日経新聞がBCP見直しについてのアンケートを実施9月23日、日経新聞は3カ月に1回日本の主要企業の経営者を対象に実施する「社長100人アンケート」の結果として「経営トップ、大規模災害を警戒 事業継続計画見直し8割」との記事を掲載しました。今年は元日に能登半島地震が起き、8月には宮崎県の最大震度6弱の地震を受け気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を初めて発表しました。相次ぐ大型台風の上陸、長梅雨や秋雨前線に伴う集中豪雨だけでなく突然のゲリラ雷雨、さらには35℃を超える猛暑日の連続など、自然災害が全国を襲い企業活動にも影を落としています。記事にはアンケート項目の詳細はありませんが、年初から続く自然災害を背景とした企業経営者に向けたアンケートだった事がうかがえます。アンケートの実施期間は9月3〜19日、145社の回答となっています。 8割超の企業でBCP見直しを検討記事によると、アンケート実施時点でBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)策定済の企業は回答者の98.6%でした。そのうち、能登半島地震や南海トラフ臨時情報を受けて自然災害時のBCPを「見直した」企業は31.2%、「見直しを検討する」企業は52.5%でした。8割超の企業で今年になってBCP見直しが必要と判断したということでしょう。また、策定済み企業の77.1%が、大津波や富士山噴火など過酷な状況まで想定し、BCPに本社機能の移転を盛り込む企業は52.5%と過半数を超えています。近年はサプライチェーンが複雑化し、事業を継続するには取引先全体のリスクを把握することが重要として、取引先のBCP策定状況についても尋ねてあります。取引先のBCPを把握している企業は48.9%とほぼ半数で、過半数は把握していない現状も浮き彫りになっています。BCPは事業継続のための計画で、自社だけが災害被害を免れただけではだめです。仕入れ先や取引先も業務を継続できなければ事業を継続、あるいは早期の再開も叶いません。アンケートの対象企業は日本の主要企業、錚々たる顔ぶれです。このなかの1社だけでも被災し事業が止まると、その影響は広範囲に及びます。これからのBCPには取引先のBCPについても盛り込まれることになるでしょう。当然、取引先に対してもBCP策定圧力は強くなるでしょうし、取引条件に加わることも考えられます。 何処に発生してもおかしくない線状降水帯能登の記録的豪雨は9月21~22日、このアンケート実施後の出来事です。アンケートに回答したときにはあのような豪雨被害が発生するなど思いもしなかったはずです。まるで津波に襲われたような町の映像が衝撃的でした。少し遡りますが、2015年9月には上流に降った大雨で鬼怒川の堤防が決壊し、やはり津波のような洪水が家々を押し流し、広い範囲で冠水被害が出たことを思い出します。南海トラフ大地震やそれに伴う津波は想定していても、海から遠く離れた土地で洪水被害は想定していないBCPも多いのではないでしょうか。今年の夏は日本各地で線状降水帯が発生し、ゲリラ豪雨による冠水被害も多く発生しました。それでも一カ所に長時間降り続くということは少なかったので一時的な冠水被害に留まったところがほとんどでした。特に都市部の冠水は下水への排出量を超えた雨量による内水氾濫によるもので、雨が治まれば水は排出されてやがて平常に戻ります。しかし、秩父や奥多摩、丹沢など荒川や多摩川など都市部に流れ込む1級河川の上流域で能登と同じように長時間の豪雨が続き、下流部の堤防が決壊した場合にはそうはいきません。鬼怒川の堤防決壊のときのように広い範囲で洪水が発生し、数mの冠水が予想されます。このような線状降水帯の発生は日本全国何処で起こっても不思議ではなくなっていますし、予測も困難です。 2度の水害被害に学んだ福岡市2018年に中国地方に大きな被害をもたらした西日本豪雨の際には、北部九州でも豪雨が降り続き、福岡市内を流れる那珂川は氾濫寸前にまで水位が上がり、鉄道を始め公共交通機関がほぼストップし大混乱しました。ただ、福岡市はこれまで2度の水害を経験して大規模な排水施設の整備と河川改修を進めていたので、河川はギリギリ持ちこたえ、内水氾濫も最低限に抑えられました。民間レベルでもビルの入り口や地下駐車場の入り口、地下道入り口などには止水板の設置が進んでいたので大きな被害は出ませんでした。行政・民間で大雨に備え事前に対策を講じていたおかげで被害は最小限にくいとめられました。もし何も対策を実施していなければ、再び天神~博多駅周辺の都心は大規模に冠水して暫くは都市機能が麻痺していたでしょう。関東でも2019年の台風19号上陸に伴う大雨では、多摩川の支流が氾濫し水死者を出すなど大きな被害が出ました。マンション地下の電気設備などが水に浸かったために復旧に多くの時間と費用を要したことも話題になりました。それ以来、近年建てられるマンションやビルの主要電気設備などは地下の設置を避けたり防水区画を設けたりするようになっています。 BCPは見直し、毎年更新を日経新聞の「社長100人アンケート」でも明らかなように、日本を代表する企業はほぼ99%でBCPを策定し、状況に応じて見直しを繰り返しています。企業規模に関わらずBCPの策定は必須事項となりつつあります。これからは取引の条件にBCPの策定が求められるようになるでしょう。これまでもこのコラムで何度もBCPについて触れてきました。策定がまだの企業は「BCPの策定にかかる費用と期間はどのくらい?」などを参考にしていただき、早速取りかかることをオススメします。既に策定済の企業も、定期的な見直しサイクルをBCPの中に組み入れるようにしましょう。近年、気象状況も経済環境もめまぐるしく変わり、見直すたびに新たなリスクが見つかり、ハッとすることでしょう。