かつてフリーペーパーを発行していたこともあり、年末が近づくと私の手元には、電通さんから広告費についての調査依頼票が届きます。そこには、前年の「日本の媒体別広告費」の資料も1枚同封され、日本の広告費について振り返る機会となっています。 日本の広告費が過去最高の7.3兆円に2023年の日本の広告費は調査レポートとして2024年2月に公開されています。通年で7兆3,167億円(前年比103.0%)となり、1947年の推定開始以降、前年に続き過去最高を更新。その中身を見ると、昨年の選挙戦でオールドメディアと揶揄されたマスコミ4媒体は3年連続で減少し2兆3,161億円に留まる一方で、インターネット広告費は3年連続で増加し、3兆3,330億円(前年比107.8%)と過去最高を更新して対照的です。また、プロモーションメディア広告費に目を移すと、ここでもメディアのデジタル化の影響が見えてきます。かつては屋外広告といえば看板やポスターなど動かないものでしたが、今は大型ビジョンやデジタルサイネージなどネットワーク型のデジタルOOH媒体(Out Of Home屋外広告)が主流となりつつあります。交通広告も、都市部では鉄道のドア上のビジョン広告やタクシーのシートビジョンなど、こちらも広告メディアのデジタル化により動画配信が主流になってきました。デジタル化に対応できる場所やメディアは広告費が好調に推移しているのに比べ、折り込みやDM、フリーペーパーなどは対前年で減少傾向です。 訪日外国人旅行者数が過去最高を記録、掴まらないタクシー12月18日に発表された11月までに日本を訪れた外国人旅行者数(推計)では、11月としては過去最高の318万7,000人でした。これで2024年の累計旅行者数は約3,338万人となり、12月ひと月分を残して2019年の過去最高の人数だった3,188万人を早くも突破しました。京都をはじめとする人気観光地はオーバーツーリズムで交通渋滞や公共交通機関の需給ギャップ、宿泊費や外食費などの高騰も引き起こしています。東京や大阪といった大都市も観光客で溢れ、気がつけば外国人観光客が隣にいるという日常となっています。広告費の調査レポート概況でも、国内外の観光・旅行の活性化、社会・経済活動の活発化を指摘しているように、観光地でも大都市でもタクシーが掴まらなくなっています。ところで、東京などでタクシーを観察していると、側面に「GO」や「S.RIDE」「Uber」などのロゴが描かれた車体をよく見かけます。あれは配車アプリのロゴです。先日タクシーに乗ったら、運転席の周りには、4つのモニター画面が列んでいて驚きました。1つは車に備え付けのカーナビの地図、2つ目はタクシー会社の情報提供モニター、3つめは「GO」の地図端末、そして4つめは「Uber」の地図端末。それに加えて少し小さめの料金表示画面モニターがあり、運転手さんは5つの液晶画面に囲まれていました。運転手さんに話を聞くと、“外国人観光客は海外でも一般的な「Uber」を利用する人が多い。乗せてから降ろすまで全く会話する必要が無いので、言葉の心配も無くなって助かっている”と言っていました。 ライドシェアに反対のGOがメディアに圧力をかけた?「Uber」はもともとアメリカでスタートしたライドシェア。ライドシェアは一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶマッチングサービスですが、日本ではタクシー業界の反対・ロビー活動により、タクシー会社に登録(管理下)のドライバーしか営業できません。そのため、日本では「Uber Taxi」となっています。代表的な配車アプリのGOは、日本交通の子会社であるJapanTaxi株式会社が運営するタクシーアプリ「JapanTaxi」等の事業と、株式会社DeNAが運営する配車アプリ「MOV」等の事業を統合して2020年にスタートしました。そのGOに関して11月20日、「自動運転ラボ」が“GOタクシー、広告継続の条件に「ライドシェア記事を削除」 突然の通知、猶予は1週間”という記事を配信しました。“メディア側の「報道の自由」に対する圧力とも判断されかねず、上場を目指して準備をしている同社の姿勢に対し、批判的な声が上がる可能性”と指摘しました。GOを運営するGO株式会社にはタクシー最大手の日本交通が出資しており、代表取締役会長は日本交通の元会長である川鍋一朗氏です。自動運転ラボの記事では、”川鍋氏は一般社団法人「全国ハイヤー・タクシー連合会」の現会長で、同連合会は過去にライドシェア解禁を全力で阻止するといった旨の決議を行っている”と指摘しています。それに対し、GO株式会社は“当社に関する一部報道について”とするお知らせをサイトに掲載し、「報道記事の掲載中止や削除等を要請している事実はございません」と否定しました。しかし、代理店からメディアに対して、「過度な対応を要する依頼」をしたことは事実と認めています。そのうえで、このような依頼をするに至った背景や原因について、広告主である当社の意図とそれを受け止めた代理店の認識との間に齟齬が発生していることに双方とも気が付かないまま、アフィリエイトASPから各掲載メディア様に対して上記の連絡がなされるに至ったという状況が主因としてあると結論づけています。 結果として寝た子を起こしてしまった?このお知らせを読むと、“代理店が忖度し、あるいは深読みをして良かれと思ってのことだろうが余計なことをしてくれたと。せっかく今年4月に「タクシー会社しか運用主体になれない日本版ライドシェア」という形で名ばかりの解禁でお茶を濁してスタートしたのに、またライドシェアに注目が集まってしまうじゃないか!”という心の声が聞こえてきそうです。このお知らせについても、CNET Japan、ITmedia NEWSなどのネットニュースが取り上げています。その後もホリエモンこと実業家の堀江貴文氏や著名人などがSNSで様々に反応したほか、Xなどでは一般ユーザーも多くのコメントで盛り上がっています。自動運転ラボではGO株式会社の中島宏社長に単独インタビューし、GO社長が独白!「ライドシェア記事NG」事件、ちらつく川鍋会長の影 「意図せず起きた」GO社長が語る「ライドシェアとの向き合い方」 上場理由の一つに「川鍋会長の影響力排除」と立て続けに続報を出しました。この一連の騒動、何か最近似たような構図を見たなと思ったのは私だけでしょうか?衆議院議員選挙の際、裏金問題で非公認になった候補者が代表を務める政党支部に、自民党が2,000万円を支給した問題です。(森山幹事長は)党のためによかれと思ってやったことでしょうが、当事者にとってはとんでもない迷惑なことだったのと同じです。 このように、「表だってやってはいけないことを、あえて代わりにやりましたよ」と点数稼ぎしたり、先走るような行動は慎むよう徹底しないと、よかれと思って悪気なく同じような事をする者が現れます。私としては、電動キックボードを免許無しやヘルメット無しで利用許可することよりも、ライドシェアを解禁することの方がよほど社会に貢献すると思っているので、これをきっかけにこの議論は盛り上がって欲しいと思っています。