相次ぐデータ改ざん発覚で日本製品の信頼は?昨年のダイハツの認証申請不正行為から次々と明らかになった自動車メーカーの認証不正問題。今年に入り、国土交通省の立ち入り検査で大手メーカー5社(トヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ)の国の型式指定の申請に必要な試験や提出データに不正・虚偽(改ざん)があった事が判明し、各社のTOPが会見を行ったりコメントを発表したりしました。ところが各社は、より厳しい基準で試験を行っているので「不正」ではなく車の安全性や性能には問題がないという認識を示しています。しかし、より厳しい社内試験にクリアしているとしても、正しい方法で試験したデータではない事も事実です。データの改ざんであり隠蔽です。自動車メーカーのデータ不正といえば、2018年にもスズキや日産、スバルなどが完成車の抜き取り測定検査の排ガスや燃費などのデータを書き換えたとして大きな問題になりました。2023年には日野自動車のエンジン認証不正問題もありました。そこに今度は川崎重工の船舶エンジンでデータ改ざんをしていたことがわかり、8月22日に国土交通省が立ち入り調査を実施しました。船舶用エンジンの燃費データ改ざんはIHIや日立造船の子会社でも発覚しています。こうも立て続けにデータ改ざんが明るみに出ると、日本が誇る「ものづくり」への信頼が揺らぎかねません。 国際航路の客船の浸水を社長の指示で隠蔽データの改ざん、隠蔽はこれまでにも何度か取り上げてきました。3年以上前のコラムになりますが、「現場のデータ改ざん・隠蔽は誰も気づけない時限爆弾」は、現場で起きるデータ改ざん・隠蔽は経営TOPにはなかなか上がってこないので注意喚起をするものでした。しかし、経営TOPがデータ改ざんを指示、隠蔽をしていた事件がこの夏に発覚しました。博多~釜山を結ぶ国際航路に就航して多くの乗客を乗せた船に亀裂があり、航行中に浸水していたことを隠して3ヶ月半も運航を続けていたのです。タイタニックやセオル号のような沈没事故、あるいは伊豆諸島の式根島に向かっていたジェット高速船が7月に千葉県の房総半島沖で航行不能になった事故などを思い出すとぞっとします。亀裂が入ったまま運航していたのは、JR九州高速船株式会社のQUEEN BEETLE(クイーンビートル)。ハル(船体)が3つあるトリマラン(3胴船)という船形の高速船で、博多~釜山間を約3時間半で結んでいます。JR九州の「ななつ星in九州」など数々の人気観光列車をデザインした水戸岡鋭治氏がデザインしたことでも話題になりました。2022年にはGoodDesign賞も受賞しています。高速船でありながらも従来のジェットフォイル(水中翼)の船よりも大型(定員502人)で、快適な旅ができると人気でした。そのQUEEN BEETLEの船首に亀裂が入り、浸水していたにもかかわらず社長の指示でそれを長い間隠蔽し運行を続けていた事が発覚、運航するJR九州高速船と親会社のJR九州が8月14日に記者会見を開きました。 親会社にも報告せず隠し通すつもりだったこの問題を公表済の情報や記者会見・報道などから時系列で整理すると、2月12日船首部分で2~3リットルの浸水を確認社長の指示で国土交通省に報告せず、法令で義務づけられた検査や修理も行わず、浸水を隠蔽したまま運航を継続。航海日誌や整備記録には「異常なし」と虚偽記載をし、「裏管理簿」を作成し実際の浸水量を日々記録していた。船内に溜まった水は港に停泊中にポンプで排水。5月27日浸水量が736リットルに急増(それまでは~20リットル程度)5月28日船首部の船底、高さ44cmに設置されていた浸水警報センサーを発動しないように1mまで上部にずらし、航行中もポンプで排水しながら運航を継続5月30日ずらしていた浸水警報センサーが発報初めて浸水が確認されたように偽装して発表、国交省に報告6月14日「船舶の緊急点検(ドック入渠)に伴うQUEEN BEETLEの運休について」とのお知らせをウェブサイトに公開。7月10日までの運休を発表7月5日「QUEEN BEETLEの運航再開について」で7月11日から運行再開を発表8月6日 国交省の抜き打ち監査があり、乗務員への聞き取りで隠蔽が発覚8月7日親会社であるJR九州へ報告8月9日「8月13日(火)以降の運休及び新規予約の受付停止について」で国土交通省による監査が行われており、8月13日から運休することを発表8月14日JR九州高速船大羽健司社長、JR九州松下琢磨常務と山根久資総務部長が会見8月15日JR九州高速船のサイトに「お詫び」を掲載という流れです。ちょうど1年前に同じ事が起きていたところが、この問題の端緒は2023年に遡ります。2023年2月12日、船首右側面の水面下約20cm付近に幅70㎜程度のクラックを確認。この際、応急処置を実施し14日まで3便の運航を継続しました。この時に報告が遅れたことで運行停止指示が出され、国土交通省が監査に入っています。3月5日に運行再開が認められましたが、6月23日に国土交通大臣から「輸送の安全の確保に関する命令」が発出されています。この時の代表取締役社長は水野正幸氏でした。7月23日までに文書により報告するようにとの改善命令に対し、経営トップの抜本的な意識改革社外関係機関への速やかな報告と相談事象発生時の継続的な最新情報の共有全社員を対象とした安全意識の醸成と定着の4つの安全確保のための基本方針及び具体的な施策の実施・計画を策定した改善報告書を7月20日に国土交通大臣に提出し受理された、と8月3日に「輸送の安全確保に関する命令」に対する改善報告書の提出についてとのプレスリリースが配信されています。 巨大企業グループでは、社長でさえも現場責任者にすぎない2023年8月3日のプレスリリースは交替した田中渉社長の名前で出されていますので、改善報告書も田中社長名で提出されたはずです。ところが、今回の記者会見に至るデータ改ざん・隠蔽を指示していたのは、この田中渉社長でした。提出した改善報告書で記された4つの基本方針は、自らが無視し何一つ実施されていなかったことになります。そして、8月14日の記者会見に立ったのは大羽健司社長でした。わずか1年ちょっとの間に代表取締役社長が2度も交代しています。恐らく2023年に国土交通省からの改善命令を受けたことで水野社長は更迭され田中社長に交代したのでしょう。それなのに改善できずに同じ事を繰り返したとなれば自分も更迭されるのは目に見えています。親会社へも国土交通省へも報告せずなんとかやり過ごそうとしたのでしょうが、結局は乗組員の告発で明るみに出て更迭されたという流れではないでしょうか。浸水している事がわかっていながらお客様を乗せ、運行していた乗組員はどんな気持ちだったでしょう?社長とはいえ、親会社のJR九州からすれば現場の責任者に過ぎず、親会社の顔色をうかがう組織人です。これは、日野自動車・ダイハツの不正発覚の際にも親会社のトヨタとの関係で同じことが指摘されていました。関係会社を複数持つような企業グループは、グループ全体での公益通報窓口を設け、隠蔽を許さない、起こさせない企業風土の醸成が急務です。