令和6年11月1日にフリーランス法が施行昨年11月1日にフリーランス法(正式名称「特定受託事業者に係わる取引の適正化等に関する法律」)が施行されました。個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対し、業務委託をした際の取引条件の明示、発注した物品等を受け取った日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられました。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要3つの義務のうち、ハラスメント対策として以下7つの禁止事項が明示してあります。特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること KADOKAWAに公正取引委員会が勧告このタイミングで、最近何かと話題の多いKADOKAWAと関連子会社のKADOKAWA LifeDesignに対して、公正取引委員会が下請法違反(買いたたき)を認定し、再発防止を求める勧告を出す方針を固めたと報じられました。KADOKAWAが買いたたきをした対象事業者の多くはフリーランスだったため、本来ならフリーランス法違反となります。買いたたきは、上記7つの禁止事項のうちの“②特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること”、あるいは“④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること”に該当します。しかし10月までの違反行為は新法の対象外となるため、今回は下請法を適用しての勧告となるということです。読売新聞は、このタイミングでの勧告を「国がフリーランスの保護を進める中で、立場の強い発注者による不当な圧力に対する厳格な姿勢を示す狙いがある」としています。 口頭での発注は認められない注意が必要なのは禁止事項だけではありません。発注時に書面などによる取引条件の明示が義務づけられました。発注事業者はまず、書面やメール、SNSなどで取引条件を明示しなければなりません。口頭での発注・口約束は認められません。違反すると、公正取引委員会から勧告を受け、社名が公表されることがあります。取引条件として明示する事項は以下の9つです。給付(納品物・履行業務)の内容報酬の額支払期日業務委託事業者・フリーランスの名称業務委託をした日給付を受領する日/役務の提供を受ける日給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所(検査をする場合)検査完了日(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項報酬の支払いは、成果物を受け取ったり、仕事をしてもらったりした日から60日以内の決めた期日までに支払う必要があります。 育児・介護等と業務の両立に対する配慮も6カ月以上の長期にわたる取引の場合は、フリーランスが育児や介護をしながら働けるように配慮しなければなりません。途中で契約を解除する場合、少なくとも30日前までに予告する義務もあります。また、ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じなければなりません。これまで、フリーランスという弱い立場のために、育児や介護の時間を犠牲にしながら無理をして働く実態がたびたび報道され、SNSやネット掲示板などでもその窮状を訴える声はあがっていました。フリーランス法が施行されたことで自社の従業員に対する配慮と同様に相談窓口などの体制整備も求められるようになりました。公正取引委員会では「フリーランス法特設サイト」も公開していますので、参考にしてください。 フリーランスにも責任と義務がこれまで弱い立場で泣き寝入りするしかなかったフリーランスも、法に守られて労働環境も改善されることでしょう。一方で、全て書面での受発注になることで、仕事に対する責任と義務をしっかり果たさなければならなくなります。中途半端な仕事や納期遅れなどはこれまで以上に許されなくなります。フリーランス同士での取引にも、発注するフリーランスには同じルールが適用されるので注意が必要です。また、受発注が全て紙面(あるいは電子データ)で残るので、後々様々な追跡が可能になります。これまでも、親事業者(資本関係では無く、下請法上の委託元)から提出された下請け事業者名簿を基に中小企業には公正取引委員会から「親事業者との取引に関する調査」が時折送られています。親事業者に下請法上の問題があるかどうかを確認する調査です。同様に、フリーランスに対しても調査依頼が送られるようになるでしょう。もちろん、調査をしたことや回答内容は親事業者に知らせることはありません。もう一つ、フリーランスの納税も問題になっています。クリエイターに対してイラストや音声データを有償でリクエストすることができるコミッション(有償リクエスト)プラットフォームskebには、都道府県税や年金を未納・滞納しているために、市区役所より取引状況の調査の依頼が毎月来ており、適切な税務申告と納税をお願いしますとXで訴えています。インボイス制度で適格請求書発行事業者の登録をしていなくても、仕事をして報酬が支払われれば全て記録に残ります。仕事上の義務と同様に、納税の義務も果たさなければなりません。