女性経営者に嘘の投資話を持ちかけ、現金1億円以上をだまし取ったとして逮捕されました。容疑者はオンラインセミナーなどを開催し、受講者を信用させコンサルタント契約などを結び、更に投資話などで大金を騙し取っていたようです。ちょうど、この4月にテレビ東京とWOWOW共同制作でスタートした「ダブルチート 偽りの警官」を興味深く見ています。チート(cheat)はイカサマや詐欺のことで、このドラマは詐欺師を騙す詐欺師(しかも警官)の物語です。毎回様々な詐欺手口が取り上げられていて、こんな詐欺もあるのか、こうして騙されるのかと勉強にもなります。その第一回放送は、コロナ禍で業績が落ち込み資金繰りに苦しむ経営者を融資詐欺に加担させ、多額の手数料を詐取する経営コンサルタントを騙し返すというストーリーでした。コロナ禍の終息で変化する世界このドラマの融資詐欺は、当コラムでも「補助金や助成金の申請を外部に依存することで忍び寄るリスク」として警鐘を鳴らした(補助金と融資という違いはありますが)、採択(融資)が決定した段階で成功報酬を受け取りあとはほったらかして逃げるというパターンです。ここでも触れましたが、コロナ禍の事業復活支援金の不正受給については今も摘発が続いている一方で、ドラマのようにコロナ禍の影響で事業不振から抜け出せない、借り入れの返済に苦しんでいる企業も多くあります。一方で、コロナ禍をビジネスチャンスとして急成長した業界や企業もありました。ネット通販やフードデリバリー、業務のリモート化を支援する業種や消毒・衛生用品製造販売業などの他にも、政府が特別予算を組んで短期間に膨大な処理を求めた新型コロナウィルス感染症PCR検査の業務受託や事業再構築補助金申請代行業務などです。コロナ禍が終息し、新型コロナ感染症が5類に移行した後も新しい生活様式として定着したものもあれば、一過性のものとして徐々にその役目を終えて市場から消えていくものもあります。後者は業態転換や事業縮小などに迫られています。コロナ補助金関連で売り上げが16倍に5月24日、帝国データバンクは経営コンサルタント会社である北浜グローバル経営株式会社の自己破産を報じました。記事によると、同社は中小企業向けの補助金・助成金の申請支援を主力に、ものづくり補助金やキャリアアップ助成金といった中小企業支援施策を活用するための計画策定を行い、人材育成支援、研修の企画・運営などの経営支援サービスを関西圏中心に手がける大手コンサルでした。そのため、同社の破綻は各方面に波紋を広げています。今回の破綻は、まさにコロナ禍バブル破綻の典型例といえます。2020年3月期の売上げは約2億2000万円だったのに、コロナ禍以降は事業再構築補助金の計画策定支援事業が伸び、2023年3月期には売り上げ約35億8500万円にまで拡大していました。業務提携する金融機関や保険会社などからの紹介により、クライアントと契約するケースが多いとありますから、直接の支援だけでなく金融機関や保険会社からの業務委託で計画策定しているケースも多かったのでしょう。たった3年で売り上げが16倍以上になっています。この間の急激な事業拡大に伴い本店事務所を大阪のビジネス中心地へ移転し、スタッフを増員しました。2023年時点で負債総額も約20億5300万円に達しています。しかし、2023年度から補助金審査の厳格化が進み、案件の進行遅れが続出。記事によると人件費と家賃負担が先行することとなり、資金繰りが急速に悪化し、経費削減策などによる立て直しを図っていたものの状況は好転せず、今回の措置となったとしています。中小企業庁の認定経営革新等支援機関検索システムに登録されている情報で事業再構築補助金支援実績を見ると、第8回(公募締切2023年1月13日)までは申請件数は順調に伸び、採択率も5割以上をキープしていました。しかし第9回(公募締切3月24日)の採択率は36%に落ち、第10回(同6月30日)は15.3%、第11回(同10月6日)は23.9%と急に採択率が落ちました。第8回の採択発表が4月6日ですから、2023年度に入ってから審査の厳格化が進んだのでしょう。現在は第12回(同2023年7月26日)の受付中です。パンデミックの終息と共にバブルも終焉業績が急拡大しているときには、この勢いが何時までも続くと思い込んだり、あるいは先行きの冷静な分析ができなくなったりするものです。北浜グローバル経営の売り上げ急拡大の背景にあるのは新型コロナウイルス感染症によるパンデミックです。20世紀以降の同様の感染症によるパンデミックをみると、だいたい2~3年で終息しています。新型コロナ感染症も、欧米では2022年半ばにはほぼ平常に戻りつつあり、入国に際してもワクチン接種していればPCR検査の陰性証明はほぼ必要なくなりました。同じ頃日本と中国など一部の国だけが過剰に警戒し続けていましたが、それでも5類移行への議論も始まっていました。過去の歴史や周辺諸外国の状況を見れば、2022年後半にはそろそろこのバブルは終わる頃だと予想できたはずです。事業の縮小や受託条件の変更申し入れなどを始めるべきでした。そもそも、業績の急拡大に対応するためにスタッフを増員するのは良いとしても、パンデミックという期間限定のニーズのために一等地に本店を移転する必要はあったのでしょうか?今回の経営破綻は、予想できたはずの未来を想像できなかったのか、予想できたのに現状維持バイアスから逃れられなかったのか、単なる経営判断の遅れによるものなのかはわかりません。しかし、少なくとも異常な状況下での事業拡大は、様々なリスクを想定しながら進めなければならないことは間違いありません。どこかのタイミングでその異常な状態が治まれば、それと共に拡大していた事業もピークアウトすると想像できます。経営者はその後のことも想定して事前に準備をしなければならないのです。北浜グローバル経営の破綻は、支援を依頼していた多くの企業や金融機関にとっても応募申請が宙に浮いてしまい困惑していることでしょう。他のコンサル企業にとっては良い草刈場になっているのかもしれません。支援を依頼していた企業は、慌てて怪しいコンサルに掴まらないように注意が必要です。